第260話 トゼの都 ~森側と海側と~

 僕のために最高級の騎士を用意したよ、なんて言いたげなギルド長の言葉を、アーチャママのウィンミンさんの解説(?)付きでなんとなく聞きながら、冒険者ギルドへ到着した僕ら。

 一度入ったことはあるけれど、このギルドの中は一番、人種の坩堝っぽいかもしれないです。

 だって、道と違って、人族だけじゃなく、それなりの数の獣人さんたちもいれば、少ないけどエルフもいる。ドワーフの血が濃いかなって感じの人もいるし、僕らみたいに外国から来たっぽい人もいる。

 本来のナスカッテ国ってこんな感じなんだろうな、って、ちょっぴの思いながら、ギルド長に先導されて、たくさんの騎士と共に、また、たくさんの縛られた人たちと共にギルドに入った僕らは当然注目の的のようです。



 みんなの注目を浴びつつ、僕にギルド長は「お茶でもしますか?」なぁんて聞いてくるのを僕は丁寧に断ったよ。

 だいたいこの人数どうするの?

 なんて思ったけど、とりあえず、捕縛した人を地下にある牢屋へ。


 ちなみに冒険者ギルドで取り扱うのは、ちゃんとした罪人さんじゃなく、ちょっと反省が必要な困ったちゃんの冒険者だったり一般人の酔っ払いだったりするんだよね。

 何が大変って、騎士はいるけど、国所属ではないから、それぞれのトップは部族の代表者だったりする(例外はあるみたいだけどね。ていうか、諸々は部族ごとに違うらしいし)ってのもあって、国が持っている正式な牢屋ってないんだって。

 迷惑掛けられたら自分持ちの牢屋に入れて、部族ごとの決まりに則って捌くんだそう。対外国だったり、複数の部族が絡んだ、特にトゼみたいな都市の場合、処遇が決まるまでは、元老院が議会を開く建物の地下か、ここ、冒険者ギルドで仮に留め置く、って事になるそうです。


 なお、各部族のトゼ支部っていうか、トゼでのお屋敷はあります。

 どこの部族もそれなりの大きさで、たとえば部族の住処が魔物とかの被害に遭って逃げてきた場合には、ある程度安全を確保して住まわせる場所が確保されているんだそうです。


 そういや、そんなおうち、セスの部族としての屋敷は、ドクのおじさんに当たる人が持っていて、僕が小さいときに、仲間の大人たちが軟禁された、なんていう事件もあったっけ。


 今回は、はじめはそのお屋敷に僕らがお世話になる、なんて話になってたそうだけど、そのお屋敷とは別に、セスの長老の一人が持ってるお屋敷もあって、そちらを使わせてもらうことになったんだ。

 そっちのお屋敷は、セスの長老とか有力者がトゼで活動するとき用に別荘扱いで作られたものらしいです。

 トゼに住んでいるわけじゃないセスの人たちが、トゼで活動する拠点らしく、常時使いされてるドクのおじさんの家に比べて、セスらしいセスのための家だから安心、らしいです。

 ちなみにセスの代表としてここトゼに長く住むドクのおじさんは、一般のセスにとってセスらしくない政治屋と思われてるみたい。



 僕らは、まずは、冒険者ギルドの地下牢に捕縛していた人を入れて、ディルに彼らを託します。つまりは、冒険者ギルドの中に南部騎士たちが、罪人たちの見張りとして残るんだって。

 僕たちが彼らを国に輸送できるまでの見張りは、そんなこんなで彼らにお任せ。

 改めてのお茶の誘いを断って、セスの別荘へと残りの僕らは移動です。


 セスの別荘に着くと、お屋敷を保つ係の人たちやら、いわゆるで顔を見たこともある人やらがお出迎えしてくれたよ。なぜかドクのおじさんもいたけど。

 ちなみにセスっていうのは、人種的な集まりの部族ではなく、昔セスという名の英雄というかそういう名の人族の人がいて最前線で活躍したらしいんだけど、その人を慕って、共に魔物たちと戦い、魔物を押しとどめた人たちの集まりです。

 なんかね、強い魔物が通れない結界を作りだし、それを維持することで、人の世界と魔物の世界をある程度分けることに繋がったんだって。

 でも、あくまでも分けるだけだから、その結界の付近には危ない魔物が集いやすい。そんな魔物を屠るためセスさんを中心に戦う人たちが、守る人たちが集まった。彼らをセスの一族なんて、恐れやら尊敬やらを込めて言い出したんだって。

