第241話 名付けと戦闘と
ハンスさんのあきれ顔を後ろに、牢屋の鍵を次々開ける僕。
それと、ジンバには食べ物を少々。お肉とか果物とか、森でとれそうな物をそれなりの量出してあげたよ。
魔法で傷は塞がっても血は戻らない。
あと、眠り薬の影響もあって、体力も落ちてそう。
こんなときは、もりもり食べるのが一番だからね。
一応、瘴気が中に入りすぎて死んじゃってた魔物とか、あとは敵意満々の魔物はとりあえず保留。ジンバの部下っぽい?魔物は入り口を開けてあげたんだ。
彼らは僕たちを警戒してたけど、ジンバとの様子とか、あとは食べ物を出したのを見て、少し落ち着いたっぽい?
魔物と会話するのは、別にはじめてじゃないし、こちらから友好の感情を渡せば、警戒も解いてくれる、かな?
家畜なら、結構意思疎通できるんだけどね。
なんてやってたら、
グワン
でっかい魔力が噴き出すのを感じたよ。
その直前にグレンがピクッて立ち上がり、倉庫の外、丸太小屋の方に意識を向けたのを感じたんだけど・・・・
『ダーよ。あちらの建物で戦闘音だ。』
戦闘音?
僕には音までは聞こえなかったけど、意識を広げると、確かに戦闘が始まっている?
ていうか、森の咆哮組は動いてないみたいなんだけど・・・
「アーチャ。知らない人があっちの家で戦闘してる。今膨れ上がった魔力は多分ガーネオだ。」
「ああ、ガーネオの魔力は感じた。ずいぶん拡張されてるな。魔導具を発動してるみたいだ。しかし、誰が戦ってるんだ?」
「なんだ?戦闘だって?うちの奴らじゃないよな。」
「うん。もっと人数も多いし。」
「とにかくいってみよう。」
慌てて、僕らは出ようとして、ふとここをどうしよう、って悩む。
『ダーちゃま。この子に名前をあげて。』
僕が逡巡してたらエアが言ったよ。
名前?
『ダーちゃまともっとお友達になるの。だからグレンみたいに名前をあげて。お話がしやすくなるから。』
そういや、グレンに名前をあげてから、会話がスムーズになったけど・・・
それって、エアとかもだよね?
前世の物語では名付けで眷属になる、なんていう設定のお話はきいたことがあったけど、この世界でそんな話はきいたことがない。
でもエアが言うんなら意味があるんだろうね。前にもそんな話聞いた気がするし・・・
でも名前かぁ。
見た目はでっかいお猿さん。サイズ的にはキン○コン○なんだよな。色は特殊で、なんていうかモスグリーンみたいだけど。
僕に名付けの才能がないのは、みんなを見てたら分かるよね。どうしよう。
何気に、今の会話を聞いていたらしいジンバも興味津々って様子で僕を見ているよ。
とってもお利口そうなんだけど・・・そうだ
「ワイズ。ジンバの名前はワイズでどう?」
『ワイズ。小さきボスよ。我が名はワイズだ。』
?
これって、あのジンバの声?
『僕はダーだよ。ボスじゃなくて友達。ワイズ。今日から僕は君と友達だ。』
僕は念話でそう言った。
了承、って気持ちが流れてきたよ。
名前が分かると、言葉が通じやすいのかもね。
でも、これでここを彼に委ねちゃっていいかな?
『ねえワイズ。ここにいる魔物のことを頼めるかな?可能なら元いた場所に連れて行ってあげてほしいんだ。』
『任せよ。』
『えっと、食べたりする?』
『仲間は食わん。刃向かうものは食らうがな。』
『そっか・・・まぁ、そうだよね。じゃあ、全部開けられるようにしておくから、ここの魔物は連れて行くなりやっつけるなり好きにして。』
『分かった。我が友ダーよ。かわりに人間は任せて良いか。黒い魔物を産み出す悪しき者どもだ。』
『うん。そっちは任せて。もう黒い魔物は産ませない。・・・とグレン。ワイズのお手伝いできる?』
『それはかまわぬが、ダーは大丈夫か?』
『うん、アーチャたちもいるしね。それに、ひょっとしたら知ってる人たちが来てるのかも。』
『我もそう思う。では、後ほど戻る。気をつけろよ。』
僕は、グレンにあとを任せ、飛び出した。
とっくにアーチャとハンスは出て行ってて、小屋の扉はしっかりと・・・あはは・・・これはアーチャがやったんだね。魔法陣ごと木の扉は粉々でした。
そんな小屋をあとにする。
僕は、ちょっぴり急ぎながら、アーチャたちのあとを追った。
森の咆哮の他のメンツもすでに中に入ったみたい。
気配を追う。
といっても、小屋の中に入ると、蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていたよ。
設計図をもらっていたから、ある程度は分かるんだけどね。
1階は所々、柱だけで区切られたスペースはあるけど、でっかい食堂みたいになっていて、厨房が区切られてる感じ。
中央ぐらいに上に上がる階段があって、上階は個室がいくつかと大部屋、つまりは寝るスペース。まぁ、宿屋の客室的なつくり。
で、その階段の裏。
そこには床に扉があって、そこから下に行く階段がある。うん。地下があるんだ。
この地下は、魔法とかの訓練ができそうな結界とか、魔導具とかで保護された頑丈な物みたいで、設計図段階で、外に魔力が出ないようにいろいろ工夫されていたってことは分かった。
ただ、設計図よりさらにいろいろ追加されてるみたいで、たまたまこの床の扉が開いていたから、僕に魔力が感じられたんだと思う。人の気配もね。
つまりは、この扉が閉まっていたら、僕でも索敵できるか怪しいレベルのドクも顔負けのセキュリティが施されてるようなんだ。
一応、頭に入れていた設計図を思い出しつつ、僕はその下へ行く扉の前に直接来たんだ。てか、そうしろってハンスさんが・・・
小屋に入ったら、ハンスさんをはじめとした森の咆哮が見張りっぽい冒険者とやり合っている最中で、2階には、非戦闘職の人間が冒険者たちに命令している感じだったんだ。
「ダーは下へ。敵はほぼそちらに向かったようだ。こっちはアーチャが向かった。味方がいるかもと言っていたから一人で向かわせたぞ。」
「うんわかった。ここ、お願い。」
そう短く言葉を交わして、僕は、この扉の前へと駆けつけたんだ。
当然のことながら、アーチャも気づいてたんだね、この気配。
でもなんで?
なんで、彼らがいるのか。
そんな疑問を胸に抱きつつ、僕は、下へ向かう階段を駆け下りたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます