第287話 精霊たちのお願いとか・・・

 『ダーの言うなりかけの魔物では、道は完全には開かん。完全に黒くなったものが、魔法を放たんとして、魔力を出したときに、奇跡的に空間が開く、そう精霊は言っておった。』

 グレンが言う。


 彼が単に精霊と言えば、南の大陸に位置する我が国にいる森の精霊のこと。

 森の精霊は、小さなダンジョンになった森にある洞窟の奥、ダンジョンコアのお膝元で、ほとんどを寝て過ごしている。

 昔はもっと大きな存在だったけど、人が精霊を忘れたことから、力をずいぶん失ったんだって。でも、グレン達ランセルが、精霊と共にあるようになって、彼らの祈りが精霊の力を復活させた。ダンジョンコアの力も使ってね。


 精霊様は、色々と物知りです。

 というか、願いが精霊様を形作るから、願いには敏感なんだ。

 それは、人の願いだけじゃない。

 ランセルみたいな魔物や、森に咲く草花の願い、思い、感情・・・

 そういうのが、精霊を形作るんだって。

 だから、思いを作り出す物のことを本能的に知ることができる。


 『ダーの言う魔素も同じだ。願いを形にする。それが魔法であり、魔力であり魔素である。されば魔素も願いを叶える精霊と何が異なろう。』


 わかるようなわからないようなことを言うグレンです。


 そりゃね、魔法を使うにはイメージが大事で、そのイメージを具現化するために魔力を使う。魔力っていうだけあって、それは何らかの力であって、空気に含まれている酸素や窒素、水素なんかと同じ、なんだ。そういうことから魔素、なんて言ってる。

 あ、僕は良く魔素なんて言うけど、これは周りに前世地球人がいるから、って感じで、一般的には魔力が含まれている、なんて言ってる。

 ほら、大気の構成とかみたいに、目に見えない物に対してなんとなくでも理解する人ってのは、この世界じゃいないからね。あのドクですら、見えない力の理解は低いです。



 『理屈はどうでも良い。しかし、精霊たちの調べで、その奇跡的ともいえる空間が繋がる現象が、複数回起きた。こちらで成長したタールの魔物が空間を越え、我らが森にも現れたというのが、肝心だ。』


 ということらしいです。


 なんかね、南の大陸でも、タールの魔物の出現頻度が上がってる、とか、本来出現しないような、魔素の低い、すなわち、人間の生存権に近いところで、ううん、まさに人間の生存権の中ですら、出現したって報告がたくさんなんです。

 タクテリア聖王国内でも、いくつも報告されていて、ただ、僕らはガーネオが育てた、いわば養殖の魔物が、タール化までしちゃったものだってことで動いていたんだ。


 だけど、森の精霊も華の精霊も、それらは、転移の魔法陣をその身の魔力の中に映しこんだ、つまりは魔力の中に組み込んじゃったタールの魔物が、転移の魔法陣を発動させちゃって、たまたま空間を越えた、って思っているみたい。ううん。彼らがそういうんなら、それが正しいんだろうね。

 どっちにしても、元凶がガーネオだってのは笑えない話だけれども。


 『今は、精霊の加護地域にタールの魔物はおらん。だが、我が生まれ故郷の近くにも現れた。して、こちらの森。樹海と言ったか。こちらの森には、それなりの数のなりかけが散らばっておる。ダーには、これらの対処を頼むと、精霊たちからの願いだ。』


 え?


 そりゃ、精霊たちは僕のホーリーを知っているんだけどね。

 タールの魔物に今のところ効力あるのは、ホーリーだけだし。

 あ、魔力をわざと放出させて、消滅を早める、なんて方法もあるし、放置していてもいつかはタールに呑まれて消滅しちゃうから、それを静かに待つ、っていう方法だってよく知られているよ。

 ただ、それらは対処療法っていうか・・・

 てことで、僕のホーリーの即効性は、他では見られない、そういうことではあるんだけどね。


 『なぁに。屠る相手の場所は我が見つけてあるわ。行くぞ、ダーよ。』


 グレンってば、張り切っているけどどうするの。

 僕はドクやゴーダンの顔を見たよ。

 二人は、なんていうか、難しい顔をしている。

 だって、グレンが連れて行こうってしているのは、小屋よりももっと奥地の樹海だからね。下手したらセスでも知らない樹海の奥地かもしんない。



 そんなことで、ちょっと静かになった二人だけれど、グレンはそんなの関係ないとばかりに僕の襟をつかんで、放り上げたよ。安定の背中へポンです。


 「グレン、ちょっと待て。」

 慌ててゴーダンが止めたそのときだった。



 パサリ。


 パサパサパサパサ・・・・


 え?雨?


