第250話 護送の助っ人は・・・

 『ダー、戻ったな。すぐに牢の建物に来てくれ。』

 僕が、用意してもらっていたアーチャのバッグから飛び出したら、すぐにそんなグレンからの念話が来たよ。

 焦った感じとかはなかったし、どっちかって言ったらうれしそうな感じだったから、いない間に困ったことが起きた、とかじゃないみたいだけど、あまりにすぐでびっくりしたよ。


 で、僕は、アーチャのバッグが置いてあった、僕にあてがわれた部屋から、外に出た。


 どうやら、こっちの小屋からは人が出払っていたみたいで、様子を探ると、牢がある方の小屋にたくさん人が集まっているみたい。

 あと、チラホラ感じる気配は、ディルたちとやってきた南部の騎士たちが、見張りをしているんだろうか。


 僕が外へ出て、そんな騎士さんたちと出会うと、みんな最敬礼してきちゃう。一応返礼はしてるけど、見ての通りしっかり冒険者の格好に着替えてるんだから、冒険者として扱ってほしいものです。


 あ、ちなみに、アレクサンダー号からボードで降りて、エッセル島へと向かったと見せかけた僕。エッセル島上陸はせずに、途中でボードごと宙さんの空間に入ったんだ。

 そこで、キラキラ王子服はお着替えしました。

 宙さんの空間だけど、僕が入るとなぜか宇宙船のコクピットみたいなところに到着します。うん。ひいじいさんのロマンってやつだからね。

 コクピットだけじゃなくて、ちょっとした居住空間もあるし、不思議です。

 でも、僕が行くところだけ、実体化したように見えてるんじゃないかなぁ、って最近は思ってる。


 みんなのバッグの中身はコンピューターのフォルダーみたいな感じになっていて、って言ってるけど、実際に、ここでの扱いはフォルダーそのものなんだ。

 僕が念じると、コクピットにあるSFチックな、スクリーンがタッチパネルになって現れるんだもん。

 みんなの入れた荷物はフォルダーの中にアイコン状に表示され、これもパソコンと一緒でアイコンは画像でも文字でもOK。それを好きな場所にドラッグアーンドドロップで移動できるんだ。

 この仕様も、ロマン・・・だそうです。



 ま、いいや。


 で、なぜか僕の荷物は僕の部屋(って宙さんが言う近未来っぽい部屋)で出し入れできます。

 服は部屋のクローゼットに、今着たいなぁと思う服が入ってる。

 脱いだのは、クローゼットにしまうと、いつのまにかどこかにしまわれてるんだよね。

 仕様の謎は・・・ハハハ、まぁ、ロマンです。



 てことで、僕は仰々しい王子服からいつもの冒険者服にチェンジしてるんだけど、出会う騎士さんたちは、どうも王子様として扱いたいようで・・・

 ま、いいんだけどね。

 ここで会ってからこっち、あの人たちとはずっとこの服で会ってたけど、ずっとこんな感じだし。

 なんか、ディルが異様に僕を持ち上げるもんだから、部下たちもへんに僕の事持ち上げてると思うんだ。

 仕事に支障がない程度に、抑えるようにだけはお願いしなきゃね。



 そんなことを思いながら、牢のある小屋の前へ行くと、グレンがうれしそうに尻尾を振ってます。

 僕は、その姿を見ると、走って近寄ったんだけど、何かあった?


 『この悪人たちだが、村まで連れて行くんだろ。手伝いを連れてきたぞ。』

 「?」

 『ワイズが助っ人をよこした。』

 何言ってるの?


 僕がハテナを頭に浮かべていたら、背に乗るように合図されたよ。

 で、グレンの足だと、ほんの5分ぐらい?

 人間だと5,6倍は、かかるだろう場所に・・・・なんだこれは?


