第286話 グレンの調査

 グレンがこの辺りの魔物から聞き取った話。


 あ、別にグレンがどんな魔物にも、きちんと聞けるって訳じゃないんだけどね。

 魔物って強くなるほど知能も上がってくるんだ。

 中には、人と意思疎通できるのだっている。

 それは魔物同士も同じで、特に群れる魔物は、念話で話が出来るものも多い。

 これは、実際、僕も実感しているところ。

 だって、クッデ村の北の森で、たくさんのお友達が出来たのは、記憶に新しい話です。



 樹海ってのは、魔力が満ちた場所です。

 だから、強い魔物が多い。

 それだけ知恵ものの魔物も多いんだって。


 彼らは普通は誰かの庇護に入るときとか、群れの中では意思疎通を図るけど、関係ない相手なら意思疎通なんてしようとも思わない。

 それが普通なんだって。

 けど、グレンは僕と友達になったときに、群れのものでなくても、仲良くなれるって知った子だからね、他者と意思疎通することに、変なこだわりがないみたい。

 で、片っ端から声をかけていったんだって。(念話だけど。)


 ほとんどは、びっくりするだけで返答してくれなかったんだけど、返答してくれた魔物もいたらしいです。で、そんな魔物たちから聞いた話。



 小屋を作った人間(=ガーネオだろうね)は、おいしそうな餌(=タールの欠片)をずっとあそこに置いていたんだそうです。無くなったら追加する形でね。

 そんな美味しそうなのを食べる奴がチラチラと現れる。

 なんかね、それを食べちゃうと、あんまり動かなくなるんだって。

 見た感じでは、とっても眠くなるみたい。


 で、人間はそんな魔物をみつけると嬉々として捕獲解体していたらしいです。そんなこともあって、賢い魔物(=話をしてくれた自分たちの事みたいだね)が思うには、あれは人間の捕獲用の罠だ、だって。



 ただ、放置期間が長いと、タールを食べた魔物はタールの魔物にちょっとずつ変化したらしいそれだけじゃなく、食べなくても、タール化していく魔物のそばにいた魔物もタール化していった。

 それを人間は喜んで、たくさんの魔物を捕獲しては、タール化するようになったんだって。

 多分、これがタールの欠片と魔物を一緒に置いておいて、良い感じに魔力を多くさせるって方法で武具の素材や、高級食材を作り出すきっかけになったんだろう、ってゴーダンたちは、ふむふむと頷いていました。



 そのうち放置時間が長くなっていくと、タールの欠片を中心に、魔力が溢れてきたんだって。溢れた魔力は、魔法陣をなぞるように湧きだし、魔法陣そのものに魔力が満ちていく。

 強い魔力に惹かれた魔物は、魔力が増えると、時として、魔法陣が光って消え失せ、時として魔法陣そのものを体内に映した。

 フラフラと瘴気にまみれていく魔物は、ある時点で強い魔力に満ちた魔物ではなくタールの魔物になっていく。

 その過程で、キラリと光って消え失せるものもいたんだって。

 そのとき、キラリと浮かび上がるのは、体内に映してしまった魔法陣。

 うん。

 変なところに繋がった空間ってのは、彼らの仕業だ、って、多くの魔物が語ったらしいです。


 「魔物に魔法陣が映った?」

 ゴーダンがいぶかしげに言う。

 『全部が全部じゃない。極めて稀だが、そういう魔物も出たらしいということだ。』

 グレンが言う。


 数年っていう長時間放置されたタールの欠片と魔法陣。

 魔物のタール化は稀で、どっちかって言うと本当に強い魔力に満たされた個体になる場合が多かったらしいです。

 ひょっとしたら、僕が見れば黒い瘴気に満ちた魔物って見えるかもしれないけど。


 タール化しなければ強い魔物になっただろうし、そうはなれず、人間にもある魔力過多による病死なんてのも、少なくなかったようです。

 グレンが話を聞いた魔物ってね、多くが、魔力を多く摂取しすぎて死んじゃった、そんな魔物を捕食するために、小屋の近くでうろうろしていたってのが多かったみたいです。

 なんかね、適応できなくて死んじゃった魔物でも、普通のより十分魔力が多くて美味しいから、安全にそういうのを餌にしてたらしく、逆に言えば大半の魔物はこのコースをたどったらしい。


 たまに適応して、魔力を増大させた魔物がいて、それを超えたらタール化ってことなのかな?

 そのタール化した魔物のうちあるものはここの魔法陣に飛ばされ、またあるものは魔法陣を体内に焼き付けた。


 この体内にって言ってるけど、身体そのものじゃなくて、魔力に焼き付いたんじゃないかっていうのがドクの意見です。


 どうも魔法を使うってのは、魔力に形を与えるってことらしいんだけど、普通は無意識に魔力を魔法陣の形みたいに流しているんだって。魔法を放つのはイメージだけど、そのイメージを形あるものに編み上げるのが魔法陣であり詠唱だ、ってことらしいです。

 むしろこのイメージを具現化するのが難しいんだろうね。だって、本来無意識だもん。なんて言ったら、それは僕が独特なだけで、このイメージを具現化するのが詠唱だって突っ込まれちゃった。


 詠唱は魔力を放出する際の道しるべ。

 魔法陣の一筆一筆も、動揺に魔力の放出する道しるべ。

 本来、無詠唱ってのはこの道しるべが考えずとも出てくる条件反射的な状態を指す、らしいです。

 「でないと、人の魔力を操作なんてできないよ。」

とは、操作が得意なバンミの言葉。いつもお世話になってます。


 で、魔物に映すっていうのは、おそらく(ってドクは言ってた)その道しるべが魔力の中に組み込まれた状態、だそうです。普通の無詠唱と同じ、なんて言ってたけど、僕にはよくわからない感覚です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る