第245話 僕の名前のお船

 僕がいないと動かせない、って話だったけど、正確には動かせない、って事だったようです。うん、僕の名前がついたお船、アレクサンダー号。

 一見、帆だけで動くガレオン船っていうの?そう見えるんだけどね、船の底の方に櫂も積んでいて、それを外に出して櫂で動かすこともできるらしいです。だから、正確にはガレー船ってことになるのかな?

 櫂は普段収納していて、見た目にはテロンとした船底だし、まぁ、種類はいいや。とにかくそういうシステムです。櫂を出しっぱなしにするより流線型の方がスピード出るから、普段は流線型に近い形にしてるんだって。カイザーが嬉々として説明してました。


 てことで、動かすだけなら、それこそ全く魔力がない状態でも、人力で可だそう。あ、でも櫂を出すところが手動だと大変みたい。魔力制御でお水が入らないようにバリア的なの張るんだとかで・・・

 魔力が豊富な形で動かすなら、制御も自動にできるように魔法陣を使った魔導具仕様になってるんだそうです。でも手動で魔力を使わないなら、ゴムで水を入らないようにしつつ、って感じ。ちなみにゴムって言ったけど、素材はゲンヘ。この加工技術は二人に加えてモーリス先生も頑張ったらしく、前世のゴムより高機能に扱えるようになったんだそうです。すごいよね。


 て感じで、細々としたところにまですごい技術を詰め込んだアレクサンダー号。

 さっき言ったのはほんの一例でわかりやすいところの説明。

 あとは、魔力さえあれば、船全体を薄い膜で覆い、究極の非抵抗型のシルエットになっているんだとか。モーリス先生が言うには、前世でのロケットとか潜水艦を思い浮かべたら良いそうで、見た目は普通の帆を張った商船だけど、魔力の膜を張ると、見えないけど潜水型の形っぽくなってるそう。これで空気抵抗も水の抵抗も極力抑えて、推進力を確保しましたってことらしい。うん


 一番簡単に船を走らせるのは、帆に風を受ける、です。

 自然の風もなんだけど、魔法の風を帆船に吹き出せる仕様だそう。船に適宜風の魔法を送れる魔法陣が描かれていて、そこから風を送り、良い感じに走らせるそうで、曲がらせるために前後だけじゃなくて左右の舷にもそれは仕込まれてるんだって。


 あとは、動力。

 いわゆるエンジンです。

 船のお尻には、前世顔負けのモーターと羽がついていて、これは油で動いていた大型船と同じ仕組み。ただし、油じゃなくて爆発させるのは魔力だけどね。

 まぁ、これはエッセル号と同じ仕組みだそうで、第二次世界大戦時の超知識(某独裁者はUFOを研究していた、なんて話もあるわけで、実はカイザーもあの時代ではオーバーテクノロジーな知識を持ってたんだって)に、モーリス先生の地頭がいい人がオタク知識を身につけてみました、的な知識でもって、エッセル号より効率の良いエネルギー変換ができてるそうだけど、僕にはよくわかんないや。

 ちなみに、使われている金属は、前世よりも断然強いし魔力効率も良いんだって。


 防御・推進力はこれから推察できると思うけど、すっごいよね。

 で、攻撃力。

 うんわかってた。

 ロマン、ですよ、ロマン。

 だってね、ひいじいさんは団塊の世代の新し物好きが前世。

 退職後はRPGにはまったり、まぁ、ハイカラさんだったとはいえ、SFメインのオタクだったようで・・・

 日本の昭和世代のアニメとか、アメリカのハリウッドな宇宙ものが大好物だったのは宙さんを見ればよくわかります。

 カイザーだって、彼はその前の世代だしね。ひいじいさんのオタク知識にカイザーの技術屋の知識が乗っかってできたのがエッセル号だったってこと。


 で、アレクサンダー号には僕の他にモーリス先生がいます。

 モーリス先生はアメリカで活躍したらしいけど、好きのゆるめオタク(本人談)。忙しくてかなわなかったけど、聖地ジャパン巡りが憧れだったとかなかったとか。

 ラノベ世界にも詳しくて(といっても、本は無理だったのでアニメ化されたのを見るのが癒やしの時間だったそう。あと、フィギュア収集?)、ひいじいさんにはあまりなかった、魔法に対する知識が追加されたようです。うん。国民的ゲームレベルの魔法理解と、ラノベ系アニメレベルの魔法理解。その差が、アレクサンダー号の攻撃面に追加された、らしいです。

