第262話 王子としてパーティへ

 セス代表邸。

 僕は、今、キラッキラの王子仕様、しかもパーティ用衣装でそこにいます。

 ちなみにここの主はセスの代表、つまり元老院議員のロッシーシさんです。ちなみにドクのお母さんの弟だって。彼の顔はほぼほぼドワーフだけど、いろんな血が混ざってるのは、ザ・ナスカッテ人って感じかな?


 セスの人ってのは、適材適所をモットーとしてるんだけどね。

 このロッシーシって人は、生まれながらに政治屋だ、なんて、皮肉られたりします。まぁ、セスってのは、どうしても武に偏りがちだからね。

 でも、力は弱くてもいろんな研究をしている人だってとっても尊敬されているし、そういう人はいわゆるセスの村で、自由に研究ばっかりしてます。どっちかっていうと、偏りすぎだ・・・なんて、苦笑することも多いんだけどね。

 僕はセスの村に行くと、いろんな研究者って人に追いかけ回されがちなんで、ちょっぴり苦手意識も・・・

 とはいえ、僕だって、いろいろ作ったり、研究したりも大好きだから、人のことは言えないかも、だけどね。


 で、ロッシーシさん。

 彼は、正直言って、セスにあんまり好かれてはない。でも、尊敬はされているんだ。

 だってね、武力だけで意見を通すのはダメだって誰もが知ってるし、長老たちのように、内緒をいっぱい持ったままで、直接話し合いをするのは、いろいろと難しい。それをうまい具合に調整し、セスの利益をちゃんと確保した上で、この国での地位を確立し、セスでない人に一定の尊敬と存在意義をもたらせている。こんなことは、政治力に秀でたロッシーシさん以外にできない、ってのは、みんな分かっていて、彼に丸投げしていることに申し訳なさと感謝の念はみんな抱いているんだ。

 けどやっぱり、気持ち的に、駆け引きとか裏取引とか、そういうのが嫌い、っていう、とくに戦士層のセスの民は多くて、嫌いだけど尊敬はしている、なんて微妙なところにいるんだって。

 これは、アーチャパパから教えてもらったこと。

 アーチャパパはどっちかって言うと政治家も出来る戦士なんだそう。

 ま、リーダーなんてそんなもんかもね。


 ロッシーシさんのこのお屋敷は、いわゆる貴族街にあります。まぁ、貴族っていうのはいないことになってるから、有力者?議員?そんな人たちが多い場所です。


 一般のおうちは基本木でできた塀で囲まれていて、2階建てが多いかな?

 でもこのあたりのおうちの塀は、割と石造りだったりする。

 なんだかんだで、やっぱり石の方が強いは強い。

 高めの石の塀に3階建てお屋敷。

 貴族はいないとはいえ、こういう元老院の議員が持つ建物ってのは、緊急時には自分の民の避難施設にもなるんだって。だから、細々とした部屋をそれなりの数抱えた、大きめで頑丈なお屋敷がプレなんだそうです。



 そんなでっかいお屋敷の大広間。


 きらびやかな衣装の男女がいっぱいです。

 ほとんど見た目エルフな人たちだから、とくにスラリとした美男美女が溢れている感じ。


 僕の側には、近衛姿のアーチャと、騎士礼服姿のディルおよびリーク、そして、他にはアーチャのパパとママも近くにいてくれて、人を裁いてくれてるみたい。

 ちなみにディルたち南部の人たちは着の身着のままで魔法陣から現れたからね、クッデの森でお留守番しているときに、アレクサンダー号から予備の服をもらってます。僕らのマジックバッグを経由すれば物のやりとりは簡単だからね。

 それに、クッデ村でも自分たちでいくらか調達してもらったし、トゼに来てからも買い物はしたみたい。

 とはいえ、礼服はさすがに用意してなかったから、騎士用の礼服っていうのを、プジョー兄様の騎士たちから体形を考えて融通してもらったんだ。ラッセイは近衛のしか持ってなかったし・・・



 そんな衣装問題を解決しつつ、・・・・そう、そんな問題を解決しなきゃならないような場所に、僕らは来てます。


 なんでもね。

 セスとしてご接待を受けた以上、セスが主催で晩餐会?なんか、そんなのをやらなきゃならないんだって。とは、ロッシーシさん。

 まぁ、別大陸から、他所の国の王子がやってきた。しかもどうやら鳴り物入りで大国が迎えた王子。

 蛮国であるした大陸(南の大陸のことをこっちの人はこんな風に言うんだよね。地図で下に書かれる大陸で、逃げ出した者たちが無秩序に暮らす国々、ということらしい。当然南にあるって意味だけじゃなく格下って意味も含まれてます・・・ハハハ・・・)から遙々罪を犯した商人風情を捕まえるためにやってきた、小国の王子。そんな下賤の王子を見てやろう、なんて思っているんだろうなぁ。あ、これは卑屈でもなんでもなく、事実な感じで。


