第249話 アレクサンダー号の処女航海
プジョー兄様が来た翌日。
うーん、よく晴れてます。
絶好の処女航海日和。
僕は、とっても王子様な格好をさせられています。
兄様よりずっとキラキラの衣装です。
はぁ・・・
なんかね、昨日はミモザの代官として兄様をお迎えする人だったんで、兄様より地味じゃないとダメだったんだって。ホスト側ってやつ?
それでも大概キラキラで、僕の髪に合わせて黒っぽい紺にラメがテカテカ光ってた。ラメって言っても、一つ一つが小さな宝石。っていうか魔石で、当然ながら手縫いです。
今日はね、アレクサンダー号の出航を祝したお祝いをやってからの、船出、なんだよね。
乗員は、兄様とそのお付きの人たち、つまりは近衛とかメイドとか執事とか、全部で15人ぐらいいるのかな?
メイドさんだの執事さんって言っても、みんなランセルに乗ってついて来ちゃうような人だから、当然腕っ節も想像できるでしょってことで、護衛だって兼ねてるみたいです。うちのラッセイとかとも仲良しみたい。あ、女性陣はミランダと仲良しなのかな?そんな感じ。
うちは、ほぼ全員集合です。
ゴーダン、アンナにミランダ、ラッセイ、ママとパパヨシュアとレーゼも一緒。
バフマ、バンミ、クジ、ナザ、ニーまで。
当然のこと、ドクにモーリス先生とその従者ナーさん。
あれ?珍しいところでは、ナッタジ商会の船乗りで一番偉いカッチェさんがいるぞ。そういや、ナスカッテ国で合流したの、息子のメンダンさんが仕切ってたけど、こっちにいたんだ。気づかなかったよ。
あとなぜか、パッデがいる。
パッデって、パッデ村に行ってなかったっけ?え?とんぼ返り?ママにエッセル号出してもらったの?すごいなぁ。ハハハ・・・
他にも乗船しないけど、たくさんのナッタジ商会の面々も見に来てたよ。
当然ミモザ在住の人たちも。
なぜか、冒険者ギルドで油を売ってる?人たちも。
こう、知り合いに着飾った姿を見せるのはちょっと恥ずかしい。
他のメンバーも王子ごっこ?アハハ、ごっこじゃないか。
王子しているときの職業っての?そんな衣装になってます。
僕の後見子爵夫妻としての、ゴーダンとアンナは、ペアって分かる赤と茶色の貴族服。同じく僕の本当の親兄弟としての、ママとヨシュアとレーゼも、白とか銀を基調としたいかにもおそろいな服。ちなみに子爵家だよ。
ミランダとラッセイは、おそろいの僕の近衛騎士としての服。
でね、バンミだけじゃなくてバフマ、クジ、ナザそしてパッデまでが、従者服余所行きバージョンみたいな、こじゃれたおそろい服です。近衛騎士服から飾りを最小限にしたような、なんとなくリンクするような衣装。
みんな僕の部下だよ、なんて感じで立っているのが、ちょっぴり不満です。
対等はプジョー兄様だけ、みたいな感じに演出されてるし・・・
でも、お見送りや見学の人はとってもうれしそうにしてくれて、拍手してくれたり、涙ぐんでいたりするから、僕も楽しく乗船したんだけどね。
ちょっとした式典の後、僕は船の先頭に立ち、右手を大きく挙げたよ。
「アレクサンダー号、出港!!!」
そう言った後、僕は大きくまっすぐにあげた右手から、炎の魔法を空高くボーンと打ち上げた。わざと大きな音を立てて、汽笛代わりだ。
それを合図に、ウォー、って大歓声が起きたと思ったら、力自慢の海の男たち(って、女性もいるけどね)や冒険者たちが、パンパンって、船縁にたくさんの樽を投げつける。
樽からは、いろんな種類のお酒が吹き出してきて、周囲にモワッとしたアルコールの匂いが立ちこめる。
港はそんなアルコールに酔ったように、さらなる喧噪に包まれた。
中には、僕の真似して空に向かって、魔法を打ち上げるお調子者たちも・・・
そんな景色をバックに船はゆっくりと海に出た。
一方船の中では。
港の人が見えるまでは、みんなで手を振ってたんだけど、甲板は立食パーティー・・・って良く言いすぎか。あちこちにお酒や料理が運ばれて、床とか荷物の上とかまでね。ちょっとした宴会です。
今は舵を握っているゴーダンも、ジョッキ片手だし、プジョー兄様がいても冒険者みたいに無礼講・・・って大丈夫?
