第285話 禁忌の魔法陣
「ドク?」
僕は難しい顔をしているドクに声をかけたよ。
「ん?なんじゃ、アレク?」
「それ何かあるの?」
「うーん、そうじゃのお。」
ドクはむ~って感じで小さくうなったよ。
「これは、例の転移の魔法陣じゃの。して、この四方の筒が黒い魔物の欠片を入れるものじゃろて。」
そう言いながら、魔法陣の周り、っていうか、僕には魔法陣を構成しているように見える筒状のものを指さした。
「してのぉ、この筒から伸びる外回りの魔法陣じゃが・・・」
さらに、指さすのは、筒から伸びるように書かれた線です。
僕が筒を魔法陣の構成の一部って見立てたのはまさにそれ。
内側のメインっぽい魔法陣があって、それを囲む正方形の頂点に筒が置かれてる。
で、その筒から線を引くようにして、ちょうど正方形の対角線を伸ばしたように線が出てる。その対角線はそれぞれ円型の魔法陣に繋がってるって感じです。
えっと、大きな円があって、それをすっぽりと囲う正方形があり、その正方形の頂点から線が出て、頂点の数だけ、つまり4つの円がさらに外側にあるんです。
ただね、これは他所の現場でもだけど、黒いタール状になった時点で、細かい線やなんかはわからなくなってます。滲んだマジックの跡とか、もこもこペンがくっついちゃって字が読めなくなるとか、あんな感じかな。タールになると、全体が膨れた感じになるんだよね。ホーリーで白くなるとそのもこもこ感はなくなって、元の形に近くはなるんだけど、細かい部分は潰れたままって感じかな?
「これはバルボイの奥地で見つけたのと、ほぼ同型のものじゃの。こっちがプロトタイプじゃろう。さて。転移の魔法陣がなんでダンジョン以外で使えないとされていたか、アレクは覚えとるかの?」
「えーっと、魔力が足りないからだっけ?ダンジョン内の転移陣は、ダンジョンという特殊性で魔力供給が可能だから成立する?」
「よう覚えとった。えらいぞ。ガーネオが、これをダンジョンの外でも使えるようにした。ある意味偉大じゃが、これは禁忌とすべきじゃ、なぜかの?」
「えっと、ガーネオの術式だと、魔力を人間のそれから賄おうとするから。一つの魔法陣に何人分もの優秀な魔導師の魔力を必要とする。だったよね。」
「そうじゃ。始めに使われたのは、我々が知る中では、洞窟の壁抜けじゃった。アレクもあの場にいたから覚えとるかのう?きゃつらは、距離にして人一人分も満たない洞窟の壁をすり抜けるために、この術式を用いた。片手で足らぬ優秀な魔導師の命を犠牲にして、じゃ。」
小さい頃だったけど覚えてる。
まさに僕らが遭遇した事件だったから。
確かトレネーの領都付近での出来事だったんだ。
護衛任務中に襲ってきた賊。
後日、その捜索が行われて、彼らが逃げた先は行き止まりで・・・
さらに見つかったとある崖そばの死体。
実はその崖の反対側はちょうど、行き止まりの向こう側だった、ってお話。
(作者注;本編だけでも内容はわかりますが、詳しく知りたい方は『私のぼうや』15話以降をご覧ください。)
そのあと、僕らから手が離れて、いろいろわかったこともある。
その崖のたった人一人分もあるかないかの壁をすり抜けさせるために大量の魔導師の命を賭したってこと。
その後、別の国でもこの転移陣とは遭遇したよ。
多分魔力を引っ張り出す効率が多少は良くなっていたのだろう。
僕は、ザドヴァって国で、あえて誘拐されるようにしたんだけど、そのとき、まさかの転移陣での誘拐が行われたんだ。
この頃には、必要な魔力量は距離に比例するのだろう、っていう研究は我が国でもなされていました。
てことは・・・
「この転移陣の外の魔法陣じゃがのぉ、どうやら黒い魔物の欠片の持つ魔力を転移の魔法陣に注ぐための加工に用いているようじゃと、バルボイで見つけた魔法陣からわかっておったんじゃがのう。あっちではこれの半分程度の犠牲で起動しておったが、これは初期のもののため効率がまだ低いのじゃろう。はてさて。いかほどの立派な魔導師が犠牲になったのじゃろうか。」
ドクの静かな怒りを感じて、僕はブルッてしたよ。
転移の魔法陣は魔力をたくさん必要とする。だからこそ、理屈では出来ても、出来ない魔法の一つとして有名な課題でもあったんだ。
