第242話 僕の騎士たち?
まずい!
「反射!!」
僕が地下へと駆け下りたら、まさに佳境。
ガーネオの足下に何人もの魔導師が干からびて転がっていて、新たに一人をたぐり寄せ、左手でその頭を鷲づかみ。右手は彼の敵、つまりはアーチャたちに向けて、特大の石つぶてを弾丸のごとく発射していた。
その周囲では、目がうつろの、多分冒険者たちと思われる人たちが、騎士の格好をした人たちと剣を打ち合っている。そのリーダーと思われる彼は、立派な盾で先頭に立ち、戦線を維持していた。
僕が現れて、チラッとこちらを見ると、力強く頷いてくる。
騎士と冒険者。
騎士たちが押しているのは一目で分かったけど、それでも苦戦の雰囲気なのは、ガーネオが使う魔力の余波に苦しめられているから。それと、相手はどう考えても正気じゃなく、だからこそなのか、騎士だからなのか、殺さないように制圧しようとしているからだろう。
けど、彼らは大丈夫。
僕は一目見て理解する。
と、同時に、こっちは・・・やばいです。
思わず、風の結界で防御するアーチャとその補助をする見覚えのある魔導師の前に僕は立ち、最近のとっておき、「反射」の魔法を唱えたんだ。
反射。
これは実は怪我の功名っていうか、別の魔法の構築中に偶然生まれたんだ。
僕は独自の魔法として重力の魔法を使えるでしょ?
重力って言えば、やっぱり究極はブラックホールとビッグバンだよね、なんて思って、開発しようと頑張っていたときのこと。
ブラックホールは重力を限りなく点に凝縮すればできるはず、って予想のもと、魔力を固めていたんだよね。
でも残念ながらそうはうまくいかなくて、すり鉢状に魔力を凝縮するので精一杯。
なんて、やってたんだけどね。
あ、ちなみに開発はエッセル島の沖合の小島でやってたんだ。ちょうど去年の今頃のことです。ドクと一緒にね。
僕は、頑張って点に固めようとなりふり構わず集中してた。
もう周りが見えないぐらいに集中してたんだ。
そうしたら、海の中から水の弾が飛んできた。
うん海の魔物。
この海域でいるような奴じゃなくて、ドクは、僕の魔力に惹かれてきちゃったんだろう、って言ってたけど、そいつがね、当たれば即死かも、のレベルの水の弾を水中から撃ってきたの。
僕は思わず反射的に、魔力を固めていた両手を前に突き出したんだ。
そうしたら、その魔力に当たった魔法がそのまま、反射して、海中まで届き、自分の魔法で負傷したんだよね。そのときは魔物はびっくりして沖に逃げちゃったみたいだけど、そのときの僕とドク。
見た?見たよね?なんて感じで、びっくりでした。
魔法ではじく、って言ったら結界です。
けど、はじくって言っても普通は、防ぐだけで、ぶつかって消えちゃうか、せいぜい軽く跳ね返るぐらい。
盾で石や矢をはじくのと同じです。
まぁ上手な盾の使い手なら、球技でやるみたいに跳ね返すことはできるけどね。ほら、テニスとか野球のバットで打つみたいな感じで跳ね返すの。
とはいえ、当てただけならほとんど跳ね返らないし、威力は殺すもので跳ね返すものじゃないからね。テニスだって野球だって、相手の弾の威力を殺して、自分の力で打ち返すじゃない?相手の勢いを使うにしても、それ以上で打ち返す、って作業がいるものだと思うんだ。
盾も一緒。
普通は勢いを殺したり、流したりするもの。
結界も同じ感じです。
なのにね、ブラックホールを作ろうと固めていた重力魔法はどうやら勢いそのまま、後の実験で分かったけど、威力を追加する形で、全く同じ魔法を打ち返すんだ。まさに反射。
前世の記憶持ちの僕としては、某ゲームのリフ○クトなんて頭によぎったんだけどね、で、イメージ大事だし、その名前をつけようと思ったんだけどね、これはダメでした。だってねそのゲームでは、魔法は自分の前に丸い盾のように凸型に展開していたんだよね。けど、僕が作った?この魔法ってば、逆で凹型のレンズみたいなんだ。すり鉢型の中心に魔力を集めようとしてたから偶然できた凹型レンズ。そんな感じ。
てことで、イメージはレンズで反射するって感じだから、そのものずばり『反射』って名付けたよ。
まぁ、それはいいや。
アーチャたちが必死で防ぐその前に僕は飛び込み、この反射の魔法を撃ったんだ。
「グハッ。」
それは物の見事に跳ね返り、術者=つまりはガーネオの元へ。威力をちょっぴり増して、ね。
それにしてもさすが、アーチャです。
僕が飛び込むまできっちり結界を維持しつつ、僕が魔法を準備できた段階で僕の前だけ結界を消すんだもん。僕にはできないすご技だよ。
「き、さ、まぁ~~~。」
自分の放った魔法をほぼ受けて倒れたガーネオが、地獄の底から放つような声で言ったよ。うん、ほぼ。いや、ほぼ受けてなかったのかもしれない。
ガーネオはとっさに頭を鷲づかみしていた魔導師を盾にしたんだ。
魔導師一人分の魔力で強化した魔法を放ったガーネオ。
正直、一人の力ではアーチャどころか、その後ろで補佐する彼にも勝てない魔力のガーネオが放つ、強大な石つぶては、すでに魔力の大半を失い、その命までをも絞り出された名もなき魔導師の最後の命を犠牲にした。
「どこまでもどこまでも馬鹿にするのか!このクソガキが。殺す、殺す・・・・」
血走った目で立ち上がるガーネオは、別の魔導師に手を伸ばす。
もう残る魔力タンクにされた魔導師は2,3人てとこ?
これ以上、犠牲者なんて出させない。
「ウォーターアロー!」
伸ばす手に向かい、僕は水の矢を放つ。
僕としては極細の矢。
コントロールが下手だって言っても、この距離なら外すはずもなく・・・
「ウォー!」
伸ばした手の、手首へと命中する。
それを見たのか、僕の信頼する騎士が、残った魔導師の元へ駆け、その大きな盾の内へと非難させた。
「ガァー!邪魔するなぁ!!!!」
言うなり、長い呪文を早口に唱える。
が、僕に向かう石つぶては、先ほどの強大な威力だったものの見る影もなく・・・
僕は、その威力もスピードもない石つぶての前に、無詠唱で水の壁を置く。
石は水に触れると、ほろほろと地面に落ちていき・・・
「ウオーウォーウォー。」
ガーネオは僕に血走った目を向け、言葉にならないうなり声のような怨嗟を吐き続け・・・
ガツン
僕の優しい騎士がその剣の柄で頭を打ち付け、彼は意識を失った。
そのときにはもう冒険者たちは制圧されていたのだろう。
僕を見て、その騎士たちが整列する。
アーチャの側で補助をしていた魔導師が、騎士たちの一歩前に出た盾の騎士の斜め後ろに小走りにつくと、それが合図のようにザッと音を立てて騎士たち、魔導師たちが跪いた。
「ディル、リーク、驚いたよ。でも助かった。もうちょっと手伝ってもらえるかな。」
僕はそんな彼らの様子に、ちょっぴり出そうなため息を殺しつつ、そう言った。
「なんでここにいるのかは、その後で教えてね。」
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