第244話 ロマンにはいろいろかかるようです

 森の咆哮が翌朝出発しました。

 グレンはディルに頼まれて、倉庫=牢屋のある建物にて、番をしてるみたい。

 グレンがいるだけで、みんなおとなしくなるそうで・・・まぁ、どう見ても特殊個体のランセルだし、ね。

 騎士の人たちにおいしいものをもらいながら寝っ転がっているだけの簡単なお仕事です。


 アーチャも騎士たちと動いている。


 僕は・・・・


 お子ちゃまは牢に近づいてはいけません、だそうです。

 いや、あれだけ「ご命令を」みたいな感じで接していたディルをはじめとした騎士さんたち、なんかおかしくないですか?

 なぁんて、ぐずってみても、お子様が見てはいけないものってのもあるらしいです。

 それと、僕に対してものっすっごく敵対している者が数名いるから、来ないでほしい、って。開く口も開かなくなる、だそうです。



 てことで、僕は暇だなぁ、と思いつつ、今回の報告=うまくガーネオとかレッデゼッサ一味を捕まえたよ、っていう報告を諸々にしています。


 『ちょうどいいから、こちらへ来なさい。』


 念話でそう言うのはドクでした。

 どうやら僕をちょうど呼ぼうと思っていたらしく、数日、ここで足止めって話したら、ドクのところへ来るようにだって。

 アーチャに一言言って、ポシェットに潜ったよ。



 外に出ると、エッセル島でした。

 ドクとカイザー、モーリス先生とニーがいたよ。


 「おお戻ったか。タイミングはバッチリじゃのう。」

 うれしそうに言うのはカイザー。

 なんのタイミング?


 「聞くより見る方がええじゃろ。みんな用意ができたら、出発じゃ。」

 ドクの声に、ニーどころかモーリス先生まで、ちょっとテンション上がってるよ。



 みんなの準備ができた、ってことで、僕らは連れだって、島の入り口とも言える船着き場?ドック?まぁ、岩をくりぬいた先にある港だね、そんなところに向かいます。

 ちなみにこの島への出入りは、この船着き場になっている岩場みたいな洞窟だけだよ。大概はエッセル号で出入りするんだ。たまに小さい船を出すこともあるけど。


 って・・・・


 え?


 え?


 ワァーーーーーすっごぉい!!!



 いっつもエッセル号が止まっているメインの港。

 そこに泊まるでっかい船!

 エッセル号よりも一回りは大きな、帆も張れる船がデーンって泊まってます。

 何これ?


 「どうじゃ?」

 カイザーが絶句する僕の様子に大満足な様子で聞いてきたよ。

 思わず走り出して側に行った僕が振り返ると、みんなニコニコ顔で僕を見ていた。


 うん。

 新しい船。

 作っていたのは知っていたし、僕もいっぱい手伝った。

 骨組みの時も知っているし、なんだったら竜骨=船の背骨の加工だって手伝ったし、あの木は南部の奥地で見つけた、魔力たっぷりの木が元になっている。それを運んだのだって、僕が宙さんの領域を経由して運んだものだ。


 部品だっていろいろ手伝ったよ。

 なんたって、前世ドイツのエンジニアで今世腕自慢のドワーフであるカイザーが設計し、腕を振るい、それに世界一の魔導師にして魔導具職人でもあるドクが惜しげもなく腕を駆使した魔導具だらけの船だ。それに世界有数の冒険者パーティ=宵の明星が手間も時間もコストも掛けて集めた素材で作られてるんだ。

 この世界に、ううん、前世にだってこれ以上の船はないと思うよ。


 2年近くかけて作ったこの船だけど、完成した姿は初めて見るんだ。

 だって、この1年近くはお仕事で学校へ行くようになり、その関連で南へ北へ、大忙しだったから、ここに来てお船の手伝いする時間がなかったんだもの。


 でも・・・・


 やっと完成したんだね。二代目エッセル号が!!


 「いいや、違うぞ。」

 カイザーが言う。

 「違う?」

 「そうじゃ。2代目エッセル号じゃないわい。こいつの名はアレクサンダー号。どうじゃ海の王者ににふさわしかろう。」

 え?

 アレクサンダー号?

 って、僕の名前?


 再びの唖然です。


 「そうじゃ。これはアレクサンダー号。アレクよ。この船の主はおまえさんじゃ。」

 ドクが優しい表情で言う。けど・・・・


 「宵の明星とかナッタジ商会ならわかるけど、僕?」

 「だから言ったじゃろ?だいたいエッセルの奴が大それた名前をおまえさんに残したが、アレクサンダーってのは大王の名じゃろ?この船にはその名を冠するだけの価値がある。それにのう。そもそもおまえさんありき、なんじゃ、この船は。」

 「?」

 僕がハテナを浮かべてカイザーを見るも、微妙に顔を背けられたよ。

 なんだろ?

 そう思って、ドクを見ると、スーってカイザーと同じように目を背けて・・・


 ?


 「クックック。まぁ、お二人のことは大目に見てあげてください。これがロマン、ってやつだそうですので。」

 そんな二人と僕の様子にモーリス先生がおかしそうに口を挟んだ。

 「ロマン?」

 「さすがにエッセル様と冒険をしていたお二人だけのことはあります。夢とロマンを全部乗せしたら、大量のエネルギーが必要になったようです。」

 「どういうこと?」

 「蓄電、ならぬ蓄魔力の装置を、船が動くだけ満タンにするには、ダー君の魔力が必要だそうです。高品質で大量のダー君レベルの魔力がないと、動かないそうですよ。」


 ・・・・


 ハハハ。

 これがロマンってやつかぁ。

 ひいじいさん仕込みのロマンってのは、どうも燃費は悪いようです。


 ちなみに、蓄魔力?でも、直接魔力での操船でも、僕の魔力量ありき、みたいだね、アハハ・・・


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