第243話 悪者、拘束です
地下で倒れたガーネオと冒険者たちの拘束をディルたちに任せて、僕とアーチャはとりあえず地上へ。
て、慌てて上がってきたものの、どうやら決着はついていて、数名の見張りの冒険者を軽く倒した森の咆哮の面々は、2階から覗いていた商人たちをも拘束していたよ。
商人たち。
レッデゼッサ会頭その人に、嫡男ガイガムもその中にはいたんだ。
「この奴隷のガキが!」
とまぁ、僕を見るなりガイガム君、ギリギリと歯ぎしりしながら怒鳴るあたり、いろいろあったのにとっても元気そうです。
ガイガム君のお父さんも、ものすごい形相で僕を睨んでるよ。
怖い顔をしているのはこの二人ぐらい。
その横で数名の商人とその従業員らしき人もいるね。
僕の知ってる顔は、・・・あ、あの人ってアルドラ商会の人だ。
ビレンゼ領っていう、バルボイ領の近くの小さな領で、確か魔導師と商人が多くて力を持っているとか。で、王都とダンシュタに暴走馬車を走らせたので捕まったはず・・・・
うん。そのときにチラッと見た人がいたよ。
「奴隷?」
セグレがハテナ顔で僕に聞くけど、「ハハハ」って僕は苦笑い。
まぁ、あんまり大々的に言う話でもないし、僕が王子になったって知って驚いたのに、その前は奴隷だったなんて話したら頭がこんがらがっちゃうだろうから、とりあえずスルーで。
「レッデゼッサ会頭ジザイア、およびその仲間たちでいいね? 私はアレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジタシオ・タクテリア。タクテリア聖王国が王ティオ・ジネミアス・レ・マジダシオ・タクテリア陛下より、レッデゼッサ商会および協力者の捕縛および連行の任を受けし者なり。」
そう言いつつ、僕は陛下の任命書を鞄(と見せかけて実は宙さんの空間からだけどね)を取り出して、みんなに見せたんだ。
「そんなものは無効だ!」
驚愕とか、絶望とか、そんな表情の商人たちの中にあって、でっぷり太ったガイガム君の父上がうなるように言ったよ。
でもそんなこと言っていいの?
だってこれ、本物の玉璽が押された正式の書。つまりは陛下直々の言葉を否定したってことになるよ?
「おまえは、陛下をはじめその魅了の力で我が聖王国そのものをたぶらかし、皇太子殿下の第3王子たる地位を簒奪せしめた国賊だ!奴隷の分際で、成り上がったがその証拠。その玉璽は本物だとしても、そもそもがその簒奪せしめた地位を根拠にしている以上、そんなものは無効だ!」
アハハハ・・・
僕に魅了の力なんて、ありまっせ~ん。て、言っても聞く耳持たないんだろうなぁ。
「このうつけ者!」
ガーン!って、剣の柄で軽くその頭を叩きながら、吐き捨てるように言ったのは、なんと、いつのまにか現れていたディルでした。
軽く、とはいえ、後ろ手に縛られたでっぷり商人のレッデゼッサ会頭。そのまま横倒しになって、アップアップしているよ。
気がつくと、ディルたちと一緒に来てたバルボイの騎士たちが僕の背後にいて、きれいに整列していた。
「ちょっとディルってば、やりすぎ。拘束されて身動きできない一般人をそんな風に扱っちゃダメだよ。」
うん。基本的に僕は暴力反対です。
「お言葉ですが殿下。この者は我が主を敬わぬどころか国賊などと罵倒しております。これは問答無用に無礼打ちすべき事案。この程度で済ますことこそ忸怩たる思いです。」
いやぁ、なんかディル君が前にも増して危なくなってるって言うか何というか・・・
「アレク様。諦めてください。あの人、普段からあなたに傅けないのがものすっごいストレスなんですよ。せっかく自分が生涯かけてお仕えしようって方に出会えたのに、友達として接して欲しい、なんて言われて、恐れ多いのにってね。まぁ、俺にはそっちの方がありがたいんですが、あの人、頭硬いですから。さっきの、殿下としての口上。いやぁ立派なモンでした。うちの上司、嬉々として殿下の騎士ムーブを取ってるところなんすから、ちょっと大目に見てやってくださいな。ヒヒヒ・・・」