なのに、たくさんの魔導師から必要な魔力を集めるって方法で、そのための術式を組み立てるってことで、ガーネオはそれを可能にした。
犠牲者を気にしなければ、別大陸の端と端だって繋げられる。
うん。
船や徒歩で何ヶ月もかかる距離。
それを一瞬で移動できる。まさに革命的な方法です。
ただ、それには大量の犠牲者が必要なんだ。
今、目の前にあるのは、それを実用化した、ううん、してしまった魔法陣だった。
当然、黒くなった時点でその効力は無くなっているのだろうけれども・・・・
『残念ながらそうはいかぬ。』
僕がそんな風に考えていたら、突然頭に声が響いたよ。
気がつくと、僕の近くにはグレンが立っていた。
『グレン?』
『我が精霊とここな精霊に頼まれて、いろいろ見てきたぞ。』
『?』
『以前、我が住処たる森に、タールの魔物なるものが現れておったろう。ここと繋がっている、そう言っていたな。』
『あ、この前こっちに来て繋がってるのを確かめたやつ?』
これは最近の話だね(作者注;111話前後)。北の大陸と南の大陸、離れた場所がなぜか繋がっていたってやつ。
グレンが言うには、彼らはこの魔法陣をずっと使い続けていたみたい。
で、筒の中にタールの魔物の欠片を入れていた。
このタールの魔物の欠片って僕が言っているやつは、どれもたっぷりの瘴気を含んだ物体です。で、瘴気って僕には黒っぽく見えてるけど、一般には、魔力がギュッと凝縮したもので、簡単に言えば濃い魔力ってわけ。
濃い魔力に満ちた物は、とってもおいしいです。
魔力が少ない人は、中毒症状を起こしちゃうので、食べるときには注意が必要だけれども、味覚的には大変美味しいって感じるのは、魔力の多少に関係ないんだ。
これは人間だけじゃなく、魔物にとっても同じ事。
むしろ、強い魔物になるためにはたくさんの魔力を摂取することが必要で、このギュッと魔力を濃縮した瘴気ってのは、とってもとってもごちそうだ、って映るわけ。
でね。
ここの魔法陣だけど、筒の中に入れたタールの欠片。
取扱注意の劇物でもあるってのはわかるでしょ?
グインが調べた話じゃ、使った後は、そのまま放置していたんだそうです。
お触り危険な物体は追加はするけど片付けない。
そしたらね、ガーネオが設置した結界なんてものともしないレベルの魔物は、ごちそうだ!って食べに来るんですよ。
まぁ、食べなくても、寄ってきただけで、瘴気はその魔物を侵食するからね。
寄ってきた魔物はタールの魔物になっていく。
普通のタールの魔物は自然発生的に出来た瘴気だまりの水たまりに引っかかっちゃってタール化するし、その場合はそのタールの水たまりから抜けるのは難しいとされている。最終的には水たまりが消えて動き出すんだけどね。
ただし、タールの欠片からタールの魔物になる場合、ある程度はじめから移動も可みたいです。
僕たちが見たなりかけの魔物はまさにそれ。って、この魔法陣がこの辺りの異常の元凶ってこと?
タールの魔物って、森にとってはありがたくない存在なんだって。
そりゃそうだね。木も草もタールにしちゃうんだもん。最終的には立ち枯れちゃうし。
てことで、この近くに生息する華の精霊様も、グレンの住む森で力を蓄えてゆっくりしている森の精霊様も、タールの魔物の異常発生には困っていたみたい。
この前、グレンが華の精霊と森の精霊のおかげで、異空間を移動できたってことで、今回のおかしなタールの魔物の動きも、積極的に調べたいと思った精霊様たちが、眷属の妖精たちに調査をさせてたみたいだけど、まぁ、妖精さんたちは思考もふわっとしてるからね、グレンが僕と一緒に森を調べているのをいいことに、お手伝いをお願いされたらしいです。
僕がトゼに戻ってわちゃわちゃしてる間に、グレンってば、あちこち飛び回って、色々見つけたっていうんだから、すごいよね。あっちの大陸こっちの大陸、と大活躍です。
で、その報告のために僕らのところにやってきたって事らしいよ。
そんなグレンの言葉をドクに、そして、一緒に来たみんなに伝えたんだ。
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