第269話 運動しよう

 生意気かもしれないけど、僕は負ける気、しないんだよね。

 見た目はおじさんだけど、ほとんど田舎から出てきたルーキーのお兄さんたちと同じ感じ。なんて言うか、根拠のない自信?みたいな。

 だからか、なんとなく、気持ちはギルドからのクエスト=お兄さんたちをコテンパンにやっちゃって、と同じ感じなんだよね。



 なんて、偉そうに言ってるけど、なんていうか、僕、かなりストレス抱えているみたいです。王子をするのは、やっぱり向いてない。ううん、好きじゃないって言うべきかな。いろいろ影響を考えてお話ししたり行動したり、とっても窮屈。


 だからね、ちょっぴり悪いと思いつつも、ストレス解消にさせてもらいます。


 「ダー。僕が結界を張るけど、壊さないでよね。」


 アハハハ・・・アーチャにはすっかりバレているようで、僕が、簡単にお着替えをして戻ってくると、この館に作られている訓練所みたいなところに案内されつつ、そんなことを言ってきました。



 あ、そうそう。

 ちなみに余興って形で、模擬戦をすることになりました。

 一人サルムは決闘だって喚いているんだけどね。僕が、好きな武器を使って良いよ、って言ったから、どうするのかなぁ、ってちょっぴり楽しみです。


 ていうか、ちょっと前の話。僕が模擬戦を提案して、サルムが決闘だってごねてるところに、正真正銘の評議員ドガメヌ卿=サルムのおじいさん らしい人が飛び込んできたんです。

 どうやら誰かが事の次第を慌てて伝えに行ってたらしくってね、来るなり、僕に臣下の礼みたいなのを行って、サラム廃嫡、なんて言い出したんだ。彼だけを切り捨ててここを納めようっていうのは調子が良すぎる、なんてパリミウム卿やロッシーシさんたちは顔をしかめてたけどね。


 ただ僕には、よくわかんない話です。

 喧嘩を売った相手から喧嘩を買う、それだけなら簡単なんだけどねぇ。


 「僕は見習い冒険者のダー、宵の明星のダーです。このパーティーの余興で、喧嘩を売ってきたおじさんと模擬戦をするって話だったと思うけど、違うのかなぁ。僕としては難しい話は興味がないです。アレクサンダー王子は、疲れたから帰っちゃったってことにしてもらって、その面倒なおじさんと模擬戦しても良いですか?そうだなぁ、僕が勝ったら、みなさんにアレクサンダー王子のお使いがうまくいくお手伝いをしてもらえれば嬉しいです。僕が負けたら・・・えっと、サラムさん、どうして欲しい?」

 「!・・・・ライライ様の前に2度と現れるな。」

 「え?そんなのでいいの?全然okだけど。」

 「何ですって!勝手なことを言わないで!私は殿下をお慕いしているの。あなたなんかにそんなことを言う権限なんてない!」

 ハハハ・・・なんかライライさんのとんでも発言です。

 でも、本当に僕、ライライさんのことをそんな目で見れないし、見れる日が来そうもない、って思うんだけどなぁ。アーチャと顔を見合わせて深くため息です。


 「ライライよ。殿下の様子を見よ。今のところ脈はない。諦める必要はないが、まだ時は満ちておらんよ。」


 いや、諦めてね。


 ライライさんはパリミウムさんの言葉に、

 「いいえ、なんとしても我が家にはあの血が必要です。」

 なんて、小声で答えているよ。

 よく見れば赤みがかった藤色の彼女の髪は、濃いめのパステル。とってもきれいで僕なんかはうらやましいけど・・・うん、と言っても良い色だと思う。つまりは魔力量に問題あるんだろう。とは言っても、大貴族には心許ないってレベルだろうけど・・・・


 以前バフマがね、従者つながりで聞いたって話を思い出したよ。

 彼女は僕のファンで友達になりたいって思いつつ、へりくだれなくて色々難しいって。僕の昔の行いを見た彼女の従者から、物語のヒーローを僕に夢見た、夢見る乙女だって。

 でも、それだけじゃない。自分の家が、彼女の父を見てもわかるように、子供が出来ず、跡取りの憂いがある。そこにやっと生まれたライライさんは、一族を引っ張るには、魔力等々いろいろと足りない。なんとしても一族に質の良い魔導師の血を取り込みたい、それは彼女の虚勢の礎。


 そんなことをバフマが言って、彼女には注意を、なんて言われたときは、年も違うし、興味もなくて、苦笑するしかなかったけど、ここに来て、グイグイ来られて、思うところは・・・やっぱりないです。いや、彼女は彼女なりに色々頑張ってるんだろうな、とかは思うけど、だからって、彼女と結婚なんてあり得ない、って思います。僕って、結構我が儘・・・・なのかなぁ?