 そんなセスの一族になんだか名誉市民みたいな形で、実は僕、秘密裏に加わってたりします。エヘッ。



 セスのみんなからしたら僕は身内の子供みたいなもの。

 なんだかんだで、今回僕のお部屋を固定で用意した、なんて息巻いているメイドさんがいたり・・・

 ただ、僕としては、自分のことは自分で出来ます。

 とか言いつつ人=メイドさんを追い出しつつ、結局脱ぐのも難しい王子な衣装をアーチャに笑われながらもお手伝いしてもらって、いつもの冒険者服に着替えた僕。

 もっとも、この冒険者の服って、ポシェットにしまってあるし、メイドさんたちに見せるわけにはいかないんだよね。


 そんなこんなで、普段着に着替えた僕とアーチャは、ちょっぴり胸をドキドキさせながら、トゼの街へと繰り出すことにしたんだ。


 ナスカッテ国。

 普通なら遠い海を挟んだ向こうの国。

 なんだけど、国ってだけなら僕は何度も来ています。

 多くはパッデ村って言われる、この国には承認されていない村へ。

 国に迫害された獣人さんたちが、ひいじいさんと出会って、こっそり作った隠れ里です。

 パッデ村の人って、ひいじいさんを神様みたいに思っていて、ひいじいさんに言われるままに、日本の昔話みたいな村を、ここナスカッテ国の僻地の森の中に作っちゃったんだよね。

 服だってなんとなく和風。

 家だって、昔話の和風。

 しかも、餅米とは言え、田んぼを作っちゃってるし。


 僕らはひいじいさんの作った村と交流しつつ、様々な交易を行っているんだ。

 さっきの餅米だけじゃなく、はちみつもどきに竹もどき。

 前世知識が刺激される、心優しき獣人たちの村なんです。


 そんななんちゃって日本昔話なパッデ村。

 そしてセスの集落たち。

 セスの集落って言うのは、移動型の集落だったり、固定型だったりがあるけれど、基本は魔物たちとの前線基地です。

 前線基地でないのは、いわゆる「セスの村」。

 セス内ではなく、対外部で窓口になる、長老たちの住む場所が、いわゆるで、ここトゼから唯一森の中に繋がる道の突き当たりにあります。


 セスの村からトゼへの一本道。

 これがトゼの都から森へ入る玄関口。


 トゼの都は、僕が知る他の町と違い、塀が木でできているんだ。

 塀だけじゃなく、各種建物もふんだんに樹木が使われています。


 僕の生まれたタクテリア聖王国は、王都タクテリアーナだけじゃなく、領都トレネーやその一都市であるダンシュタの町に至るまで、都市と名のつく物には塀で囲まれている。その塀は、魔物たちの攻撃から守られるように、丈夫な石で作られているんだ。


 でもここトゼは違う。


 でっかい丸太が、森と接する都市を囲み、そのでっかい丸太からは、ところどころ芽が出てたり、なんともファンタジーな外壁なんだ。


 僕がはじめてトゼを訪れたときは、セスの村=長老たちの村から一直線に伸びるこの道からだった。

 で、この神秘的な生きる塀に目を奪われたもんだった。

 なんたって国の首都をこんな生きる塀に囲まれているなんて、なんて素敵なんだろう、そう感動したのは間違いじゃない。



 けど、実際トゼっていう町は、その大半を海に面しています。

 ぐるっと半円状に囲んだその塀は、いくつかの場所で森と渾然一体になってたりもする。

 海に面した道沿いには、それなりに大きな街道もあり、海に面してそれなりに大きな町がいくつもあるんだそう。

 逆に森側。

 森に住む人、というのは、蛮族の隠語らしい。

 森から人が来ることはほとんどなく、一部森に狩りに出る冒険者のような仕事の人ばかり。

 逆にいえば、冒険者以外で森から来るのは犯罪者か貧乏人、そんな意識が強く根ざしているのもあって、門番でも森側に駐留させらるのは新人か、左遷、なのだという。

 普通にトゼに入るならば、海からであり、海に面した街道からだ。


 かつて、そんな森側から現れた僕らは、最高ランクの冒険者ゴーダンのいることも相まって、トゼの町中を見ることもなく、早々に冒険者ギルドへと招かれた。

 そんな僕の初めてのトゼの思い出は決して楽しいものじゃなかったんだ。

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