第246話 出航先に向かいます

 エッセル号はエッセル島を出発して、いろんな推進方法とか防御方法を試しつつ、目的地へ進みます。

 目的地?

 アハ。すぐ側だよ。

 エッセル島からも見える大地、その港町ミモザです。


 ミモザはなんやかやがあって、名目上、はじめに僕が代官ってのになった場所です。王家直轄地で王族が代官って感じ?

 もともとはナッタジ商会の本拠があるダンシュタと同じトレネーの中の一地域だったんだけどねぇ。

 ゴタゴタのせいで、王家に召し上げられた形になったんだ。



  ミモザと言えば、なんたって、海の玄関口だからね。国で一番の港町でもあります。結構賑わってるよ。高台には大きな領事館が建っていて、国一番の海軍もあったんだ。

 でも僕が小さいとき(今でも小さい、とか言わないでね)、ガーネオがらみでゴタゴタが起き、当時の代官屋敷はボロボロになっちゃったんだよね。で、その修繕という名の魔改造をやっちゃいました。ドクが。

 てことで、多分世界で一番セキュリティ能力に優れた建物になってると思うよ、ここの領事館は。


 ちなみに今は代官屋敷兼僕のミモザ邸ってことになってます。

 海軍?

 一応残ってる。

 けど、指揮権は王家の騎士団に組み込まれてるんだ。僕に渡されても困っちゃうからね。基地はミモザっていっても、町中とは少し離れたところにあって、その近くには大きめの商船とかも入れます。


 町に隣接しているのは、主に小さな漁師船が停泊する港だよ。

 大きな船が港に入っちゃうと、波が大変だから、町の近くに大きな船を入れるときは、ちゃんとお知らせが必要。

 普通は少し沖で小さな船に乗り換えて上陸したり、荷物の出し入れはするんだ。

 とはいえ、でっかい魔物を仕留めたときなんかは、大きな船が入ってきてもみんな大喜び。エッセル号だと大概大物を連れて帰るから、町の方の港に横付けしてって頼まれちゃいます。



 ミモザの人たちって、一応僕が代官だって知ってるよ。

 はじめはドクとゴーダンってことになってたんだけど、僕が王子になったときに、僕に引き継いだ。っていうか、はじめからそういうことになってたみたいです。

 けど、ここには代官補佐がいて、実際何もしないんだけどね。

 ちなみに、代官補佐はひいじいさんが育てた子供の一人にして、バフマのお母さんのセジさん。本人は職業はメイドだって言い張ってるけどね。ちなみにその夫のサダムさんは執事、なんだって。家のことはサダムさんが取り仕切ってくれてるよ。


 ほとんどの人は僕が王子って知っても、見習い冒険者のダーだって接してくれるから、この町はとっても居心地がいいんです。

 僕がまだ赤ちゃんで見習い冒険者になったとき、初めての依頼で領都トレネーから護衛依頼を受けて、このミモザにやってきたんだけど、あ、もちろんパーティでね。そのときの依頼者の娘さんが、僕の4つぐらい上で、僕ぐらいの弟を亡くしたところだったから、とってもかわいがられたんだ。

 その人はミンクちゃんっていうんだけど、あ、もうミンクさんか、今年成人したし。そのミンクさんとは今でも仲良しで、彼女に連れられて町をうろうろするうちに町の子供たちとかともいっぱい仲良くなったから、ダンシュタの次に僕の故郷みたいになってるんだ。

 うん。

 僕の大切な場所です。



 そんな場所へとアレクサンダー号を走らせると、港にはたくさんの人が集まっているのが見えてきたよ。

 たくさんの見知った顔がニコニコだったり、びっくりだったり、そんな顔で見ています。


 「ダーくぅん~~~。」

 誰かが僕に気づいて大声で叫んでるよ。

 僕は、それに応えて、船首に立つと、精一杯両腕を振った。


 「わ~~~~~」

 「ダーが帰ってきたぞ~」

 「でっかい船だ~」

 「かっこいい!」

 「ダー様、かわいいいいいいい」

 「なんだ、相変わらずちっせえなぁ。豆粒みたいだ。いてっ。」

 「だから、小さい言ってやんなって。結構気にしてるんだし。」

 「ちっこくても、あんだけべっぴんなら問題なかろ。」

 「王子の時点で何も問題ないだろ。」

 「きゃぁ。こっち見た~~~~~」

 「私を見たのよ。あんた邪魔!」

 「アレク様ぁ。」

 「おかえり~~~~~」


     ・

     ・

     ・



 港から聞こえるのは、もうお祭り騒ぎです。

 って、お祭りする気満々じゃん。

 普段から屋台が出ている港だけど、なんだか、お祭りのときレベルでたくさんの店が並んでるし。


 アハハハハ


 みんな陽気に僕らを迎えてくれてるみたいです。

 って、今日、ここにアレクサンダー号が来るって知ってたの?


 「ああ、明日にはプジョー殿が来からの。」

 「へ?」

 「ほれ、おまえさんの応援に殿下が出向くと言ってたろうが。」

 「・・・いや、そうだけれども。」

 「本当は軍船でいくはずじゃったんだがのぅ。」


 ドクがちょっぴり遠い目をして言ったよ。


 なんかね、養成校の生徒が消える事件の調査から始まった、南部を中心とした事件なんだけど。

 結局、南部の貴族を巻き込んだ、レッデゼッサとガーネオのタールの魔物の利用が中心だったってことみたいで・・・

 まぁ、タールの魔物利用はレッデゼッサで、ガーネオはその技術を提供する傍ら、強力な魔力を使うための実験が主なんだろうけど、変に利害が一致したってことで。そこに僕への恨みというか妬みというか、そういうのも乗っかっちゃった感じ?


 いずれにせよ国を挙げた騒動になった、その原因の人物の捕縛のために、将来の陛下であるプジョー兄様が海外まで出張ることになったんだよね。


 だったら、当然、国の船を使うでしょ?

 何?

 陛下も、父上である皇太子も、この船に興味津々?

 まぁ、僕の名前をつけた船を作っているのは知っているし、エッセル号には父上も乗って冒険者をしたって聞いたしね。気になるのは分かる。


 「プジョー殿が皇太子になるにあたり、おそらくは儀式でアレクも徴用したいと考えておるのじゃろうて。」

 「儀式に僕?」

 「まぁ、先の話じゃ。とにかく王家はこの船に興味津々でのぅ。まぁ、おまえさんを船の主にすることで、口出しはさせなんだがのぅ。ただ、処女航海にはプジョー殿も乗ることになったんじゃよ。」

 「?えっと、繋がらないんだけど・・・」

 「ただでさえ、超過戦力の宵の明星じゃ。おまえさんも含めてのう。じゃが、おまえさんは王家の一員じゃし、それが主ならば、王家の紐付きの船みたいなもんじゃ。ダメ押しに処女航海に未来の王が乗る。対内的にも対外的にも王家の顔が立つ。そんなところじゃて。まぁ、アレクが気にする必要はないがのう。いざとなったら、別に王家と違えてもかまわんしのう。それより、ほれ、港の皆に挨拶はいらんのか?」

 「あ、うん・・・て、あ!」


 たくさんの人たちの後ろに、何はなくても大切な人たちがニコニコとこっちを見ているよ。

 代官補佐のセジさんサダムさん夫婦とバフマ。

 彼らと一緒にひときわ輝いて見えるのは・・・


 ママ、ヨシュアパパ、それにレーゼ!!


 ただいま、僕の大事な家族!!




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