見たら、ミモザに入るまでの数日、兄様とそのお付きの人たち、すっかりこうしたノリに慣れてたみたいだよ。
てか、お付きの騎士には、むしろこっち派の見覚えある顔も入ってるしね。リネイもトッチィもお久しぶり~。
なんて感じで出発したんですが・・・
アハハ。
ご飯を食べたら、小舟ならぬ板に乗って僕は離脱です。
あ、この板、そのまんま「ボード」って呼んでるんだけどね、僕の空飛ぶ道具です。って嘘。そんなに飛べないです。重力魔法の応用でね、一応馬車とかもうちょっと大きなモノぐらいまでなら上下させられるんだけどね。なんとか、ちょっとだけ水平方向にも動かせるようになりました。
重力って、上下はまだ簡単。だってそもそも上下に働く力だもん。
けど、水平移動って難しい。っていうか、重力では無理でした。
で、今のところできたのは、板を重力で浮かせて、後ろから突く。突くのは風とか水とか石を放つ要領です。
意外と地属性のイメージで押し出すのが簡単っぽい。ストーンバレット的な奴の石を出さずに、このボードをターゲットにするんだ。
簡単っぽいって言ってるけど、ほぼできてないんだけどね。
まだ今は、ちょっとずつこわごわ押す感じ。
強く押しすぎるとボードは崩壊するし、崩壊しなくてもバランスがとれないんだよねぇ。慣性の法則はこの世界でも存在します。
モーリス先生が、前世で、スノーボードとかサーフィンをやってたんだって。
でね、その形とか機能を思い出してもらいながら、カイザーメインで試行錯誤してできた板の道具が、この「ボード」なんだ。
今のところ使えるのは僕だけ。
そもそも浮かせることができるのは僕だけだしね。
ただはじめは押すのを、バンミにやってもらってました。
ちょっとバランスとれるようになったら、今度は僕の魔力を操作してもらって、僕も感覚をつかんで。やっと、なんとか壊さずに、こけずに、乗れるようになったんだ。
あのね・・・・
僕は今ナスカッテ国はクッデ村の奥地にいることになってます。
しかも、ターゲット移送の準備中。
ここにいるのはおかしいんです。
ターゲットをナスカッテ国の首都トゼへと移送して、あちらの関係者の人にこの人たち連れて帰ります、ってお使いしなきゃならないんだよね、陛下のお手紙持っていって。
てことで、僕は転移もどきをするんだけどね。
今、この船に乗っているのは、ほぼ関係者。そうほぼ、です。
今後のこともあるし、僕が転移もどきができるってことを、参加者は一応聞かされているけどね。
ただ、簡単にできる、って思われるのはさすがに難しい。
兄様にはバレた時に、精霊が協力してくれていて、精霊の空間経由で移動してる、ってことは説明してるんだけどね。
精霊なんだったらしょうがない、みたいな雰囲気?
そんなこともあって、精霊様に協力してもらうには、それなりの内緒のプロセスがあります、ってことにしよう、てなってるんだ。宵の明星としてはね。
だもんで、そのプロセスを踏むためには、ここじゃダメなんで、僕だけ設備の整っている拠点=エッセル島に向かいます、ってことにしました。
その方法としての「ボード」のお披露目。
今後一緒に行動しなきゃならない兄様たちに、隠すと面倒なことはお披露目しちゃえって感じです。大きな身体の魔物相手だったり、踏破が難しい場所の調査だと、浮けるって便利なんだよね。
秘密の能力ではあるけれど、ナスカッテ国についてからどうなるかわからないってことで、使いそうな力を小出ししていこう、って、ゴーダンたちが決めたんです。
まぁ、エッセル島って、海域が無駄に危険なんで、小舟で行くのも大変なんだ。
うっすらと海の上空を浮いていくと楽々です。
「じゃあ、行ってきまぁす。」
僕は、エッセル島に近づけてもらった船から飛び降ります。
焦った兄様だけど、ボードに乗って急浮上、からの、バイバーイ、って手を振って、何か言ってるみたいだけど、無視してビューン、です。
視界から消えれたら、ポシェットにイン、だけどね。
ハハハ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます