第257話 トゼの港にて
仰々しい騎士たちが両脇に整列し、その間を近衛な感じのアーチャと、南部の騎士の鎧を身に纏ったディルを両斜め後ろに引き連れた、王子な衣装の僕が、(自分の気持ち的には)堂々と歩いて、船のタラップを下っていく。
港には、複数の見覚えある人とか、知らない人とか、周りに整列する騎士たちとおそろな鎧姿のたくさんの騎士たちとか。
とはいえ、正確には、完全におそろってわけじゃないらしいです。
胸元に描かれたマークは各部族というか、一族というか、それを象徴する、まぁ家紋みたいなもん?なんだそう。
ここはトゼの港。
その中でもVIP専用の船着場、らしい。
で、僕が降りてきたのは、ナスカッテ国の偉い人の船、なんだけどね。
なんでこんなことになっているか、っていうと、まあなんです。この船着場は特別らしくって・・・
僕が乗ってきたのは商船なわけで、外国船ってだけでもよろしくないのに民間船なんて特にダメ、な、お達しがあったんだそうで・・・
だったら、普通のいつも使う船着場でいいじゃん、って思うでしょ?
それがダメなんだって。
外国の王命を受けた僕が、しかも、犯罪者を連れて入国する。
それは国賓というか、まぁ、公務で来たから、ここから入らなきゃダメでしょ、ってのが、外交とかなんとかそういう話になるんだって。
いやそもそも、僕らナスカッテ国内のクッデ村から来たんだけど?言ったら再入国みたいな?いやむしろ、航路から考えたってナスカッテ国内の普通な移動手段、っていうか?
そんな風に僕は考えていたんだけど、それはそれ、これはこれ、なんていうよくわかんない理屈でもって、僕らは外国要人御用達の船着場から入らなきゃならないってことらしい。
で、なぜか沖まで、ここに入ることが出来る船で、僕らはお迎えに来られて、今、その船から降りているところ、な、かんじなんです。
まぁ、何がどうなって、この船が派遣されたか、ってのは、そもそもアレクサンダー号に乗ってるプジョー兄様が相手方と折衝して、それを元に僕らは服装とかその他諸々の指示を受けて、今こうなってるってことです。
ちなみにアレクサンダー号には当然トンツーの魔導具は乗ってるし、ナスカッテ国にもナッタジ商会印のこの魔導具、多少の輸出はしているので、こちらの政府も当然持ってる、ってことでした。毎度あり~。
クッデ村から、魚の獣人さんたちのおかげで、氷山も避けて(ばかりではなかったけど)、安全な航路を導かれ、魚釣りも楽しんだりしながら南下した僕たち。
トゼのちょっと手前、彼らの住処の島近くで、彼らとはお別れし、そのすぐ後、トゼの町がしっかりと視界に収まるあたりで、商会のみんなと別れて、僕たちだけ、つまりは、アーチャとディルたち南部の騎士たちと、レッデゼッサ関連の捕縛した者たちだけが、ナスカッテ国の用意した船に乗り込んだんだ。
ちなみに商船の倉庫は原状回復した上で、ちゃんと商品とか、備蓄品は戻したよ。
この後商船の方は、ぐるっと回って、フミギュ川を北上、パッデ村に残している人や物を積み込んでから帰るらしいです。
あ、そうそうグレンは商船に残ってます。ナスカッテ国の偉い人に見せたくないからね。いったん花の精霊様のところに行って、そのまま森に繋げてもらうか、僕の新しい船にどこかから乗り込むか、悩ましいところ、だそうです。アハハ、自由だなぁ。
なんてことが、あって、僕たちは、いざトゼの都へ。
僕を先頭に港へと降り立つ。
眼前には、元老院の人たちだろう。
エルフに人族、獣人族の多種多様な種族たち・・・
その中には、ハハハ、因縁の人もいるね。
ライライさんとこのおじいさんとか、ドクのおじさんとか、後は、パッデをさらったサンチャタさんだったっけ?
他にも、セスの長老の何人かも?
はぁ・・・
僕を初めて見る人は、僕にいろんな視線を向けてくるね。
多種族の人がいるから、この髪に注視する人、それもうっとりしている人もいれば忌々しげな人もいる。魔力の量や質を表すこの髪色は、羨望だけじゃなく嫉妬も引っ張ってくる、そう言っていたのは誰だっけ?
こういう初めての人からのでっかい感情は、いつまでたっても苦手だなって思います。人の感情が読み取れる能力は、大きな感情の不意打ちには対応が難しいです、はい。
もちろん見知った顔だって、様々な思惑を向けているけど、あえて心を隠す人もいるようで、それはそれで怖い、かな?
そんな中1歩前へ出る2組の人たち。
1組は、アーチャのパパとママだ!うんランドルさんとウィンミンさん。
優しい笑顔で、僕に目で挨拶してくれた。
もう1組は・・・
はぁ。
一応は知ってる人。
トゼの冒険者ギルドのギルド長タウロスさんだ。
タウロスさん。なんていうか、見た目は、前世の人たちがザ・エルフって言いそうな人。中性的で高貴っぽい?
しかも腹黒で心を読める、と、ナザは言っていたっけ?
実際、心を読むことが出来そうなのは確かです。
エルフの人は割とこの読心の能力は持ってるみたいだけど、ね。
なぁんて、思って見てたら、ニコッて笑って、僕に礼をしたよ。
「ご無沙汰しております、アレクサンダー殿下。初めて会ったときより大成されるとは思っておりましたが、まさかこんなに早くこうも出世されるとは。同じ冒険者ギルドに籍を置く者として、誉れに思います。」
うーん、嫌み、なのかなぁ?
この人、差別主義者で僕が元奴隷だって知って、駒にする気満々だった、ような気がするんだよねぇ。それも自分がひいきにしている元老院の議員に売る気満々、ていうか?
「殿下は誤解されているのではないでしょうか。私は常に冒険者ギルドの繁栄を第一に考えています。そこに私情を挟む余地などございません。素晴らしい才能を愛でる気持ちが、幼い貴方をおびえさせたかも知れませんが、それに関しては寛大なお心で許していただきたい。」
「はいはい、タウロス様、そこまでに。アレクサンダー殿下、ご機嫌麗しゅう。殿下が滞在中は、我々セスが歓待することになりました。よろしくなんなりとお申し付けくださいませ。」
「お待ちください、ウィンミン様。殿下のお世話は、その所属たる我々冒険者ギルドとそのギルドメンバーが所属するセスに、となったではありませんか。つまりは第一義的に、我がギルドが殿下を歓待いたします。」
「ええですから、彼らの目的である悪漢どものお世話を、荒事に長けたあなた方にお願いしますわ。我々セスは、その心身を身内として任せられる場として、命を受けたと存じております。ええ、ええ。第一義的に公としての殿下を冒険者ギルドが、第二義的に私人としての殿下を我々セスが、そういうことですわ。ということで、殿下、アーチャ、それに騎士の方々、悪漢をまずはギルドに預けて、セスの公館にておくつろぎくださいね。」
ホホホホ、と笑うウィンミンさんに、それを苦笑して見つつ頭をかくランドルさん。
そんなウィンミンさんを苦々しく見つめるタウロスさん。
なんとも・・・
ハハハ・・・
まぁ、そういうことのようです。アハハハハ・・・
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