僕が途方に暮れていたら、パってリークが僕の後ろにやってきて、耳元でそんな風にささやいたよ。
いたずらっぽくヒヒヒなんて笑ってるけど、リークも大概だよね。だって、そこからあふれる「坊ちゃん良かったですねぇ。」なんていう愛しげな感情をディルに浴びせてるんだもん。ハァ。だめって言えないよ・・・
僕はため息を押し込めつつ、言った。
「ディル。粛正はダメだよ。陛下から連行の命を受けている。とにかく彼らは国に連れて帰らなきゃ。生きて、ね。」
「御意。」
僕の言葉に、ディルは膝をついて頭を垂れたんだ。
ま、そんなことがあって、とりあえず、この小屋にいた人は無事捕縛できたよ。
思ったより人数が少なかったのは、巨大ジンバ、まぁ、ワイズのことだよね、彼をタールの魔物にするため、捕獲しようとして、たくさんの冒険者をけしかけ、失ったためらしい。
で、その補給のために、例の転移魔法陣を使い、騙して雇った冒険者を大量に呼び込もうとしていたみたいです。
でここで、バルボイの騎士たちなんだけどね。
どうやら、僕らがバルボイの南端で見つけた彼らの部下たちを、バルボイの人たちもちゃんと取り調べをしていて、そこから芋づる式に関連の組織とか施設を潰しているところだったようです。
で、たまたま踏み込んだ先で、まさに雇った冒険者たちをこちらに送る儀式?をしていて、魔導師たちがバタバタ倒れていってたところだったんだって。
ちなみに、その捕り物の指揮をしていたのは、ジュートローさん、つまりは辺境伯の息子で、その下でディル君も一部隊率いてたってわけだそう。
で、ジュートローさんに提案して、ちょうど光ってきた魔法陣に自分の部隊を突入させてくれって、リーク曰く強引に、飛び込んだらしい。
はぁ。ディルの部下の人たちご苦労様です。ボスが無茶って、大変だねぇ、なんてねぎらうと、なぜか森の咆哮からあきれたような目を向けられたけど・・・気にしちゃ、きっと負けだと思うんだ。
て感じで、応援の冒険者が送られるはずの魔法陣から、次々と追っ手の騎士が現れたから、さあ大変。
ガーネオは、即時応戦、上には少数の見張りを残して、ほとんどの戦力を投入。
さすがにガーネオの魔導具込みの戦力は侮れないし、しかも投入されてた冒険者は剣士も魔導師もみんな洗脳状態だったから、怪我も死も気にしないで突っかかってくる。さすがの辺境バルボイの精鋭もやばかったですよ、なんて、リークは笑ってたよ。
そんなところに、アーチャが来て、僕が来て、って感じです。
で、とりあえず、この場はディルにお任せできそうなんだけどね。
軽く商人とか冒険者とかの尋問を、お隣の小屋=魔物たちが捕らえられたところで行うみたいです。幸いいくつもの牢屋があったってことで、そこを使って捕らえておくみたい。いやぁ、力尽くで壊さずに良かったです。
人がいた方の小屋は、なんていうかちゃんとしたお宿レベルの部屋もあるし、適当に部屋割りして今日はみんなで使うことに。
とりあえず、簡単に取り調べするのにも数日いるみたいだしね。
今日は全員一泊。
明日朝一で、森の咆哮は、ギルドに報告するためにも先に帰るそうです。
多分レッデゼッサの部屋だと思うひときわ大きくて豪華なところに僕一人で入れようとした人がいたけど、アーチャにも一緒に入ってもらったよ。本当はもっとたくさん入るかもっと小さい部屋でって言ったんだけど、ディルが許してくれなかったです、はい。
まぁ、僕とアーチャは数日ここでゆっくり、だね。
レッデゼッサたちを連行するにしても、人手は必要です。
それは、ギルドが派遣・・・・してくれる、よね?
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