第240話 新たな友?
『ダー。ジンバだ。』
おっとこまえなハンスさんに頭を撫でられていると、グレンの声が頭に響いたよ。
ホーリーの光が収まると、瘴気は消えて、すがすがしい空気が室内を包んでいた。
ここはやはり、タールの魔物の欠片とか、それで作っている素材とかを保管しておく場所のようで、所々白く朽ちた残骸やら、まだ瘴気が浸透せず、元の素材に戻っている物やら、その中間やらが、いろいろあった。
その中でも、生きた魔物がいろいろいて、牢屋みたいなところに入れられてる。
グレンが見つけたのは、その中でもいちばんでっかい牢屋の中に拘束されているジンバだった。
「でっか・・・」
思わず声が出たよ。
何度かジンバと戦ったことはあるし、逃げてきた男の人の記憶でこのジンバも見たんだけど、百聞は一見にしかず。でかくてすっごい迫力です。
『眠らされているようだが、まだ瘴気の影響はないな。』
グレンの言うとおり、ホーリーでその強靱な体毛の先っぽが所々白くなっちゃってるけど、瘴気はまだ全然染みこんでなくて、そういう意味では無事だったみたい。
牢屋の外から覗くと、クスリか魔法かわかんないけど眠らされていて、床とか壁とか天井に吊るされたタールの魔物の欠片を入れた壺が、もうあちこちに置かれている。ていうのは、その壺の内側はすっかり白くなっていて、完全に魔力を失っているからね、タールの魔物の欠片を保存してる壺だって一目瞭然なんだ。
なぁんて、僕がグレンと寝ているジンバを観察していたら、周囲の魔物が騒ぎ出したよ。ジンバと同じように拘束されてた魔物の中には意識を取り戻して暴れ出す物も出てきたみたい。
僕たちは慌てて戦闘態勢に入って、それらを抹殺しようって動き出したんだけど・・・
『待て。』
言葉じゃなくて感情が僕の心に流れてきたよ。
グレンじゃない。
これは?
思わず振り返ると、まだ覚醒し切れていないジンバ?
『ジンバが待てと言っている。』
グレンも同じ感情を聞いたのか、そう言ったよ。
「みんな攻撃は待って!」
思わず僕は叫ぶ。
アーチャとハンスさんはすぐさま引いてくれたけど、なんだ?って怪訝な目を向けている。
「なんかジンバに待ってって言われたんだ。」
「ジンバが?」
そんな話をしている間にも暴れる魔物はいるけど、幸いっていうか、みんな牢屋の中だから、直接影響はない。魔法を使う種族もいるみたいだけど、どうやら魔力の発動を阻止する輪っかが身体のどこかにつけられてるようで、吠えたり体当たりをしかけたり、爪や牙で攻撃しようとするだけだ。
「ガァーーー。」
が、暴れるそれらに向かってか、気力を振り絞るように、ジンバが吠えた。
まるで、静かにしろって叫んでるみたいだ。
半数ほど、ハンスさんに言わせれば、奥地のやつらほど、その声に従ったのかな?警戒心を露わにしつつも、暴れるのをやめる。
『ダーよ。ジンバが何か言わんとしてるが、我では言葉にできぬ。妖精どもを呼ぶがいい。』
グレンの言葉に僕は頷き、エアとキラリンに声をかけたよ。
『どうしたの?ダーちゃま。』
すぐにエアが僕の目の前に現れた。
どうやらキラリンは、外の様子を警戒してくれてるらしい。
瞬時に彼らで情報を交換するんだもの、妖精って何気にすごいよね。
キラリンは外を見張っているけど、僕といろいろ共有しているらしくって、ジンバのことも分かってる、もちろん私もね、なんて、エアが言ってます。
だったら、「どうしたの?」はないと思うんだ。ハァ。
僕の気も知らず、エアはジンバのところにフラフラと飛んで行って、なにやらふむふむと話しているよう。
『ふむふむ。ダーちゃま。この子、ここの人間が悪さをしているのを見に来たみたい。みんなを悪い物に替えていってるって。何匹か魔物たちを助けたから、ここらのボスになったって。でも、人間の悪いのに自分も捕まった。その自分を助けたから、ボスはダーちゃまになったって。』
は?
『黒いのを白いのにして正気に戻ったのはダーちゃまがやったからでしょ?エアが教えてあげたの。だったらダーちゃまがボスだって。』
・・・・
はぁ??
僕はジンバを見る。
まだ、目が開ききらないけど、それでも精一杯こっちを見て、力強い光をたたえている瞳が見返していた。
「てことは、ジンバはダーの下につくってことかい?」
エアの言葉が聞こえるアーチャが言ったよ。
「はぁ?なんの話だ?」
「いや、ジンバがそう言っているようだ。奥地の魔物をこのジンバが従えているらしい。その辺のおとなしくなったのがその傘下ってことかな?」
アーチャがハンスさんに言ってるけど、何それって感じだよね。
そりゃハンスさんもあんぐりと口を開けるはずだよ。
『何を驚いておる。なぁに、我とダーのような関係をジンバも望んでおるってことだ。』
「グレンとの関係?」
『友達だろうが。それにおまえは我らの
「そうなの?いや、友達はそうだけど・・・」
『そうだとも。ハハハ。いいではないか。巨大ジンバを友にするか。さすがは我がダーだ。』
・・・・
てことらしいです。
徐々に覚醒してきて、身体を起こしかけているジンバも、グレンに同意している、そんな感情を送ってきたよ。
これどうするの?
「いいんじゃない?ダーの仲間がまた増えた。良いことだよ。」
アーチャがにっこりと笑ったよ。
まったくもう・・・
「ヒール。」
僕はそれに肩をすくめると、新しい友達にヒールをかけた。
タールを掛けられただけじゃなくて、いっぱい攻撃されて傷を負っていたからね。
はじめジンバはびっくりしたみたいだけど、すぐに満足げな様子で、僕には微笑んだように見えたんだ。
「ガオッ。」
ジンバがもう一度軽く吠えた。
おそらく彼の配下だったのだろう魔物たちも警戒を解いたのが分かったよ。
「ヒール、ヒール、ヒール・・・・」
僕は、敵意をなくした魔物たちの傷をジンバと同じように治していったんだ。
「あっ!」
そんな作業をしていたら、思わず思い出した。
ハンスさん!
ヒール、のことは知っているからいいんだけど。
それにジンバと友達になったってお話しは、アーチャが詳しく?説明しているみたいだし。
けど・・・
僕らの元々の目的はジンバの討伐で・・・
ハンスさんの仕事はジンバをやっつけることで・・・
思わず、気まずいって顔をハンスさんに向けたら、彼はイシシシって感じで笑っていたよ。
「ジンバが暴れて被害が出るのを止めるのが俺らの仕事だ。戦わずしてやっつけたようなもんだし、問題ねえよ。」
ハンスさんってば・・・やっぱり男前です。
「だが、これからどうする。逃がすにしても、この牢の鍵は壊せねえぞ。」
うん。魔導具だもんね。でもね、
「大丈夫だよ。この手のには慣れてるし。」
ハンスさんの、イシシシって笑いを真似して僕は笑うと、鍵に手をかけて魔力を流したよ。
「ほらね?」
魔法陣に過剰な魔力を流せば簡単だよ、そう言う僕に、ハンスさんは今日一、びっくりした顔を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます