第274話 陛下の提案?

 「王子を差し出したからそれで意をくんでくれ、という体の良い人身御供ではないですかな?」

 手紙で陛下が申し出た僕に関してのことに、否定したらしい言葉。

 いったい何の話か、僕は聞いてないけど・・・


 「せっかく王子のお力が借りられるのですよ。人身御供だなんて、そんな滅相もない。ですよねぇ、殿下?」

 「えっと、話が読めないのですが。」

 「ああそうでしたはね。内容はご存じない、と。判明している樹海のアジトのことですわ。あそこの捜索には、実際、手を焼いているのです。生憎と捜索に参加した多くの者が身体の異常を訴えて、今は、立ち入り禁止状態となっています。ええ、タクテリア国王のご指摘の通りに。国王によりますと、殿下がいれば安全に捜索が可能で、タクテリア聖王国にて、十分な実績があられるとか。どうかご助力くださいませね。」


 ・・・・


 そういや、樹海の中に入って小屋を建て、何やらやっているガーネオをレッデゼッサ商会の人が見つけて、勧誘し、今回の事件に繋がったんだっけ。

 怪しい人が樹海にいる、っていうのは、セスでも問題になっていて、調査がされたってのも聞いた。

 セスも多分その小屋を見つけていたはずだけど、そもそも樹海は魔素の濃度が高くて、入るには許可がいるんだ。危険だからね。

 魔力が多い人間でないと、そもそも活動できる場所じゃないんだって。

 そんな中で、さらに瘴気から魔力を引き出そうと研究してたって聞いたし、そりゃあ、小屋自体、すごいことになっていそうです。


 僕なら・・・・うーん、問題無いかも。


 でもね、僕がそういうお手伝いするよってお手紙書いたんだったら、はじめっからそう言ってくれれば良いのに。

 僕、タクテリア聖王国では、いくつか、あの手の場所、お掃除もしたよね?

 やらない、と、ごねるとでも思ってるのかなぁ・・・

 お願いしたらやるよ?

 冒険者として依頼してくれたらなおさら・・・って、これかぁ・・・

 冒険者としてじゃなくて王子が、ってところなのかなぁ。



 『アーチャ、捜索って聞いてた?』

 僕は念話で聞いてみた。

 『いや、僕は知らない。あえて知らされなかったのかも。たしかあの手紙、プジョー殿下から渡されただろ?』

 『うん。』

 確かに、簡易の任命式で辞令とか依頼書とかと一緒に預かったものです。


 『あの人、なんだかんだ言って、過保護だからね。むしろプジョー殿下にこのことを内緒にしたかったんじゃない?そんな内容が入っているって知ってたら、あの人、手紙を破り捨ててたかもしれない。』

 『まさか。』

 『マジだって。あの人本当はダーが宵の明星にいるのも反対なんだからね。冒険者なんかやめて王宮で愛でられるべき、なんて、ことあるごとに言ってるよ。』

 『何それ。そんなことされたら僕、速攻、王子やめる!』

 『それがわかってるから、ダーには言わないんだって。』


 苦笑するアーチャだけど、確かにプジョー兄様は僕をすぐに小さな子扱いするし、でもそれは8歳も上だから、仕方ないかって思ってたんだけど・・・

 王家の兄弟はちょうど2歳ずつ違う。

 でも僕はさらに一番下のポリア姉様から4つ下。

 だからどうしてもお子様って思われちゃうんだろうね。

 危ないことはさせず守るんだ、なんてね。


 でもだからって、内容は内緒って、報連相って知ってます、陛下?

 今の状況は・・・

 って、決めるのはこの国の人か。

 僕としてはどっちでも良いんです。



 あのね、樹海のアジトって、基本的にはレッデゼッサと合流する前に使っていたものでしょ?