 まぁ、さすがに攻撃力の方は見ることができなかったので、簡単な説明を受けて、ヒャーってなったとだけ言っておきます。



 でね、そんなにも詰め込んじゃったんですよ。

 ほぼ魔導具ありき、の数々の仕様。

 仕様は切っちゃうこともできるので、どうやら走らせるだけなら、大きいとは言え効率よくなってるし、今までと同じぐらいの魔力量でOKみたいなんだけどね。

 とはいえ、エッセル号だって、魔力をたくさん使うってあきれられることもあったみたいなのに、軽く動かすだけでエッセル号と同じ、だそう。


 いちおう魔石でも動くけどね。

 魔力炉っていうのかな、蓄電池ならぬ蓄魔力するものの大きさはそんなに変わらないんだけど。

 ただ蓄えられる魔力が、エッセル号の約5倍らしく、魔石は効率悪すぎる。もし購入するなら天文学的数字になるよね。普通なら金銭的に動かせられないって感じ?


 エッセル号で、うちの魔導師レベルで3人必要だと言われる魔力。ちなみにこれは国に魔導師として仕えている人の中でも、魔力が多いね、て言われるレベルらしいです。それが3人。普通の魔導師って言われる人なら10人ぐらいで補填するんだなんて聞いたことあるよ。そんなレベル。

 アレクサンダー号はその5倍?

 まぁ、満タンで、ってことだし、魔力炉って空っぽになったときにその補充に必要な魔力がその程度って話なんだけどね。普通は空っぽになる前に追加するし、追加しないと勝手に減っちゃうし・・・放電ならぬ放魔力?


 で、魔力炉の3分の2はないと、全機能は使えない。この辺りは魔力炉を使うのに普通、かな?基本は人数がいれば順に追加していける。


 魔力炉って言ってるけど正式名称は様々で、船とか大きな施設とかの魔力の蓄電&配膳みたいな機能を持った魔導具を僕がそう言ってるだけなんだけど、この魔導具の大きなところって、蓄魔力するのは石や石の加工物、つまりは魔石由来なんだよね。

 で、どんな魔石を使うかってので性能とか精度が変わるらしく、カイザーがいろんな石と金属を混合して作り出した、非常に精度が良い物を使ってるんだって。

 で、なんとかこの大きさでエッセル号の5倍もの蓄魔力を成功させた、そうだけど、ここで一つ問題が。

 さっき人数がいればちょっとずつ魔力を充填して、協力して魔力炉を満タンにすれば良い、って言ったよね。普通はそれでいいんだ。


 魔力ってね、ほら、人によって、使える魔法の種類が違うように、人それぞれなんだよね。指紋みたいに人それぞれだから、知っている人の魔力だと、誰の魔力か分かるぐらいには、色とりどりなんだ。

 それでも、傾向ってある。

 わかりやすく言えば、魔法は火だとか水、地だとか風の性質を帯びていて、複数の属性を操る人は少ない、ってこと。

 普通の魔導具って、そういった魔力の属性関係なしに使えるぐらいにはファジーにできてるんだって。水魔法しかできない人も、火魔法しかできない人も、おうちにある電球に魔力を送れば光が点るってこと。

 ドク曰く、そもそも魔力が弱い人ってのは、属性への偏りも少なく、魔導具に属性の考慮はいらない。属性が強くても、そもそも魔導具は魔石に魔力を送ることによって作動するように作られてるから、魔石を通るときに必要な部分だけ用いるように、まぁ、濾過されるんだそう。というか、魔石が自分と相性の悪い部分をどけちゃうんだって。その分100の魔力を通しても、実際には80だったり50だったり、ひどい場合には10ぐらいしか力は魔法陣に流れなかったりするそう。それでも動くように作るのが技術力だそうです。あとは道具によっては、属性指定のもあるんだって。


 でね、アレクサンダー号の魔力炉。

 これは小さくするために、その濾過機能を外しちゃったらしい。

 ということで、属性なしの純粋な魔力で動かすんだって。

 これができるのは、訓練を受けた複数属性の魔力持ちの一部、だそう。

 けど、僕は、そもそもが魔力に色=属性がついてないらしいです。

 普通に送れば無属性の魔力になるんだって。

 エッセル号でも僕が重宝されて魔力炉に魔力を溜めてるんだけど、どうやら効率がすっごくいいから、ってのもあったたみたい。初めて知ったよ。



 てな、話を聞きながら、僕は魔力炉に魔力を入れ続けてます。


 ちなみにアレクサンダー号は発進したよ。これは仮航海だそうで、発進じゃない、って言ってたけどね。

 ちなみに、走るだけの魔力は、ドクが湛えていたんで、そもそも普通に動くんだけどね。

 ドクも時間をかけてなら、満タンにできるみたいだし。


 てことで、僕らは船に乗って、お披露目&処女航海出発地に向かい、移動中、です。

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