第268話 冒険者は模擬戦で
僕の発言にちょっぴりみなさん困惑してるのかな?
そんな、微妙な空気の中、僕は、できるだけさりげなく、て、言っても、心臓はバクバク中だけど、でも、できるだけ、なんでもないよって装いながら、僕はゆっくりと歩を進めたよ。
目指すは、さっきサルムが僕へと放り投げたワッペンみたいなの。
僕は、それをゆっくり拾い上げて、小首を傾げた。
「このワッペンを投げたけど、これって意味あるの?」
みんな、僕の発言に戸惑ったように、互いに目線をやっているよ。僕が思うに、前世でも貴族が決闘だって言って手袋投げてたっていうお話があったから、あんな感じのものだとは思うけど・・・
「それは、ドガメヌを表す紋章じゃ。こういうパーティーじゃと、初見の者もいる。どこの一族の者かを示すために、そういった紋章を身につけることは多い。とくに、その一族を代表する者として場にいる場合はのう。」
ロッシーシさんが代表するように答えたよ。
「ふうん。 てことは、これを投げて決闘を申し込む、というのは一族の意思、とか・・・?」
ザワザワした。
うん、僕の言葉は多分その通りだったんだろうね。
決闘、なんて言ってたけど、ここナスカッテ国では、そういうのはほとんどないんだって。だって、話し合いで多種族の意見をまとめるのが正しい、なんて思想の国だよ。そもそも決闘、って言っても、種族ごとにその力は大きく違う。わかりやすく言うと、純粋な体力なら獣人系の人が強いだろうし、魔法ならエルフ系。あくまで一般論だけどね。
これは後で知った話なんだけど、そういうことで、決闘っていうのは概念として、とか、儀式としてあるってだけみたい。
ただし、部族内ではその中での優劣をつけるための決闘が行われている種族もある。ワッペンは種族の象徴みたいなもんだから、それを投げることで、その種族内の地位をかける、みたいなのがあるみたいです。ま、どっちかっていうと、ローカルルールみたいなもんだけど。
アハッ。
このサルムさんって人は、それがローカルルールだって知らずに投げたんだろうって、後でアーチャが言ってたよ。ローカルルールって言っても、結構メジャーだし、ほとんどの種族で名誉とかプライドを象徴するものをかけて戦いを申し込むっていうのは定番だから、みんなその意味は分かってはいたみたいだけど。
そりゃ分かるか。この国の常識とかを知らない僕でも、そういうことだろうなぁ、なんて思ったもの。
けどね、僕にはそんなルール関係ないってことで・・・
「ま、いいや。えっと、そんな感じで、国賓とか諸々関係なく、今は冒険者がパーティーの余興で力自慢の参加者と模擬戦をする、ってことでいいかな?こんなワッペン出されても、僕、よくわかんないし。」
ちょっぴり、わざと子供っぽく言ってみたりして。
僕、わかんない。
まだ10歳の外国の子供です。
これって美味しいの?
ジュッ!
アハッ。
僕の手のひらで、ワッペンが消えちゃいました。
無詠唱で燃やしたりして・・・
僕だって、怒ってないわけじゃないんだよ。アハッ。
ザワザワ・ザワザワ・・・・
ザワザワの内容は2つです。
1つは、部族の象徴になんてことを!国に喧嘩を売るに等しいこと、って、先に別大陸の大国に喧嘩を売ったのは、こっちだった。ああ大変だ。蛮族の王子を怒らせた。せめて怒りは、その部族だけで。自分たちに累が及んだらどうしよう。エトセトラエトセトラ・・・・
まぁ、いわば、燃やされたワッペンからその意図=誰を敵と見なしたか、を探るような視線、だね。
もう1つの内容は、ちょっぴり気になっちゃう。
だって、『あんな子供の人族が無詠唱だと!』って驚愕しているグループ。
その人たちは、僕の髪を見てなるほど、と納得したり、僕に対する評価を何段階か上げたりしてるみたいです。良い意味でも悪い意味でもね。
僕は後者の人たちの顔をなるべく頭に叩き込み、その間に目が合った人にはにっこりと愛想笑い。仲良くしてね、おじちゃん、おばちゃんたち。ウフッ。
うん。
さすがにこういった方たちは、僕の意図に明確に反応してくれます。
にしても、やっぱり年配、っていうかおじいちゃんおばあちゃんたちの方が、優秀みたいです。大丈夫かなぁ、この国。
「な、な、なななななな、何をしたぁ!!!」
僕がのんびりとそんな感じで観察していたら、でっかい声が。
まぁ、犯人は分かっているけどね。
そりゃ、自分の大切なワッペンが、ジュッて消えたら、びっくりするよね。
慌てて、押さえる兵士さんたちには、ちょっぴりごめんなさいです。
「えっと。おじさんが床に捨ててたから、いらないのかと思ってポイしちゃったけど、何か問題でも?ていうか、おじさんは僕と剣を交えたいんでしょ?決闘とか僕わかんない。けど、模擬戦なら得意だよ。新人の冒険者相手に模擬戦するお仕事、いっぱいしてきたからね。」
「お、お、おじさん・・・・」
おや?なんか違うところで顔を真っ赤にしてるよ。
だってさ、100歳越えでおじさんじゃないとでも?
そりゃエルフの血が濃いといつまでも若い人も多い。
実際、アーチャは会ったときからあまり変わってないし、そのご両親だってそう。
人族的に言うと、アーチャは10代後半って感じだし、アーチャママは20代後半、パパは30代半ばって感じかな?
でも、このサルムって人は、ゴーダンと同じくらいに見える。うん40代前半。
まぁ、ゴーダンは実年齢より若く見えるみたいだけどね。
サルムって、年齢だけなら、ライライさんと釣り合うそうです。びっくりだけどね。
でも外見、ふつうにおじさんだよ?人族とかの血が濃いのかな?
そういや、種族っていうより、魔力量云々、って聞いたことがあるね。
そういうこと、かな?
その怒り顔を見て、なんとなくそんな感想を抱いていた僕。
「クソガキが!王子かなんか知らんが、調子に乗りやがって!!たかだか逃げ出した弱虫の一族に産まれただけだろうが。踏みとどまった優秀な血、というものを教えてやる!何が模擬戦だ!逃げの口上だろうが!決闘だ!命を賭けた戦いだ!真剣勝負。魔法も剣も惜しみなし。ガキが大人を馬鹿にするとどうなるか、その身に叩き込んでやる!!代償はおまえの命だがなぁ!」
あちゃあ。
逆ギレさせちゃったかなぁ?
でも、そんな啖呵切って大丈夫?
冒険者ギルドでクエストされた相手のルーキーさんたちとほぼほぼおんなじ内容。昔ね、オファーでルーキーをおちょくって、本気出させろ、っていうオーダーをもらってた。だから、煽るのもお勉強いっぱいしたんだよ?幼稚園児に中高生が煽られて、怒ってボコボコにしてやる、って息巻いていたのと変わらない状況。あ、幼稚園児とか中高生って、年齢的にわかりやすくしただけだよ?うん。前世基準。
で、そんときに煽られたお兄ちゃんたちと、あんまり違わない反応、なんですけど・・・・
ルーキーわからせクエスト?
100%の成功率だよ?アハッ。
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