第252話 冬の海の事情
1日飛んで次の次の日。
えっとね、なぜ飛んだかっていうと、大人の都合?
なんたって、他国の軍がいつの間にか、犯罪者を捕縛して凱旋?とかね。
そういうのの諸々を、調整する話し合い、的な?
僕は、立場的には、そこにいう他国の王子として一番偉いんだけど、ここでは見習い冒険者のダーとして扱ってもらうってことで、このお話し合いからはつまはじき?子供の情操教育云々とアーチャは言ってたけど、要は仲間はずれで何か決め事をしているようです。
で、その間何をしていたかっていうと、お手伝い、的なことかな?
奥地の魔物の脅威は去ったといっても、通常通りの冬の魔物狩りは続いているからね?
良い感じの魔力だまりで暖を取ろうと集まってきた?かなんかはよく分からないけど、まぁ、そんな魔物たちの間引きはまだまだ終わっていないんだ。
その辺は、同じく話し合いからはじき出された森の咆哮のセグレと、あとはグレンといっしょにプチプチ魔物を潰してました。
後は、このあたりの特別な景色のお話し、とかね。
僕の生まれた南の大陸は、多くが暑いんだよね。
雪が降る地域は少ないんだ。
といっても、高い山を有すジーアネマ領の北側、ネイティ山なんかは、雪だって積もるし、なんだったら頂上付近は万年雪だってあるんだけどね。
この辺は単なる地形とか、緯度の問題だけじゃなくて、魔力なんていう存在があるから、前世と同じような地理学なんて立ちゆかないんです、はい。
ただ、やっぱり一般論として、北は寒さが厳しくなる。
そういうことからここは北半球か、なんて、前世地球の記憶がある仲間なんかでは話してるんだけどね。
ただ、モーリス先生なんかは、僕たちがみんな北半球出身者だから、言葉を覚える際に、寒い方を指す言葉を「北」として翻訳?認識?したんじゃないか、って言ってるけどね。
実際のところはわかんない。ってか、それを知るためにも、海に出て、ぐるっと回れるかのチャレンジしてみたいな、なんて思ってます。
この世界も星、なんだろうか?そんな検証ね。
そんな、ひいじいさんも考えてたであろう夢を僕らも持っていて、アレクサンダー号、なんていうすごい船を造っちゃった、まであるんだけどね。
で、なんでこんなお話しが、って言うとね、セグレが教えてくれた、これから起こるこの辺りの風物詩、ってのが、うわぁ、北国だなぁ、なんて、前世記憶持ちの僕なんかには刺さっちゃったわけです、はい。
「こうやって、魔物たちがわらわらと現れた後にはさ、でっかい氷が海にやってくるんだぜ。陸や山が突然風に乗って海に現れるんだ。バキバキ、バキバキってすっげえ音を鳴らして接岸してくる。そりゃあもう壮観だぜ。」
こんなセグレの言葉に、ある言葉が浮かんだよ。
流氷。
確か、北海道の網走とかでも氷がやってきて、それを観る観光船なんか出てた、なんて記憶が浮かんできたんだ。
僕は、前世でそれを・・・・アハハ、観たかどうかなんて記憶はまったく浮かんでこないや。ただ、テレビかSNSの動画か何かでは少なくとも見たはず・・・
「氷が来たら、船で見に行ったりするの?」
「はぁ?いやいや無理無理。船なんて出したらひとたまりもないぜ。むしろ陸揚げするか、その時期になる前には、船はもっと南に引き上げる。」
「え?まさか、うちの船も?」
「ナッタジの商船か?そんなのとっくに引き上げたんじゃね?」
「・・・マジかぁ・・・」
セグレの話だと、小さい船は、陸に揚げ、ある程度のサイズの船は、寒気で魔物が溢れるか溢れないかの頃には、クッデ村から去っちゃうんだそうです。
なんか、氷が来る頃には、潮の流れとかも変わるから、氷の量が少なくても、海は危険なんだって。
あとは、魔物の分布もちょっと変わるみたい。
強い魔物が増えるので、船はこの村付近からはなくなるそうです。
村は、そうやって閉ざされるんだけど、一応、陸路は生きているんだって。
むしろ、寒い場所の魔物は毛皮が良かったり、肉が脂がのってておいしいからっていう需要もあって、険しい陸路でも商機だって行き来する商人さんたちはむしろ増えるんだそう。そういう意味では、逆に夏よりも小さな集落は潤ったりするそうですす。商人がやってくると、売るのも買うのもできるからね。
そんなお話しを聞きながら、まだ氷はやってきていない海の先を見つめたりして・・・
?
