第270話 模擬戦、始め!

 う、うっすぅ~~~~~っ!

 僕は、心の中でそう叫びながら、しれっと立っているアーチャを見た。


 ここは、ロッシーシさんのお屋敷。

 ていうか、セスの代官屋敷。

 パーティーが開かれていたお屋敷のお庭。っていうか、訓練場です。


 パーティーも宴もたけなわって言うの?余興が始まります。



 僕とサルムがお着替えに退場したあとは、どうやらアーチャママのウィンミンさんが中心に声をかける感じで、ダンスが始まり、また立食パーティーの様相が(表向きは)復活してたみたいです。

 一応僕の歓迎会、的なものだったし、参加者の多くは、僕を見て判断してやろう、なんて考えていたようだから、そんな主役の僕がいなくなって、アーチャが代わりにターゲットとなっていたみたいだけど、それはそれで互いに良かったのかもしれないです。だって、アーチャってばこの国だと(噂の)セスの次代の要、なんて思われてて、そのうち、この国の社交で引っ張りだこになる予定、だったみたいだからね。ちなみに、そうなるのは、エルフの血が濃い彼ならば100歳は超えないと、って感じだから、と、2,30年も前倒しで接することが出来て、情勢狙いの人たちにとっては、ラッキーな機会だった、ってことでした。ま、当のアーチャは興味なし、って感じで、でも、僕が(この国にとっての、だよね?)非常識な言動をしないようフォローするってお仕事がなくなって楽できた、なんて言ってたけどね。

 どっちにしても、決闘だ、模擬戦だってもめてる僕とサラムが一端退場し、その間、曲がりなりにもパーティーが続行されていたわけで、そんな中、着替えた僕たちが戻ってきたから、まさに宴もたけなわの中、余興が開かれよう、ってところなんだけど・・・




 セスは、ドクという天才を出したことからもわかるとおり、魔法だけじゃなくて魔導具もそれなりに充実してます。

 だから、その代官屋敷の訓練場にはちゃんと結界の魔導具も設備されていて、訓練で壊れないように簡易結界は張れるようになってます。

 けどそれは、どっちかっていうと、お屋敷に流れ弾が飛ばない用のもの、って感じだけどね。

 だからそれを張ったとしても、普段の訓練と違い、見物人の人がいて危険てことで、簡易の見物席と、闘技スペースの間に、今は、アーチャが結界を張ってます。


 それがね、うっすいの。

 アーチャの能力不足って訳じゃなくて、普段ならもっとしっかりしたものを張れるよね。確かに大きな結界だし、ほぉっとか感嘆している人もいるけど、あきらかに薄いよね?


 僕は訓練用の木剣を片手に、いつもの冒険者用の格好をして、闘技場の中央に移動しつつ、アーチャに不満の目線を送ったんだけど・・・・


 『無駄な労力は使わない主義だって知ってるでしょ?彼相手にならこれで十分。ダーは攻撃に魔法は使わないんでしょ?ダーの剣戟ならこれで大丈夫。木剣なんだし・・・』

 いやいや。僕は木剣だけどね。

 ほら、相手は・・・


 チラッと僕は視線を相手に向ける。


 目の前の相手は、エルフだって言い張ってるけど、どっちかっていうと、ドワーフみたいな体型をしていて、それが人族とかの成人男性ぐらい大きくしたって感じ。なんていうか、前世の日本人なら誰でも知っている世界チェーンの唐揚げを作るアメリカ人のおじさん=カー○ルさんの体型をちょっと大きくした感じ。縦に一回り横に二回り、かな?

 ちなみに今は、彼の人形と同じように白をベースにした、でも、もっと飾りをいっぱいつけた騎士服、しかも儀礼用、みたいなのを着てる。

 髪はよく言えばモスグリーン、悪く言えば乾燥した苔。

 土を中心に風魔法ってところかな?けど、色はそんなに濃くない。


 で、持っているのは、でっかい杖?先っぽに多分魔石かな、が付いた台座があって、その台座の上には何らかの金属の刃物が付いてるよ。

 なんて言うか、槍の変形なのか、杖の変形なのか迷うところ。

 長さは彼と同じくらい。


 ちなみに僕の身長は、彼のおへそ、は超えてるよね?目線がおへそだし、てことはおでこから上がはみ出してるはず。うん。おへそよりは背が高い。高いったら、絶対高いもん。


 そんな僕は、僕には十分に剣といえる、でも多分短剣として訓練場に用意された木剣なんだけどさ、そんなのを持っているだけ。


 絵面、すごくない?


 そんなだから、サラムの武器を見て、アーチャの結界強度に僕がクレームをつけるのは仕方ないと思うんだ。


 『だから大丈夫だって。』

 へへーん、って感じで、アーチャは言う。

 知らないよ?