 もう数年前の話です。

 あの樹海ってね、植物の育つ速度が、もう魔法です。

 小屋なんか、すぐに呑まれちゃうよ。

 危ない瘴気まみれのものも放置していたとしても、そんなにかからずに樹海に同化されちゃうだろう。

 少なくともセスはそのつもりで放置することにした、そんな話を以前誰かとしたっけ。


 けど、セスの決定とは別に、国としては動いたのかな?

 この国でもタールの魔物を使う人は昔からいるみたいだし、研究成果とか欲しくて、探ったんだろうね。

 それで被害が出ちゃったのかなぁ。

 そんな話はセスから聞いていないけど、ウィンミンさんの顔を見ると知ってたみたいだね。



 こんな風にアーチャとお話ししているのは、評議員の人たちもなんだかんだ話し合っているからです。


 そうだよねぇ。議会とかってなかなか結論でないよねぇ。

 文化祭の催しを決めるのでさえ、なんかやたらと張り切って、議論しちゃう人がいた・・・気がする。

 なんか、そんな前世の記憶が浮かび上がってきたのは、なんていうか、学校での学級会みたいなレベルで喧々諤々みなさんがやっているからだろうなぁ。こんなんで話し合いは決まるのかなぁって思いつつ、でもなんか知ってる雰囲気、なんて思ったから記憶が浮かんだのかもね。


 それにしても、自分の意見を言うのはいいけど、人の話も聞こ?

 そして、落とし所っていうか、良い感じの結論、だそうよ。

 どう見ても、互いに言いたいこと言ってるだけで、話し合う気ないんじゃない?


 はぁ。


 まぁたおんなじこと言ってるよ。


 噂では僕の魔法はドクをもしのぐ?

 そんな噂は嘘に決まってる。あの髪を見たら、将来そうなるだろうという希望的観測だ?

 陛下が僕の能力を理解した上で、捜索に貸し出す提案をした?

 陛下は実の子ではない僕を危険地帯に送ることで、誠意を演出しただけだ?

 僕は実はセスの子だ。だから、この国の子で、返すから代わりに例の犯罪者を渡せ、という意味だろう?


  エトセトラ・・・etc.・・・


 いや、何の推測だよ、って言うのもあるけど、それを本人の前で議論するってなんなんだろうね。


 僕は疲れた顔をしちゃったのかもしれない。

 僕の後ろで座っていたウィンミンさんが、立ち上がって、軽く頭を撫でると、スタスタって議長さんのところへ行き、なにか耳打ちしたよ。

 そしたら、議長さんは、ハッとした感じで僕を見て、慌てて頭を下げたんだ。


 パンパン


 議長さんが両手を叩く。拍手みたいにね。

 すると、ああだこうだって話していた評議員さんたちが何事って感じで議長さんの方に注目したよ。


 「あぁ、皆さんがいろいろ討論するのは良いことです。が、まだまだ議論は出尽くしていない模様。結論を肝心のアレクサンダー殿下にも共有したいところではありますが、こちらは結果だけでよろしいかと。」

 そういえばそうだね、なんてみんな頷いてる。


 っていうか、今のは議論を出し尽くそうとした話し合いだったの?

 ちょっと、びっくりです。



 そんな評議員さんたちの表情に満足したように議長さんは大きく頷くと、僕を見たよ。


 「本日はお忙しい中ご足労いただきありがとうございました。今後近々にくだんの小屋を捜索いたしますが、それに殿下もご一緒いただくかどうかの結論は、今しばらくかかりそうです。もしもご一緒いただきたい、という結論になりましたら、お願いできますでしょうか。」

 「うちの陛下の申し出でしょう?もちろんお手伝いさせていただきますよ。」

 「ありがとうございます。では、結論が出次第、殿下にご連絡申し上げます。詳細は文官でつめさせていただきとう存じます。その折には何卒よしなにお願いいたします。」


 僕は頷き、アーチャやウィンミンさん等、僕に付き添ってきた人たちと、議場を後にしたんだ。



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