第263話 ダンスはいかが?
「通してくださいまし。あ、殿下!アレク様~!!お久しぶりです。よくぞ我が国へお越しくださいましたわ。オホホホホ。」
ズンズン、って擬音が聞こえてきそうな感じで歩み寄る、見覚えのある少女。
ここナスカッテでは、割と薄い布を幾重にも重ねたレイヤードなドレスが主流で、それが、ヒラヒラと身体にまとわりつくのが美しい、色だって優しい色合いの人が多い中、その近づく少女は、はっきりとした色合いのウエストを絞った、広がるスカートのタクテリア風ドレスだ。控えめに言って、少し浮いているが、タクテリア風ドレスの人が他にいない訳でもない。ウィンミンさん曰く、若くて新しいものが好きな方が取り寄せて着ているそうで、タクテリアの王子に合わせて召してるのだろう、っていうのは、ご挨拶の時に話した話。
そのときは、周りのご婦人方がタクテリアのドレスに目を輝かせ、手に入れたいようなことを言っていたので、ナッタジ商会を宣伝したっけ?なんて、僕はその少女を目にちょっと現実逃避をしたりして・・・
そんな間に、ズンズンとその少女は歩み寄って、僕の目の前にやってきた。
少女はドレスのスカートをつまんでカ-テシーを優雅に行うと、改めて挨拶する。
「殿下。お久しゅう存じます。先日はお見苦しいところをお目にかけて大変失礼いたしましたわ。お心広い殿下のこと、きっと水に流していただけるとは存じますが、仲直りの印に是非ファーストダンスを私とお願いできますよね。」
いやいやいやいや。
勝手に、僕が水に流す云々決められたって。
ていうか、僕に対して失礼はしてないよね。強引なだけで。
失礼なのはクッデの冒険者さんたちへでしょう?ライライさん。
うんそうです。
雪に閉ざされる直前、無事船で脱出していたらしいライライさん。
まぁ、この国の有名な令嬢なんだろうけどね。
ほぼほぼ姉様と同じような立ち位置みたい。うん。王女な感じ?
王族なくても、貴族なくても、どう考えたって立ち位置はお姫様。それでなきゃ、わざわざ留学までして他国へ渡らないよ。そもそも僕を見たくて留学する、ってなんなの?
まぁ、そんな情報が入ってきた、治世者養成校のクラスメイトさん。
それにしても、ファーストダンス?
アーチャが耳打ちした情報だと、本日の主役が踊る、って宣言してダンスタイムが始まるんだって。この国独特のやり方かな?我が国では確か音先行で、ダンスタイムが始まり、最初は主役が踊る、ってのはなんとなくの流れで決まってるけど、パーティの種類によっては、はじめっからたくさんで踊ることもあるんだよね。
でもそうか。
僕が踊るよ、って言わないからいつまでもダンスタイムが始まらなかったのか。ダンスなしなのか、って思っちゃったよ。
で、ファーストダンスを所望するその心は?
「基本は、主催者か主役の家族またはそれに近しい者と行うね。まぁそうじゃない人だったら、恋人だって公言するようなものかな?」
・・・
ライライさんは、自分を恋人だと公言しろ、と?
いやぁびっくりです。
どうなったら、そういう発想に?
「ハハハ。まぁ、不思議じゃないかな?この国では年齢差はあんまり関係ないしね。ダー相手ならエルフの血が濃い人は200歳ぐらいまでなら立候補してくるんじゃない?適齢だって言って。」
「マジ?」
「彼女は地位も年齢も他国の王子にふさわしいって考えられるだろうね。むしろ、もったいないぐらいに思ってるかも。逆にダーにとっちゃご褒美だから断られるなんて思ってもないと思うよ。」
はぁ、ってため息をつきたいのを我慢しつつ、周りを見回すと、ほとんどが微笑ましいって感じで見ているよ。中には、若そうな人がちょっと嫉妬の目を向けてくるけど、彼女が言うならって、我慢してるって感じかな?
この国の重鎮が集まっているであろうこのパーティー。
南の大陸は発展途上で、まだまだ群雄割拠する、前世で言えば戦国時代の日本って感じで思ってる。で、自分たちは文明が発達した現代人。
気持ちで言えばそんな感じで、劣った国の僕らは、当然、彼女の提案に夢見心地でありがたがるのが当然、ってところかな?