 でね。

 これもこの世界独特の感性か。

 まぁ、南の大陸の人だって、北の大陸から南の大陸に移ったっていうんだったら、もともと同じ人類だからか。

 貴賤についての、人間独特の差別意識を超えるのが、どうやら、魔力に対する大小っていうか、それを表す美醜っていうか・・・

 ハハハ・・・

 自分であんまり言いたくないんだけど、やっぱり髪に対する過度の意識は北の大陸でも相変わらずだなぁ、って思うわけで・・・



 うん。


 貴族のパーティの経験は、多くないとはいえ、僕だって当然あるんだよね。

 で、僕は、とある奴隷の女の子が無理矢理主人に孕まされた上で生まれた元奴隷で、奴隷でなくなったとは言え、商人の子で、冒険者見習いです。

 まぁ、特権階級とはほど遠い生い立ち、ってやつだね。


 僕はこの経歴について、別になんとも思ってないし卑下もしてない。

 ただね。社交界に出るような人は、まぁ、色々と色眼鏡を掛けてくるのはやむを得ない。

 そんな底辺も底辺の子が、見初められて、なんだったら魅了して、王子なんていう地位を持っちゃった。そんな風に僕の事を思って、あんまり気持ちよくない感情ダダ漏れで一目そんなゲテモノを見てやろうって近づいてきちゃう。

 パーティっていうのは、僕にとっては、ほぼほぼそんな場、だったりするんです。


 さらにはね。

 一目見て、みんな思うらしい。

 神に愛された御子だって。

 自分で言うのはなんだか恥ずかしいけどね。

 本当に魅了ってのがあるんじゃないか、ってぐらい、僕と実際に会うと180度変わっちゃう人がいっぱいいる。

 正直、そんな人たちにかわいいだのきれいだの、ちやほやされたって、全然嬉しくないんだけどね。

 むしろ、ただただうっとうしいっていう気持ちがないわけじゃなくて、そういうのを顔に出しちゃダメだよ、って周りの大人たちに言われるのが一番面倒かな?

 なんて・・・

 まぁ、何度も経験すればそんな感じで、今も、『蛮族のもらわれ王子』から『神に愛されたかわいい王子様』なんて評価が変わっていくのを見るのは、せいぜいが大陸変わってもおんなじだなぁ、って思う程度・・・ではあるんだけどね。



 驚きからの美辞麗句。


 そんな相変わらずの豹変に飽き飽きしつつも、頑張って笑顔で応対する僕。

 うん。我ながら、こういうのも上手になってきて偉い偉い、なんて心の中で自画自賛しつつ。

 時折は、ものすっごく憎悪の目にされされて。

 うん。これだっていつものこと。

 大量の賞賛の中に、激しい憎悪や嫉妬を、または舌なめずりして自分の物にするぞ、みたいなねっとりした目だって、チラホラ。

 こういうのも変わらない。


 僕は、念話で、アーチャに、危険な視線の人を告げつつ、アーチャも大体同じように気づいていることに安心して。

 アハハ。

 かなりの確率で、憎悪に嫉妬、そして物欲?まぁ、僕を自分の物にしたがる人?そういう人がトラブルを運んでくるのは通常運転だから、情報だけはちゃんとゲットしとかなきゃ、だね。

 そんな僕とアーチャの無言の会話に、さすがはアーチャママのウィンミンさん。

 簡単に念話に気づき、自分も入れるように言ってきたよ。

 で、ウィンミンさんに告げると、あらら、さすがにできる人で、全員誰でどんな人かまで、分かったみたい。僕らが気にしている人に、ちょっぴり怖い笑顔を向けちゃった。

 『ダー君たちは、無視して良いわ。こっちで、しておくから。』

 なんて、さすがセスの女傑です。

 って、まだ何も起こってない時点で、いったい何をお話しするんだろう・・・って、僕は何も聞かなかったことにしよう。そうしよう。



 そんな、とりとめもない会話を念話でしたりしながら、目の前の人と当たり障りのない会話をする僕ら。


 そのとき、かなり離れたところから、聞き覚えのある声が届いたんだ。


 「通してくださいまし。あ、殿下!アレク様~!!お久しぶりです。よくぞ我が国へお越しくださいましたわ。オホホホホ。」

 淑女としてギリギリの速度で歩み寄る、そのドレスな女性に、僕がちょっぴり眉間にしわを寄せたとしても、仕方ないと思うんだ。

 

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