 僕は壊さないように力を押さえなきゃって思えるけど、あの人、全然アーチャの結界に気づいてないみたいだけど?


 風属性のアーチャの結界は、空気に層を作る感じで、空間を分ける。

 だから、視界がほとんど遮られることはないのが利点なんです。地属性の結界なんて、土壁みたいなもんだから、視界確保が一番の課題だもん。


 でも風属性の場合、厚くするほど視界がねじれる。だから見物には必要最低限の厚さにする、って理屈はわからなくもない。

 アーチャは無駄な労力、なんて言ってるけど、魔力抑えて均一に薄くする方が労力がいるのは僕だってわかる。だから、アーチャが言う、労力を押さえるためって言うのは冗談だ。あれは、僕にこれを壊さないように戦えって言ってるんだとは思うけど・・・

 やっぱり僕は、相手を見てしまう。

 どう考えたってあのガタイであの槍もどきを振るったら、結界壊れるでしょ?

 知らないよ、僕。



 「ふん。クソガキが。逃げずにきたことは褒めてやろう。しかも律儀に木剣、いや木の短剣一本とはなぁ。ガハハハハ。まぁ、彼我の差をわかって、あえて訓練用の玩具で対峙するとは、よく考えた、と言ってやろう。これだけの差があれば、どんな上等な剣を持っていても、変わらんからなぁ。どうせ負けるなら武器の差で負けた、と言うつもりなのであろう。まったく姑息な負け犬の考えそうなことだ。ガハハハハ。」


 あちゃぁ。

 なんか勝った気でいる、かわいそうな大人がいます。


 「おいおいクソガキ。今更保護者をチラチラ見て、止めてもらおうってか?蛮族の王子かなんか知らんが、この決闘は貴様の責任。それが大人の社会ってもんなんだぜ。そのちっこい身体に俺様が教えてやる。常識ってやつをなぁ。いいか、これは決闘だ!この俺が勝って、ライライ様の寵愛は、この俺がいただく!」


 僕が、アーチャを見て念話を送っていたのを、助けを求めた視線、と勘違いしているようなサラム。ていうか、まだライライさん狙いなの?欲しけりゃ勝手にすれば?て何度も言ってたのになぁ。今は外交問題になりかけで、それを反故にするためにも、僕は王子でなく冒険者として、しかもパーティーの余興、って形にしてるの、わかんないのかなぁ。

 はぁ。

 僕はあんな大人にならないぞ、って固く決意しました、はい。



 「では、両者の模擬戦を行う。サラムが勝利の場合には、ライライ女史への婚姻申し出の権利およびこの騒動に対する処罰の軽減の申し出をアレクサンダー王子より行う。アレクサンダー王子勝利の場合にはサラム個人の処罰の要請およびタクテリア聖王国そしてセスへの謝罪をサラムより行う旨、双方相違ないな。」

 「ええ、それで。」

 僕は審判役のロッシーシさんにそう答えたけど、サラムはギラギラした目で僕を見ながら言った。

 「何でもいい。どうせ俺が勝つんだからな。」


 ロッシーシさんのやれやれ、という表情を見つつ、僕は所定の位置まで下がる。

 ロッシーシさんも結界の外まで出て「はじめ!」と言った。


 と、同時に所定の場所まで下がることもしなかったサラムが、

 ウォーーッ!

 と野獣もかくや、という声を出して僕に向かって突進!

 ?

 突進?

 まぁ、本人的には突進、かな?

 ドシドシと僕には牛歩か、って突っ込みたくなる速度で槍を小脇に抱えて走ってきた。


 彼我の差は、彼が所定の場所まで戻らずに、中央対峙場所から突進したので彼の足で


 1歩

 2歩

 3歩 で 突きっ!!


 たった3歩と槍の長さで僕のいる場所へと届く距離。

 僕は、所定の場所で木剣を構えるだけ。

 その場で正対し、そして


 軽く身体をひねると、槍の先の刃物は僕の身体を通り越し、

 ガスッ

 と地面を突き刺した。


 彼の身長から、多分僕の心臓辺りを狙った一撃。

 当然、斜め下に向かって突いたから、僕を突けなかったらこうなるのはあたりまえ。


 それでも、地面をさした勢いで、彼は蹈鞴たたらを踏む。

 ケンケンをするように、大きな身体を揺さぶって前のめりにバランスを崩した。


 「うわぁっ」

 その巨体が倒れ込んできても、しかし、その槍もどきは良い素材を使っていたのだろう、彼を地面にはじくと、ビヨンビヨンと、大きく地面に刺さったまましばらくの間揺れていた。

 


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