 でもね、たかだか奴隷上がりの見習い冒険者には、理解が出来ない話なんです。

 おうちのために、好きでもない人と結婚?

 我が家はママとヨシュアだって、ゴーダンとアンナだって、みんなみんな、大好きだから一緒になったんだよ。話に聞くひいじいさんとひいばぁちゃん、じいちゃんとばぁちゃんもそうだ。

 僕は大好きな人たちが、心から願う人と結婚して欲しいし、いずれは僕だって・・・・アハハ。自分のことは見当もつかないです。ま。いっか。



 「どっちにしても、僕とライライさんが付き合うことはないし、それが模擬戦の勝ちルールでいいなら、僕には負けて損はないです。けど、本当にそんなので良いの?」

 「ケッ、頭にくるガキだ。だがかまわん。決闘でその命はいただくつもりだからな。」

 「な、なんてことを!正気か?・・・・殿下、ひらにひらにご容赦を。こやつは頭に血が上って自分の立場をわきまえぬ愚か者です。当方にて厳重に処罰いたしますので、何卒、国の大事には・・・セスの民よ。どうか、どうか殿下に取りなしを!」


 サルムのおじいさんは、真っ青になって、膝をついています。なんかとっても気の毒。だけど、育て方を間違えたのだから仕方ないってアーチャが念話してきます。でもねぇ・・・


 「これは、単なる模擬戦で余興ですよ、ドガメヌ卿。王子は予定通り、ナスカッテ国との話し合い、つまりはお願いをさせてもらいますし、この件をどうこう言うつもりはないみたいです。ご家族のことはお任せするとして、余興だけど、どうしよう。僕にとっては負けても損はないから・・・・そうだ。僕は練習用の木剣で戦います。けど、サラムさん、あなたはご自分の好きな武器で戦っていいです。もちろん真剣で良いですよ。あ、魔法どうします?僕は使わない方が良い?あなたは使っても良いですよ。」

 はぁ?

 って顔をアーチャやセスの人たち(ロッシーシさんは別だけどね)がしました。

 煽りすぎ?

 ううん。

 僕としてはちょっとしたハンデのつもりなんだけどね。

 セスの人たちは苦笑だし、アーチャは頭に手を置いて天井を見上げてるよ。

 

 「ダーは防御以外に魔法は禁止で。サルムさんは何でもあり。あ、ちなみにダーは煽ってるんじゃなくて、これぐらいならハンデとして少ないぐらいだと思ってると思うし、実際僕もそう思う。あ、模擬戦ですが、場所を提供してもらえれば僕が結界を張ります。皆さんの安全は確保したいんで。こちらの要件はこれぐらいかな?」

 「な、ふざけてるのか?そんなガキが俺にハンデだと?まともに魔法が使えん、ぐらいの言い訳をしろ。たかが10やそこらで魔法が使えないのはわかってる。しかも人族だろうが。いくら、可能性を秘めていてもたかが人族のガキ。はじめっから僕は魔法はまだ使えないので、ぐらい言え!」


 サルムさんは、まだ吠えてるけど、もういいよね。

 好きにして、って言ってるんだから、僕と同じ練習用の武器を手にしても良いんだし、魔法を封印したって良い。

 僕はそう言うと、お着替えをしに、お泊まりしているセスの別邸へと行って、すぐに帰ってきたんだ。


 その間に色々決まったんだろうね。

 まぁ、どうでもいいです。ちょっと運動をしたいだけ、って気分になっちゃってるし・・・・

 

 「ダー。僕が結界を張るけど、壊さないでよね。」

 僕を会場に案内しつつ、釘を刺すアーチャ。

 うん。わかってます。

 アーチャの加減した結界を壊さないように、出力を抑えて遊びます!

 

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