第253話 クッデ村、出航!
朝はちょっぴり霧が濃い。
本来はお船を出すような環境じゃないんだけどね。
でもでも、わがナッタジ商会のお船は、
「また、近々会おうね。」
なんて、森の咆哮とか太陽の槍とか、他にも仲良くなった人たちがお見送りに来てくれたよ。まだまだ森は落ち着いてないのにありがたいです。
あ、ギルマスのヤーヤンさんも、その娘でギルドの看板嬢マーシーさんも来てくれてます。
と言ってもヤーヤンさんはお仕事兼ねてるけどね。
うん。
僕らは、魚の獣人さんたちの力を借りて、慌てて出航することになったんだ。
レッデゼッサ一味も当然連行しつつ、ね。
どうやら、今朝方、例の流氷がかなり接近してきてるのが分かったらしいです。
まだ、クッデ村辺りからは見えないけど、沖に来てるって、マウナさんたちが調査報告してくれました。
あ、そうそう。
この流氷の訪れで、クッデ村からは、余所者、っていうか、トゼ辺りから来た商人は完全に姿を消すようです。
とはいえ、ほとんどのそんな人って、大手の商会ほどさっさと逃げ出してるんだけどね。
ちなみに、僕が会ったお偉い商会のおじさんとか、大物の孫娘の某お嬢様とかは、いの一番にトゼに向かって出発したんだって。少し沖の航路で、安全をとってトゼに向かうらしい。陸に近いほど海底は複雑だから、少々沖合で、島も少ない航路があって、時間はかかるけど安全にそんな海の道を行くのだそうです。
なぁんてのは、苦々しげに教えてくれたクッデ村の住人セグレの情報なんだけどね。
「あいつらいっつも、こっちが討伐隊を組織しだしたらいそいそと逃げ出すんだぜ。」
なぁんて、愚痴ってました。
とはいえ、もっとギリギリまでいるのは、陸伝いの道を行く商人さんたちです。
彼らも、あんまりゆっくりはできないそうで、それでもギリギリまで商売をしてるんだって。
この時期は、討伐隊が出て、森から大量の魔物を狩ってくるでしょ。
冬の時期、ってことは寒いわけで、丈夫な毛皮とかがたくさん手に入る。それとか、脂肪たっぷりの魔物のお肉とかね。
浅瀬の魔物なら、魔力が多くなくて、食べてもお腹壊さないし、魔力を抜くのも簡単。冬場の食料に重宝されるんだって。
そんな早期に狩られる魔物肉目当てにギリギリまで行商人がいるってのも、たくましくって僕は好きです。
あ、ちなみに、僕も自分たちが狩ったお肉はバッグに入れてお持ち帰りしてるよ。割と奥で狩ったのが多いし、その分魔力多め。僕とかアーチャは平気っていうか、おいしくいただけるけど、魔導師じゃない人には厳しいかなってのが多いんで、そこはバフマの腕の見せ所です。アハッ。
そんなある意味クッデの風物詩的な移動のことを聞いてみたり。
この霧だってある意味クッデの冬の名物でもあるそうで。
風も強く、霧も出て、海が荒れて、しまいには凍っちゃう。
普通の船には無理な環境。
けど今回は海を住処とする心強い友達の協力のもと、しかも、世界最高峰の技術が詰まったわが商船でもって、この強行軍、可能になっちゃったんだよね。
僕たちが行く予定の航路でこのお船だと、先に逃げ出した船より速くトゼに着くよ、なんて、(まさに)水先案内人の皆さんから保証されちゃいました。
そういうことで、無事、僕らは、お船に乗って出航だ!!
ちなみに、船の積み荷は僕のバッグに入れました。
だってさ、商船だよ?
そもそも罪人の護送なんて設備ないし。
もともとは陸路で荷馬車に詰め込もう、って思ってたしね。
そのための荷馬車、実はナスカッテ国でもらってたんだよね。
僕のバッグとか、知ってたわけじゃなくて、船で行くのは分かってたから、という体だけど、多分陛下とか、父様、そしてプジョー兄様は知ってて、僕に提供したんだと思うんだ。
ハハハ。少なくとも、アレクサンダー号でこっちに向かってる兄様に関しては、何らかの方法で僕が狩った獲物を提供してるのは気づくだろうし、そもそも僕が行ったり来たりするのを見てるからね。あの人、相当頭も切れるし・・・
ま、その辺は、プジョー兄様と同行している大人たちがうまく説明すると思います。なぁんて、ね、エヘッ。
いずれにしても・・・
僕らのお船に罪人護送の設備はないわけです。
で、本来は倉庫の場所を簡易的に、彼らの居場所にしよう、ってことにして、本来の倉庫の中身は僕のバッグの中。
あ、ゲスト?ていうか、仲間?
