第280話 ドクにお尋ねしてみれば

 『なるほどのぉ。して、その結界の魔導具を作った者は、シャッセン・ドードガン。それで間違いないのぉ?』

 遠話が通じて、簡単な状況を説明した後、ストーンヘンジみたいな結界の装置を作った人の名を聞かれて答えると、ドクはそんな風に聞いてきたよ。


 『うん。確かそう言ってた。』

 『ならば、なんとかなるだろうて。その結界の装置の間隔と、小屋との距離、小屋の大きさをある程度教えとくれ。儂の隠れ家に張っているのと同じ結界の魔導具を作るから、後は・・・・』


 ドクの指示で僕らはストーンヘンジみたいに並べてある結界の魔導具とか、諸々のサイズを測って、ドクのマジックバッグに届けたよ。

 そのほかにもいろいろ指示はあったけど、簡単に言うと、ドクが作ってくれた結界の魔導具は、視界も空間も区切るから、白くなった諸々のものが風に流されることはないし、また、結界の内部を見ることも出来ないらしい。

 物理的にも魔法的にも、完全に区切れちゃう、すごい魔導具なんだって。


 で、それを、ストーンヘンジ状に並べたシャッセン博士の魔導具のうち、1つだけを結界の外になるように、ドクの結界を展開する。

 で、シャッセン博士の結界魔導具を土魔法で覆い、風の魔法で、この辺りを吹き散らす。

 そうすると、ちょっとした戦闘跡みたいになっちゃうんだけどね、それでいいって。

 土で蓋をしたのはそのままに、シャッセン博士が現れたら、これだけ守れたって言って、土の蓋をどけなさい、だって。

 ドク曰く、それでなんとなくうまくいく、そうです。

 はて?


 もう一つのオーダーは、昨日やっつけたタールになりかけの魔物を保存して欲しいってことだったけど・・・・あるかなぁ?

 ふつう、魔物だろうが人間だろうが一晩も森に放置したら、何かが食べちゃうよね?

 なんて思ってたら、グレンから念話が。

 『白い中には魔物は入ってこないから、まだあるはずだぞ。我が取ってこよう。』

だって。

 最後の、捜査団のルートになるからって白いのを吹き飛ばした場所以外は、どうやら、そのままの状態でしばらくはあったみたいです。いくつかは風の影響もあるのか、地面なんかは白いものがかなり消えていたみたいで、食べられちゃったのもいたみたいだけど、2つほど、遺体をグレンが回収してきてくれました。

 これは、合流してから渡すことになってます。


 前世時間で1時間ほどで、ドクは、結界の魔導具を作って、バッグに入れてくれたよ。


 この仲間みんなに渡した、種々多様なマジックバッグだけど、これはすべて同じ精霊の空間に収められるんだ。うん。宙さんの空間だね。

 で、この空間は本当は僕しか接触できないんだけど、一部に限り、特定の人が使えるようにしてもらったんです。

 で、その中身のすべてを僕は持ち出せるってわけ。

 まぁ、人の鞄の中身をいじるほど、僕はマナーが出来てない子じゃないからね、それぞれの中身は普通は触らない。

 けど、この機能を使って、僕を中心として、物の受け渡しが出来るようになりました。たとえばゴーダンに頼まれたものを、ラッセイの鞄に入れる、なんてことができるんだ。

 僕のイメージ的には、これはパソコンでファイルを移動するのに似ているかな?

 各人の鞄=フォルダーで、その中にファイルがある。ファイルをドラッグして別のフォルダへ移す。そんな感覚。


 ま、そんな機能を使って、ドクが作って鞄に入れた物を、僕のポシェットから出す、なんてことが出来るんです。




 僕らが、ドクの指示通り、結界を起動して、うん、まったく小屋は見えなくなっちゃったね。ていうか、これ認識の阻害もかかってる?

 よっぽど意識しないと、小屋のことが意識に上げられないようになってるのかも・・・

 ドクってばエグい魔導具をちゃちゃっと作りすぎじゃない?


