第272話 陛下のお仕事
なんだか精神的にとっても疲れたロッシーシさん主催のパーティー(と模擬戦)の後の数日は、まぁ、たいして言うべきことはなく・・・
トゼの町の散策をしたりとか、ウィンミンさんお勧めのちょっとしたお茶会(夜会なんかも呼ばれたみたいだけど、調整が難しいので、僕が子供だってのを理由に断ってくれてたみたい)とか、ギルドに行って預けてるレッデゼッサ一味の視察とか、まぁ、そんなことをして数日過ごしたんだ。
その間で特筆することって言ったら、やっぱりサラムのことかな?
彼は、パーティーで伸びちゃったんだけど、そのままどこかの牢へと運ばれたらしい。
どこかって言うのは、この国の体制がややこしいから、はっきりしないんだよね。
彼の属する部族の屋敷か、はたまた評議員用のどこかの施設か・・・
一応合議制っていうの?
この国のいろんな事は評議会で決められる。
それは犯罪関係でも同じで、罰則は
トゼの場合は、共有の町みたいになってるから、それこそ合議で決まる。
基本的には、被害者と加害者の所属する部族と、犯罪が行われた町のルールをすりあわせるような裁判みたいになるそうです。
で、今回の場合、トゼだからトゼのルールで。被害者が僕やタクテリア聖王国というか、この国以外のすべて?それとセスだね。ただ外国人や外国そのものなんていうのが当事者として話し合えるはずもなく、そこは重要性を鑑みて、評議会自体が被害者側として話し合う、みたいなことになるんだって。
とまあ、一応の理屈はこんな感じ。だけどね、いちいち本当に話し合うかっていうとそういうことではなく、そんな犯罪の話し合いを一括で受ける官庁があるらしい。内容は違うけど前世での裁判所みたいなやつ。
で、その官庁が事実を調べて関係者から聞き取りをして、前例とかもろもろを考慮して罰を決めるんだって。
どういうことだ、って?うん。僕もよくわかんない。
とりあえず、そういうことをする役所があって、サルムの刑罰が決められた、とのことです。
ちなみに、途中経過として、『一番の被害者はアレクサンダー王子とタクテリア聖王国だから、身柄をタクテリア聖王国に渡す。煮るなと焼くなと好きにして良し』、なぁんて言ってきたらしい。つまりはタクテリア聖王国のやり方で極刑にしてね、みたいな感じ?
いやいや、僕ら犯罪人の引き渡しをお願いしにきてる使節団ですよ?これ以上、持って帰る犯罪者増やすなんてとてもとても。
てことで、この刑罰はこっちは全く嬉しくないから、そっちで良いように裁いてくれ、みたいなやりとりが、文官さんたちであったみたいです。
そういうことで、次にセスに、前線送りで使って、みたいな感じで打診されたみたいだけど、むしろ邪魔、ってこれも断わられたって。
結局は僕ことアレクサンダー王子が死ぬまで、開拓団にて労役を課す、なんて刑になったそうです。何?僕が死ぬまでって?
これを聞いたとき、僕を暗殺して刑期を早めようとするんじゃないか、なんて、焦っちゃったよ。でもこの国の人に聞いたら、どうやらこれは、昔にお礼参りって言うのかな?刑期を終えた人が逆恨みで被害者を襲うなんてことがちょくちょくあったらしいんだ。で、前世で言う「無期懲役」の慣用句的な言い回しなんだって。
だから実際は、僕が早死にしても、労役は残るそうで、こういう言い方の刑の場合、その人の種族の暫定寿命って言うのが決められてて、最低その期間は刑が終わらないってことになってるそうです。ちなみに僕のような人族だと100年が暫定寿命なんだって。僕が10歳だから、最低90年近くは刑期がある、らしいです。ホッ。
ただ、なんていうか重いね。
好きな子がいて、その人を手に入れるためにバカなことをしちゃった報いが、開拓団送り90年。そりゃ、相手が外国のVIPなわけで、いろんな意味でその場で切り捨てられても文句言えないかもだけど、なんか重いです。
ちなみに開拓団っていうのは、この国では刑罰になるぐらい大変な集団なんだって。
なんでもね、人の住む地を少しでも広げるために、森とかの大地を切り開くんだけど、この北の大陸は、セスの樹海みたいに維持がやっとの場所も少なくない。僕らの住む南の大陸よりずっと危険なんだ。大地や空気に含まれる魔素だって多いし、魔物は強い。普通の人が出向くには、危険すぎる場所。だからこその犯罪者の受け口になっている、そういうことだそうです。多くの受刑者が魔物との戦いで亡くなり、またそれを上回る人が魔素中毒で命を落とす、刑期はあって無いような・・・
僕たちがトゼに到着して6日後。
やっと、僕たちは評議会に招待されました。
