第279話 小屋の事後処理
グツグツグツ
ああ。良い匂いだ。
心地よい音と、大好きなスープの匂いで僕の意識がゆっくりと浮上する。
ママのミルクたっぷりのスープの匂い・・・
「あ、目が覚めた?ご飯だよ。」
もぞもぞと動いた僕の気配に気づいたのだろう、アーチャの声が少し離れた場所で聞こえた。
どうやら僕はテントの中で寝ていたようで。
普段は入ってこないグレンの大きなお腹が、僕のベッドになっていたみたい。
ペロリ
少し身体を起こした僕の顔を、グレンがでっかい舌でなめた。
僕の顔全体を包んでなめ上げるから、ちょっと大変だ。
「おはようグレン。でも朝の挨拶にこれはきついかな?」
顔をしかめた僕に、ハッハッハッと、豪快に笑う。
『うまい魔力の礼だ。寝床だけでは不足だろう。ガッハッハッ。』
いや、礼になってないし。
どうやら、寝ている間の魔力がグレンに流れていたようで、彼はご機嫌に笑っています。
それにしても・・・
臭い!
僕は立ち上がると、水を空中に浮かべ、頭をそこに突っ込んだよ。
舐められるのは嫌いじゃないけど、寝起きにこの匂いはきついです。
「なぁに、やってるの。さっさと食べる!」
テントの外から、そんな僕らをのぞき見て、アーチャがあきれたようにそう言った。
「はぁい。」
僕は慌てて、立ち上がり、ご飯のところに行くよ。
『我は、偵察に戻るとしよう。今日は、あの人間どももまた来るのであろう。』
「うん、悪いね。何かあったら知らせて。」
ぺろり
「もう、またぁ。」
グレンは、立ち上がると僕をもう一なめして、去って行ったよ。
そんな朝の風景。
どうやら僕は、アーチャの予想通り、あのまま気を失ったらしい。
あらかじめ決めていた野営予定地へと、僕を抱っこして戻ってきたアーチャは、グレンの要請で彼が入るサイズのテントを出したんだって。
もともとベッドを出して僕を寝かそうと思ってたみたいだから、十分なサイズのテントを僕から移していたんだけどね。
そのまま、グレンのお腹の上で僕を寝かして、アーチャは寝ずの番にたっててくれてたらしい。
ただ、そんなに心配はしてなかったんだって。
今までの経験で朝には起きるだろうって思って、カチカチのスープを温めてくれていたみたい。僕の一番の好物をね。
マジックバッグの中は、何でも入る。
熱々のスープだって、ね。
でもね、残念ながら取り出したときはカチカチです。
瞬間冷凍。
なんちゃって宇宙空間てことで、すべての物は瞬間冷凍されるから、ある意味、時間経過なしで保存できるんだよね。
ちなみに生きているものも入れることはできる。ただし、出てきたらかちこちだから、無事に解凍できる保証はないけど。
僕だけは、そんなバッグの中に無事に出入りできるんだけどね。
なんせこの空間を作っているのは精霊さんで、その精霊さんは僕の魔力を受け取って、この空間を作ってる。だから僕の魔力で僕を覆えば、無事宇宙遊泳だって出来るんだ。ま、怒ると宇宙空間だから、っていう理不尽な理由で、僕の周りの空気を抜いてくるんで、油断ならないんだけどね。
でもまぁ、瞬間冷凍で凍っちゃったスープは、温めるだけで、ほら、元通り。
作りたてのおいしいスープに戻ります。
良い匂いの朝ご飯。
作ったママと温めたアーチャに、そして素材になってくれた、野菜やお肉、ミルクに感謝して、
「いただきます。」
あ、我が家では僕が始める前から、日本風の「いただきます」はありました。
当然、持ち込んだのは、ひいじいさんです。
命をいただく。
そんな感謝は、どうも、前世より強く感じてるなぁ、なんて思うのです。
そんなのんびり朝ご飯を堪能して、一息ついた後、僕らはここ、小屋のところに戻ってきました。
そこは反転した世界だったよ。
昨日は、黒く切り抜かれたようで、なんだか神聖な不気味さがあった。
今は、逆に真っ白になっていて、また、なぜか風も吹いていなかったからか、ホーリーの光が消えるのだけを確認したアーチャたちも、黒かった場所には近づかなかったからか、小屋も木々も魔導具も大地だって、そのままの姿でぼんやりと白く浮かび上がっていて・・・
昨日の黒い世界はなんだかちょっぴりこわかったけど、この目の前の風景はなんだか寂しくて悲しく感じられます。
「これ、どうしようか。」
もともと、小屋の中は瘴気が溢れているんだろうって予想はつけていたんだよね。
今まで僕らが見てきたものもそうだったし、この国の過去の捜査団の様子は、魔力過多のような症状だったから、きっと瘴気の排除を僕がするんだろうな、とは思っていたんだ。
実際、白くなるけど、内緒の僕の魔法で黒い魔物の毒気を消す、みたいな話になる予定だったんだ。で、毒が抜けたら触れるよ、って教えてあげて、崩れやすくなるからそうっと持って帰るなり、研究するなり、この国の人に自由にしてもらえば良い、そんな予定だったんだ。
毒の無効化なら、そんな魔法も技術もあるし、それによって変色するってのも少なくないから、僕の魔法は特殊としても、まぁ、特別な毒に対する魔法を持ってます、で通る、っていうのが、うちの保護者連の思惑だったみたいだね。
けどねぇ。
なぜか、小屋を出て広がっているタール状のもの。そして瘴気。
それを覆い尽くして、外の木々まで影響を及ばせた、広範囲の僕の魔法。
これを見ればあの噂を知っている者は、想像しちゃうだろうね。
【樹海の白い大地の噂】を。
「来るまでに散らす、か。」
ぽつり、と、アーチャが言う。
「ええ~!」
思わず驚いて叫んじゃったよ。
「小屋ごと、白くなった木や大地ごと、吹き飛ばしてしまえば、この様子はわかんないよね。ホーリーの秘密も保たれる。」
「でも、調べるののお手伝いをするって話は?」
「そんなの、どっちにしても、昨日の段階で無理でしょ。あれじゃ誰も近づけなかった。どうせ無理なら、隠し事を優先にすべきだ。とはいえ・・・」
アーチャは、ちょっぴり思案顔です。
「?」
「いやね、全部知ってるわけじゃないけど、黒い魔物に対しての知識はセスが一番だと思うんだ。僕だってセスとして生まれて育ってきた。そんな僕でも、昨日の魔物、なりかけの魔物だっけ?あんなのの話、聞いたことがない。その原因がここにあるのなら、全部吹き飛ばす、っていうのもなぁ、と、思ってね。」
「じゃあ、このまま置いておく?」
「それもなぁ・・・」
うーん。
難しい話だね。
ここに原因があるんなら、そりゃ樹海の番人セスとしては知りたいだろうし。
アーチャだけでは、判断しづらいよね。もちろん僕だって無理だよ。
こういうときは、
「ドクに相談する?」
「だね。」
僕は、ドクの魔力を含んだ魔石を取り出し、ベルトに仕込まれた遠話の魔導具に魔力を流したんだ。
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