 そんなことをアーチャと言いながらも、言われたとおり、結界の外にくるようにしたシャッセン博士の結界魔導具を土魔法で覆って、白くなっちゃった周りの木や土を風の魔法でビュンってします。

 近くに壊しちゃいけない博士の結界とか小屋とかがあるから、かなり緊張したよ。そりゃ、物理も魔法も通さない、とは言われてるけど、万一があると、ねぇ。



 フー。


 なんて言いながら、温かいお茶で一休み。



 変に疲れたよねぇ、なんてアーチャとお茶してたら、あ、ジェビンさんがやってきたよ。うん。セスの案内人の一人だね。


 「ここもか・・・アーチャたちは大丈夫だったか?」

 ジェビンさんが、風魔法でボロボロになった周辺を見回してアーチャに声をかけたよ。

 本当に心配そうな顔をしているから、ちょっぴり申し訳ないです。だって、僕たちがわちゃわちゃと魔法でとっちらかしたんだからね。


 「ああ、問題無い。で、そっちは何かあったの?」

 アーチャが逆に質問したよ。

 ジェビンさん、なんか、かなり焦った感じだったから、僕も何かあったのかなぁ?って、ちょっと気になります。


 「この手前で戦闘痕らしきものがあってな。ここと同じさ。どんな暴れ方をしたのか、木々がちぎれて荒れてるんだ。ちょっとした広場になってる。」

 アハハハハ・・・もしかしなくても、なんだか身に覚えが・・・・

 僕とアーチャは、顔を合わせて、アハハハって乾いた笑いを出すしかなかったです、はい。


 「おまえら、ひょっとして・・・」

 あ、ジェビンさん、頭を抱えちゃった。

 「あー、何というか、ま、証拠隠滅、かな?ヘヘッッ。」

 アーチャが苦笑いしながら言う。

 「にしたって、あれだけの破壊・・・って、あそこで戦ったのか、ホーリー使って。」

 ジェビンさんが僕にロックオンして言ったよ。

 「まぁ、そうかな?」

 「怪我は?」

 「それは大丈夫。」

 「あの黒い魔物のなりかけ、複数いるって言ってたけど、本当だったのかよ。」

 「えー、嘘だと思ってたの?」

 「いや、そういうわけじゃないけどな。」

 何気にジェビンさんもひどいです。


 「ジェビンたちが見たのは、その跡地だよ。魔物退治じたいは一瞬だったけどね、どうしても白い跡が残っちゃうだろ?セスとしても、あれは、評議会に渡したくないと思ってね。」

 そんな僕たちの会話を見て、アーチャが言い訳に入ってくれたよ。


 「そう思っても、あれだけの破壊、普通はできねえよ。ま、そういうことなら、ひょっとしてここも?」

 「ま、そんな感じ。実は、あの向こうに小屋があるんだ。真っ白になってね。」

 「・・・どういうことだ。」

 「我らがワージッポ・グラノフ博士の結界さ。彼もこちらに向かってるし、状態が状態だから、セスの判断に任せたい。てことで、小屋とか、その他諸々は隠させてもらったんだ。」

 「そうは言っても、連中、納得するか?」

 「多分大丈夫だろうって。」

 「なんだ?博士と連絡取ったのか?どうやって?」

 「それは悪いけど、うちのパーティの秘密。」

 「おまえなぁ。ま、それは仕方ないか。で、本当に大丈夫なんだな?」

 「と、我が大賢者様は言ってた、ねぇ、ダー?」


 仲良く、元知り合いらしい二人はそんな風に話していたけど、最後に僕に振らないでよ。

 本当に、シャッセン博士が来たら魔法を解いて彼の魔導具を見せればなんとかなる、なんて、どんな魔法か僕にもわかんないんだから。


 「はぁ。ドクはそう言ってたよ。」


 僕ら3人、互いに顔を見合わせて、やれやれって感じで首を横に振ったんだ。

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