 牢から逃がした見覚えある魔物数頭をはじめとして、4つ足の魔物、それもこんな奥地にしては小ぶり、って言ってもシューバほどはあろうかという、種類も様々な魔物が全部で20か30頭はいたよ。木々に隠れている子もいるみたいだから、実数把握は難しいかも。


 「えっと・・・グレン?」

 『ハッハッハッ、さすがに我が後輩だ、よく気がつく事よ。あの悪者たちを村まで運ぶのに人を待っていると知ったワイズの奴、部下を寄越してなぁ。人は食わんように言っておるが、何、自分たちがいじめた魔物に連れられるんだ、そのビクビクを感じれるならと、こんなに集まったぞ。』

 「はぁ?こんなに集まったぞ、じゃないよ。」

 『おまえさんなら、こいつらとある程度の会話ができるだろうが。本人たちに聞け。面白いぞ。』

 『面白いってなんだよ。でも、えっと、みんな僕の言うこと分かる?』

 僕は、念話に切り替えて、そうっと全体に投げかけてみたよ。


 『うぉぉぉぉぉ。』

 『ほんに、さすがは主様ぬしさまじゃぁ。』

 『新たなボス。なんと力強い。』

 『かたきをおどかしてええんだってなぁ。』

 『どこまでもついて行くぞぉ。』

 『ご命令を!』

 『ご命令を。』

 『ご命令、ご命令。』

 『命令・・・命令・・・命令・・・』


 耳に聞こえるのは、魔物のグワングワンといったうなり声だけど、心の方には、ずっしりとそんな声が投げかけられてきたよ。


 でも、あるじとかボスって・・・


 『ダーがボスのワイズを下し配下にしたからな。奴の配下はおまえの配下だ。ハハハハ。さすが、我が友よ。我は愉快だ。ガハハハハハ・・・』


 グレン。勝手に盛り上がってるところ悪いけど、僕には意味不明です。

 確かに、なんとなくそんなようなこと、ワイズも言ってたような言ってないような・・・・


 『なぁに、細かいことはよい。こやつらはおまえの役に立ちたい。実際、悪者の護送にはうってつけだ。迷う必要がどこにある。』


 なぁんて、グレンは楽しそうに笑うけど、どこの世界に魔物に護衛させて悪人を護送する人がいるっての?

 てか、ワイズは来てないみたいだね。

 『奴は、ダーに倒されたことにした方が都合が良かろう、と、部下だけを送り込んできたのだ。自分は荒らされた奥地の修復やら守護に回ると言うとったぞ。』



 まぁ、一応、森の咆哮が先行して村に戻って、件のジンバは撃退した、って報告することになっている。そして、村から護送要員を連れてくるって話なんだけど・・・


 とりあえず、僕はみんなにちょっと待ってもらって、グレンに乗って、拠点にしている小屋に戻ったよ。


 グレンに乗って戻ってきた僕を見てやってきたアーチャにこそっとその話をすると・・・


 アハハ。


 すでにアーチャとは、グレンは話をつけていたようで、僕が彼らを制御できそうなら是非やろう、って思ってたんだって。

 村にはそろそろ彼ら森の咆哮も着く頃だけど、そこからこんな奥地に犯罪者がいるから護送に協力して、ってお願いしても、実際にやってくるまでどれだけかかるかわかんない。冒険者を頼むとしたら、追加で費用だってかかる。

 だったら、魔物たちにお願いした方が何倍も速いし安い、ってことみたい。

 安いとかは、正直そんなに気にしなくても良いけど、速度は結構気にすべきだ、そうです。

 そもそも単に待っているだけでも、ここにはたくさん人がいるから、主に食糧問題とかもあるし早いに越したことはない、そうです。


 ということで、騎士さんたちのリーダーでもあるディルに、逃がした魔物が護送に協力したいって言ってきた、と、いろいろ端折ってお話ししたんだ。

 こんな話、でも誰が信じるのかなぁ。


 「さすがは我が王子。魔物もその魅力で従える。このディル・フィノーラ。生涯の主を貴方に決めたこと、今更ながら誇りに思います。」

 なんて、満面の笑顔と、ウッスラの涙で言うもんだから、僕、ちょっと、ってか、だいぶドン引きしちゃいました。いつからそんな子になった?



 「我らがアレクサンダー王子が魔物の協力を受け付けられた。これをもって魔物に護送の協力を得て、この地を退去するものとする。疾く準備せよ。」

 「「「「ハッ!」」」」」


 いや騎士団。ちょっとは疑問を挟もうよ・・・ハハハハ・・・



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