 僕はなんか、羽音みたいな音を聞き、空を見上げた。

 すると、外はなんて言うか今にも雨が降りそうに真っ黒で・・・・


 「雨?」

 「ん?雨なんて・・・・?ひょっとして、あれは魔力か?」


 僕が空を仰いだのを見て、バンミが同じように上を見上げたよ。

 同じように、そこにいる人たちは次々と空を見上げる。


 「僕には真っ黒に見える。ってことは瘴気?」


 一気に緊張が走ったよ。


 どうやら僕には真っ黒な空に見えるのに、みんなには普通の空が見えていて、でも、蜃気楼のように多量の魔力で揺らいでいるんだって。

 ドクの結界のおかげで、それで済んでるって感じ?

 こちらに侵入する気配はなく、なんていうか・・・・くるくる回ってる?


 『あるじ~、あるじ~』


 ?


 なんて言うか、ちょっと高音の舌っ足らずの声?いや念話なんだけど、そんな声が頭に響いたよ。

 グレンがこっちを見ているのを見ると、ひょっとしてグレンにも聞こえてる?


 「ねえ、誰かがあるじ~って呼んでるよ。」


 そう言ってみても、肯定したのはグレンだけで・・・


 「鳥?」

 誰かが言った。

 同行のセスの誰かが、いぶかしげにそう言ったようで。

 「羽音がきこえる。確かに鳥のような音だ。」

 なんて越えも聞こえて・・・


 『あるじ~、いますね~。手伝い、できるよ~。出てきて~』


 そんな念話と一緒に、カ~・キャ~みたいな鳴き声も届いてきた。

 やっぱり、鳥?

 目を凝らすと、結界の上空をでっかい鳥みたいな真っ黒の影が、カ~キャ~と鳴きながら旋回していたよ。

 僕がそう言う。


 「黒い鳥は見えないが、透明な鳥のようなものが何羽もいるように見えるな。」

 「あと、カ~キャ~は、聞こえるな。」


 口々にみんなが言う。

 どうやら巨大な魔力が鳥の形を形作って旋回しているのが見えているらしいです。


 『あれは・・・おお、やつらか。ダーよ。知り合いだ。雪の森で助けたバカ鳥だ。』

 そのとき、グインが言ったよ。


 『バカ鳥じゃねぇ。赤い狼グレンよ。我はワイズ様よりあるじの下へと駆け参じるよう請われた、偉大なるロンベである。』

 『ロンベ。やっぱりバカ鳥じゃないか。』

 『キィー。あるじよ~。その無礼者を無駄吠えさせず、我が前に姿をあらわしたまえぇぇぇ。』


 「ロンベ?」

 僕は初めて聞く名前に首を傾げた。


 「ロンベ?・・・確か、春を運ぶと言われる鳥型の魔物を、そう呼ぶのを聞いたことがあります。」

 セスの一人が教えてくれたよ。

 「ああ。古語に近いな。一部のエルフが光の鳥として伝えていたか。」

 別の人が答えたよ。


 「確かにのう。光の鳥、と言われればそうも見えよう。魔力の揺らぎが光に見える。」


 僕には、真っ黒い鳥にしか見えないよ。


 けど、どうやら幻の吉鳥とのことで、しかも声からも、悪意とかは感じないし・・・


 そんなみんなの表情を見ると、ドクが結界の魔導具を消したんだ。



 バサバサバサバサ


 僕らをが見えるようになったからだろう。

 身体だけでも僕より頭1つ背が高い、羽を広げればすっぽりと包まれるような、でっかい鳥が数羽、僕の前に飛び降りたんだ。


 彼らは真っ黒で、うん、まるでカラスの濡れ羽色って感じで、体型っていうのかな、形も首から下はまさにでっかいカラスで。

 でもその顔は、猛禽類のように、丸い顔には、カーブしたくちばしを持っていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る