なんていうか、僕の騎士だ、なんて張り切っちゃっている南部の人たち、一応同行してます。
まぁ、レッデゼッサたちの見張りとかを買って出てくれたからありがたいけどね。
彼らには客室を提供してるよ。
ちなみにこの商船には、便乗したいお客様をある程度は乗せられる仕様になってます。っていうか、この世界の大きな船は基本的にそうなってる。
定期船、なんてのも多いわけじゃないし、海の移動はお金を払って商船とかに便乗するのが普通なんです。逆に言えば商船にはそのための客室を備えてるのが普通なんだよね。
「それにしても、すごいな、この船。」
出港してすぐ、僕とアーチャ、そしてリークは魔力を溜める貯蔵庫?へ。
まぁ、でっかい魔石を込めたバッテリーの魔導具、的なやつです。
この魔導具から魔力をあちこちに配分して操船やら、まぁいろいろするんだ。
他にも、帆だけ、つまりは風の力だけでとか、オールで漕いで、とか、操船方法はいろいろあるんだけどね。
主に魔力からのエンジン使ってプロペラで操船、っていう、なんていうか、前世のお船と変わらない、動力が魔力になっただけの仕様ででも我がナッタジのお船は動かすことができます。
他の船でもまぁ、そうなんだけどね。
ただ、ほとんどは魔力による操船は補助的に使われる場合が多い。
なぜかっていうと、船を動かすだけの魔力を溜めたり用意するのが大変だから。
その点、わがナッタジ商会のお船の場合、エンジンだけでの航海が中心なんです。なんでかって?
エンジンを使うには魔力がいるわけで、この魔力を溜めるバッテリーっていうのは、なかなかにすごい技術だそうです。
でもそこは、前世ドイツの技術者で今ドワーフの天才技師カイザーと魔導具の天才ドクの合作。
ひいじいさんの時代に編み出したバッテリー&エンジンの組み合わせは、この世界でもそれなりに市民権を得てるんだけどね。それでもその最高点は、ここにあるってわけです。
とはいえ、魔力の供給には魔石か人力で供給が必要なわけで、それなりに消耗の激しい魔力を恒常的に供給するには魔石ってのはもったいなさすぎる。ていうか、航海のたびに必要分の魔石を積んでいたら、それだけで倉庫がパンパンになっちゃうかも。
てことで、緊急用に魔石で、基本は人が充填するのが普通になってます。
そのためにだけ魔導師を連れてく、って船もあるしね。
そう考えるとこのエンジンをメインに使うのは、躊躇する人も多いってことだよね。
ちなみにこのレベルの船を普通に一日動かすには、5人程度の人を用意するんだって。
専門の魔力多めの魔導師が乗るなら、3人ぐらい?
ドク・ゴーダン・アンナだと、なんとか戦闘込みのエネルギーを3人で充填できる、って言ってました。
ていうのはね。
天気が悪い、とか、戦闘がある、ってなるとさらにエネルギーは必要です。ドクたち3人でなんとか、そういう場合でもでも回せるレベル、なんだって。
ナッタジ商会のお船には、護衛も兼ねて魔導師レベルの人が複数名乗ってます。
とは言っても、魔力レベルはヨシュアと張るぐらいなんだけどね。つまりは宵の明星の中で一番魔力量が少ないってレベル。
それでも、いつも僕とかが出航前に満タンにして、減った分をゆっくり手の空いた人が充填するって形にすることで、常に満タンに近いバッテリー量を保つようにしてるんだそう。カイザーたちのバッテリーだからこその効率で溜められるし保管もできる、ってみんな褒めてました。おかげでプロペラだけで航海できるってね。
でもそれは、通常時の話。
普段はそれなりの速度しか出さないし、無理な舵取りもしない。
だからエネルギー量もそれほど必要としない。
けど、今回は、荒れる海で、しかもそこそこ派手に動く必要がある、とか。
そこで、魔力に自信がある僕ら3人で、ここのお世話をすることになったんだ。
とは言っても、僕が船に乗るときは大概僕、この係になってない?まいいんだけどね・・・・
今回は、僕やアーチャだけじゃなく、リークにもこの係を手伝ってもらおう、ってなったんだ。
なぜかディルがリークをうらやましがってたのは謎です。だって、ディルは剣使、物理上等の盾使いだよ?魔力、ないじゃん?
そんなわけで、僕らは3人、仲良くこの魔導具のところに来て、充填方法をリークに教えたり、他にも船の案内をしたりしてるんだ。
「それにしても、すごいな、この船。」
何回もそう言うリークに、ちょっとだけ鼻高々になっちゃったことは内緒だよ、エヘン。
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