北の大陸って国は1つだけど、南の大陸はたくさんの国がある。
それは、それだけたくさんの人を養う大地があるって事でもあるんだけど、北の大陸しか知らない人からしたら、人と仲良く出来ない非文明人、って思っちゃってるみたい。
逃げた上に非文明人。きっと彼らは自分たちを尊敬のまなざしで見ているし、憧れているだろう。そう信じているのが、この国の人たちなんだって。
以前、そんな話をあちこちで聞いたんだ。ドクとかアーチャとかが、あまりの違いに驚いたってことも含めてね。
ちなみに、南の大陸では、一般の人はそもそも北の大陸なんて認知してない。
知ってる人も遠くて謎の偏屈な国、って感じかな?
ところ変われば、人の感想なんて変わるもんだって、ゴーダンが教えてくれたよ。
で、ライライさん。
ご本人も周りの人も、当然僕がOKすると思って、ニコニコしてるけど・・・
「お誘いどうもありがとう。ダンスは僕が宣言しなきゃ始まらない、なんて知らなくて、宣言が遅れてすみません。では早速ダンスをお願いしましょうか。でもライライ様、申し訳ありませんが、ただの友達では、ファーストダンスにふさわしくないと存じます。今後婚約をするなんて事もあり得ませんし、今回は身内として同行していただいているウィンミン様にお願いしたく。よろしいでしょうか。ウィンミン様。」
僕はにっこりと笑って、ウィンミンさんにダンスをお願いする手を差し出した。
「当然です、殿下。私は殿下のセスでの母だと自負しておりますもの。当然、ファーストダンスのお相手に選んでいただけますわ。」
うわぁ。
ウィンミンさんってば、あえて大回りに僕の正面へ回り込んだよ。ライライさんを押しのけるようにね。
唖然としているのは、僕の身内以外の人たち。
まさかの答えと、明らかな拒絶にポカンとする、紳士淑女の皆様方。
僕はそんな彼らを置いて、ウィンミンさんの手を取り、ホールの中央、ダンス用に開けている場所へと優雅に(できてるかなぁ~?)誘う。
ぽかんとしているのは楽団の人たちも一緒で・・・
僕はとってもきれいなアーチャママの顔を見て、370歳超えてたっけ?なんて不思議に思う。エルフの血が濃いウィンミンさんは僕ら人種ならせいぜい20代半ばにしか見えない。
「ダー君ってば、変なこと考えてない?」
ちょっと、怒ったような雰囲気を出してささやくウィンミンさんに、僕は慌てて小さく首を振る。
「フフ、でもいいわ。大きく・・・なったダー君にこうしてダンスを誘ってもらえるなんて、とっても嬉しいもの。」
なんで、大きく、の後ためらった?
まぁ、笑顔のウィンミンさんは、きれいだから、許すけど・・・
そんな僕らを見て、また、フリーズしている場の人たちを見て、ランドルさん、つまりはアーチャパパが苦笑しているのを感じる。
オッホン。
小さく咳払いをするランドルさん。
「妻の美しさに、そして殿下の愛らしさに固まる気持ちは分からなくはないですが、そろそろダンスの音をいただけますかな?」
そして、おどけたように言う。
そんなランドルさんの声に、場は、ざわめきを取り戻し、慌てたように指揮者が棒を振る。
ヂャジャジャジャーーー
「おい待て!蛮族の分際で、ライライ様をないがしろにしてふざけやがって!!王子かなんか知らんが、ガキが我が国に楯突くつもりか!ふざけるな。決闘だ!決闘を申し込む!!」
は?
誰あれ?
見たこともないエルフにしてはがたいのいい男が、ワッペン?みたいなのを僕に投げつけた。
びっくりした楽団の人たちは思わず音を止める。
「おいサルム、隣国の王子に何事じゃ。出て行け!」
そこへやってきたロッシーシさん。
だけど、サルムと呼ばれた男はさらに噛みついた。
「セスと懇意か知らんが、蛮族同士仲がいいからと、こんなでたらめが許されるか。ライライ様に謝罪し、蛮族には相応の責めを与えよ!」
ロッシーシさんとサルムは、互いに譲らず、にらみ合いが続いたのだった。
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