ほとんどは、こっちに駐在しているタクテリア聖王国の外交官が調整という名の話し合いを終わらせて、まぁ、本当に最後の儀式、みたいな感じで、僕は呼ばれたんだけどね。
僕がわざわざ王子としてここトゼを訪れた理由。
それは、この国でも犯罪行為になることをしてきた、つまりはタール状の僕が言うところの瘴気を使った危険行為を行ったレッデゼッサやガーネオたちの身柄を、我が国に連れて行く許可をもらう、そのための前座としての挨拶、ってことだね。
ちなみにこの世界では、国際法なんてないし犯罪者引渡条約なんてものもない。各の国が自分のルールで犯罪者に対している。
基本的には、自分の国の土地で行われた事に対して、何を犯罪にするかを決める、っていうのが暗黙のルール。っていうか、逃げてきた人を守るも罰するも元の国に渡すも自由っていうのが、この世界の人にとっては法以前の常識的な感覚なんです。
この理屈だとね、もしタクテリアの人が騎士だろうが王子だろうがもちろん冒険者だろうが、勝手に他国(=タクテリア)で犯罪を犯したからってこの国まで追いかけてきて、拘束したり殺したり、なんてするのは、非常識ってことになるんだ。
まぁ、相手から攻撃させるようにして、返り討ち、みたいな感じで殺しちゃうっていう、なんていうかグレーな対処法があるにはあるんだけど、身柄を連れてくるとなると、それは難しい。なんたって、拘束+拉致、ってな扱いになるからね。
レッデゼッサたちには国としても聞きたいことがいっぱいあるんだって。
まぁ、瘴気の扱いとか、国として知っておきたいことがあるんだろうね。
だから、とにかく連れて帰りたい。
次期皇太子がほぼ確定していると思われてる第一王子のプジョー兄様を使節団のトップにするにはそれだけの理屈があるんだ。
もちろん我が国が欲するように、ここナスカッテ国だって、そんな瘴気の知識は欲しいだろうね。
直接的な被害は少ないとはいえ、彼らがこの国でも活動していたっていう事実もあるし。自分のところで裁く、って言い張れば、国同士の取り合いになっちゃう。話し合いという名の外交でなんとかしたい、というのは、どっちの国も考えてるってことで・・・
「このたびは、貴重な時間を作っていただきありがとう存じます。これはタクテリア聖王国の王たる我が父ティオ・ジネミアス・レ・マジタリオ・タクテリア陛下より、貴国に対する書状でございます。後に我が兄プジョー・レ・マジタリオ・タクテリア第一王子が参りますが、先触れとしてここに
僕の後ろに控えるアーチャが陛下の書状を、秘書っぽい人に渡す。
口上はちょっと練習したよ。
僕はね、王子といっても第三王子。しかも養子だってのは知られているからね。まぁ、ほとんどここに並ぶ外交官と身分だって変わらないって思ってる。へりくだるもなにも、全員僕の何倍も生きている人たちだ、国を運営する偉い人ってだけじゃなく、そういう意味でも、目上の人って思ってるから、僕的にはあたりまえな感じです。
まぁね、これを提案されたとき、ちょっとへりくだりすぎたかな、なんて最初は思ったんだけどね。ウィンミンさんが、サラムのやらかしで評議会はかなり動揺してて、とにかく僕をおだてよう作戦が決行されているようだから、ってちょっぴり悪い笑みを浮かべたんだ。
なんて言うのかな、持ち上げようと思っている相手から、過剰にへりくだられたら、余計にびびる、そうです。
「え、でもこの国の人たちって、表面はどうでも、内心はサラムと同じでしょ?タクテリア聖王国なんて軟弱な逃亡者が作った蛮族の国だし、僕はそんな蛮族のクソガキだって思ってるんだよね?」
脅しもあるだろうけど、セスの人とかが、そんな風に教えてくれたよ?
「やあね、ダーちゃんを一目見たら、そんな思いなんてぶっ飛んじゃうわよ。こんなにかわいいのに、あんなに強いなんて反則よねぇ。だからみぃんなびびっちゃったんじゃない。フフフ。」
とは、ウィンミンさんをはじめとするセスのお姉様方の意見・・・
びびる、ってなんだよーって思ったけどね、なんていうか、僕への警戒心は、この前の模擬戦でうなぎ登りなんだって。さすがはドクに魔法を、ゴーダンに剣を鍛えられた麒麟児、なんて、びびられちゃったらしいです。
ま、何にせよ、あれで僕は敵対するより取り込んだ方がいい人っていう認識を評議員の人たちの共通認識(ま、全員とはいかないけどね)にできたそうで・・・
とりあえず、陛下からのお仕事は、無事達成できそう、かな?
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