おや?
「ねぇ、セグレ。沖に見える船だけど、僕の勘違いじゃなけりゃ、あれってナッタジの船だよね?」
少々沖になるんだけど、一つだけポツンと海に浮かぶ船。
マストには、うちのロゴである、そろばんモチーフが翻っているように見えます。
「え?ほんとだ。まだ、出てなかったのか?あそこの船長は冬の海のことも分かってるハズなんだけど。ひょっとしてダーたちを待ってる、とか?」
「うーん。考えられなくはないけど。」
なにせ、うちの人たちは、自分で言うのもなんだけど、僕に対して過保護だし。
でも、だからって、危険を冒してまで、僕らを待つんだろうかって疑問もあるんだよね。だって、僕らは船がなくったって、ちゃんと陸路で移動できるって知ってるはずだもん。さすがに、冒険者レベルがそんなこともできないほど低い、なんて思っている身内はいない、はず。いないよね?
船がある方が断然早いし楽だけど、氷、なんていう危険が迫っているのが分かるなら、間に合わない僕らを待つなんてことは絶対にしないと思うんだよねぇ。
僕は、不思議に思って、首をひねります。
「・・・さまぁ!・・・だーさまぁ!!」
セグレと二人、不思議だねって、首を傾げながら海を眺めていた僕の耳に、かすかに僕を呼ぶ声が聞こえてきたよ。
空耳か?って一瞬思ったんだけどね。
風もそれなりに吹いていて、波だって激しい。
だから、音だってビュービューウィーウイーバシャバシャと、なかなかに賑やかだから、はじめはそんな音が言葉みたいに聞こえたかも、って思ったんだ。
けど、その声はセグレも聞いたみたいで、聞こえた?って感じで僕を見る。
僕は頷いて、耳を澄ますと、どう考えても、海の方から、しかもズンズンと近づいてくるんだ。
まさか、この冬の、しかも波も激しい海を泳いで誰かやってくる?
「ダー様、お帰りなさい。我らが精霊の愛し子様!」
へ?
いやいや、なんで?
海からやってきたのは、魚の獣人さんたち数名です。
先頭には、僕らとここクッデ村に一緒にやってきたマウナさん。
彼らは、どうやら、お友達の魚の魔物に乗っている?
「マウナさん、と、みなさん?え?どうして?」
「そろそろ氷の島がやってくる季節。我らでしたら安全な航路を案内できると思って、特にこの界隈に詳しい者とともに、お手伝いに参りました。」
「え?船が出せるの?」
「はい。船長にはすでに提案済みです。ギリギリまで坊ちゃんを待って、トゼに向かう、と船長からの伝言ですよ。帰ってこられたと聞いて、その日程等、話し合いに私も参加させてもらうため、戻ってきました。」
ハハハ・・・
なんでも、僕らと別れて、仲良くなった冒険者と臨時パーティを組んでたらしいマウナさん。で、今後の話の中で、氷の島って言ってる、まぁ、流氷だね、そういうのがもうじきやってくる、って聞いて、そういえば、陸の人の船は、ちょっとしたことで海を渡れなくなるんだって思い出したんだって。
でも、自分たちなら海の案内ができるんじゃないかと、島に戻って相談したりしてたそうです。
案の定、自分たちなら陸の人間よりも遅い時期まで、海の道を使えるってことが分かったんで有志を募ってクッデ村に戻ったってことらしい。
で、戻るなり、うちの船長に直談判もしてくれたらしいです。
で、あの沖の船、なんだね。
マウナさん的には、氷がちょろちょろ接岸するぐらいなら大丈夫、航海できる、ってことらしいです。
てな感じのことを口早に話して、地上に上がると、ギルドの方に走って行っちゃったよ。
どっちにしても、助かります。
たくさんの人を連れての行軍、ちょっと、っていうか、かなり憂鬱だったんだよね。
えへっ。
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