第267話 王子の決断(後)

 「パリミウム様もロッシーシ様も、そして皆様も、顔を上げてください。謝罪はしっかりと受け取りました。つまりは、皆様方には僕を、そして我が国をさげすむ意図はなく、あくまでそこの人の暴走を止められなかった。罪と言えばそれだけだ、ということですね。」

 そんな僕の言葉にいぶかしげに見上げる人たちに、一呼吸置くと、僕はさら言ったよ。


 「ところであの人はどうしてこんな席で僕に突っかかってきたんでしょう?」

 「・・・我が娘ライライの婚約者に一番近い、と勘違いしておるのじゃろう。そこに、その殿下というお人が現れた、というのがせいぜいの動機かと・・・」

 逡巡しながら答えたのは、もちろんパリミウムさんだ。


 「婚約者?」

 僕は驚いてアーチャを見上げたよ。


 以前僕に、ライライさんの婚約者としてアーチャに声がかかっているって聞いたことがあるんだけど?確か、60歳ぐらい年が離れているとしても、外見がエルフってぐらいエルフの血が濃い人たちの中では一番年が近いから、って言ってた。アーチャが僕たちについてきたらきっとそんな話は流れるか、僕らがみんないなくなった未来に改めてって事になるだろう、って言ってたっけ?

 ライライさんは、若いエルフのアーチャに夢中になりなんやかやと近寄ってくるけど、アーチャとしては全く興味なし。うるさい子だなぁ、って苦手意識すらあったみたいで、タクテリア聖王国で再会したときも、微妙な顔してたっけ。

 そもそも、セスは結婚の概念があんまりなくて、好きなら一緒にいれば良いし嫌いになったりもっと好きな人が出来たら別れれば良いってスタンスみたい。逆にライライさんの部族っていうか、上流階級の人は、うちの国の貴族みたいに、血統主義っていうか、親が決めた婚約者がいるパターン。ナスカッテ国は国より部族の掟が強いようです。


 『あのサラムってのは僕より50歳ぐらい上なだけなので、まぁライライにお似合いの年齢ではあるからね。僕が候補から消えたら自分だ、ってところじゃないかな。そもそもほとんど出たことのないパーティーで、絡まれた記憶あるし。ほら外見から、僕よりエルフの血が薄そうなのは分かるだろ?そっちでは噛みつけないからってことでセスは蛮族ってマウント取ってきたんだ。』

 『えっと・・・僕にはあの人はに見えるんだけど・・・ライライさんをって、マジ?』

 『まぁ、マジ、かな?彼女は家柄のいいお嬢様だ。跡継ぎとはいえ、その意味では幼いから、その夫が評議員を継ぐ可能性は高い。お父上のパリミウム卿は見ての通りご高齢だし、その地位を娘婿に譲るのにやぶさかではない、と常々言ってるようだからね。つまりは彼女とともに家の財産と地位も手に入るってことだね。』

 『うわぁ・・・ないなぁ・・・はぁ。でもあの人の家もこの国には必要、なんでしょ?』

 『ここに参加している時点で、そうなるね。』

 『・・・僕もこの国をどうにかしたいわけじゃないしなぁ。・・・冒険者の流儀でもいい?』

 『好きにすれば良いよ。僕はダーについていくだけさ。』

 『もう、すぐそういうことを言う。』

 『フフ。じゃあ言い方を変えよう。僕は、ダーがどうするか見てみたい。』

 『ったく。どうなっても怒らないでね。』

 『了解っ。フフ。』

 てな念話での内緒話があったりして・・・



 「あー、えっとサルム、さんだっけ?あなたはライライさんが好きだからって絡んだだけ、ってことでいいのかな?えっとね、正直、僕はライライさんをそういう目では見れないかな?まだ10歳で、恋愛とかよくわかんない。でね、僕は王子であると同時に冒険者見習いでもあるからね、こんな風にライライ様じゃなくてライライさんって言っちゃうぐらい、庶民の側にも立てるわけ。でさ。サラムさん。確か僕に決闘を申し込んだんだっけ?たった10歳のしかもこんなチビの僕に、ライライさんの事なんてなんとも思ってない僕に、ライライさんが欲しいからって決闘を申し込んだってことかな?僕になら勝てそう?本当にそう思う?僕はね、あなたに負ける気がしない。僕は剣より魔法が得意だけど、魔法を使わなくたってあなたには勝てる、って思うよ。これでも長く冒険者をやってるんだ。見習いとはいえ、ね。」


 僕はまっすぐにサラムを見て言った。

 服の襟を押さえつけられてて、声は出なさそうなサラムだけど、明らかに僕に対して牙をむいてくる?

 でも、それでいい。


 誰が見ても僕の方が弱そうでしょ?


 エルフにしては、体格が良すぎるサルムと、人族の子供にしても小さすぎる僕。

 120だか130歳だとかのサルムと、まもなくやっと11歳を迎えるだろう僕。

 一般に10歳ぐらいでやっと魔法を使えるようになる人族と、魔法を得意とするエルフ。

 そんな魔法初心者に見える僕が魔法の方が得意って言っちゃうと、きっと剣なんて持てないんじゃない、って思われてそうだけど、僕は嘘は言ってないもんね。


 こんなことを言ってる僕に、怪訝な目を向けている多くのパーティー参加者たちだけど、僕はやっぱり僕の都合でこの国の動乱とかは招きたくないし、何より、プジョー兄様の先触れすら出来ない、なんて思われるのは悔しいもん。これでいて僕はそれなりに負けず嫌いなんだ。


 「皆さんお騒がせして申し訳ない。けど、僕には王子以外に冒険者って顔があるんで、ちょっと皆さんにお願いがあるんだ。王子な僕はここに呼ばれた。けど、冒険者の僕もここに呼ばれたんだ。セスの盟友として、ね。で、そこのサルムとかいうライライさんへの愛が溢れてしまった人は、恋敵として冒険者の僕に決闘を申し込んじゃった。当の本人は恋心なんて持ってないにしても、ね。でね、僕としては、セスの開いたパーティーだ。セスの盟友として、ちょっとした余興のためにこの決闘を受けても良い、と思っている。そうだなぁ、決闘には勝者の権利がつきものだよね。だったら、サラムさんはライライさんを口説く権利と、この場を騒がせた罰の免除、までいったらこの国のメンツはないから、軽減の嘆願を王子の僕から出す、ってことで。で、僕が勝ったら、そうだなぁ、サラムさん処罰、そして僕、タクテリア聖王国、そしてセスへの謝罪を要求するよ。どうかな?」

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