第239話 見つけた!
実際、体感で1時間半ぐらい森を行くと、ジャヌさんが首を傾げた。
「この辺りだと思うんだが。」
それにハンスさんも同意する。
でも、一見、小屋があるような感じは・・・
あっ
かすかな魔力の揺らぎを感じる。
これは知ってる。
南部=バルボイに行った時に見たのと同じ、認識阻害の結界の気配。
僕は、念話でエアとキラリンに協力をお願いして、3人で、怪しい場所を見つけたよ。
やっぱり森の咆哮の方向感覚ってすごい。
この辺り、と言ったまさにその場所、前方10歩も行かないぐらいにその怪しい場所はあったんだ。
僕らは、そおっとその結界の内側へと入る。
南部で見たのよりもかなり広範囲を囲った結界は、中へ入ると、思った以上に広かった。
戦闘訓練でもしたのだろうか、大地は踏み荒らされた上で踏み固められている。
結界の中には建物が2つ。
いずれも丸太小屋というにはかなり大きくて、1つはスキー場のでっかい山小屋みたい。
その裏に、下部は石垣で上は板を張ったような真四角の建物。
『ダー。タールの魔物の気配だ。』
うん、そうだね。グレンが言うように、その四角い建物の中から僕も瘴気を感じたんだ。
「アーチャ、四角い方から瘴気を感じる。それと、手前のでっかい丸太小屋には複数の人の気配だ。」
僕は、感覚を研ぎ澄ませて索敵し、そう報告する。
「すげえな。この距離から分かるのか。」
ハンスさんが言う。
実際、手前の小屋までの間には、小学校の運動場ぐらいの空き地があるからね。ほら、訓練場に使ってそうなところ。
その踏み荒らされた空き地の手前、まだ森の木々が生い茂っているあたりに僕らはいるから、その距離から人の気配を探れるのはすごいことらしいです。エヘン。
さて。
ここで僕らは作戦会議。
手前の丸太小屋か、奥の四角い建物か。
「奥に人の気配は?」
「見張りはいるかも。でも、なんていうか感情がないっていうか・・・寝てる?」
はぁ?とか言いながらみんな苦笑する。
「まあこんな奥地の結界の中じゃ、見張りなんてそんなもんか。」
ハンスさんが頭をかきかき言う。
「が、まぁ、ラッキーということで、奥に回って四角い方の様子を見るか。ジャヌとセグレは手前の小屋の様子を見張れ。誰かが来たら報告。ボウはここで待機。何か動きがあれば報告だ。極力見つからないように見張りを。」
3人が頷く。
そうして、僕とアーチャとグレン、そしてハンスさんが、奥へと向かうことになったんだ。
それと、ジャヌさんたちにはエアを、ラックルボウさんにはキラリンを、こっそり貼り付けて置いたよ。ちなみに2人の姿は彼らには見えてないと思います。だよね?
奥の四角い建物。
大人の腰ぐらいまでは、石を組んでいて、さっきは見えなかったけど、一辺が半分スロープ半分階段になっている。そして、板のところまで上がると、どうやら木の板を持ち上げるタイプの扉になっているらしく、今はそれが閉ざされていた。
人の気配、というのはその跳ね上げ式の木の板の横に作られた門衛さんの待機部屋みたいなところからするみたい。
中からはうっすらと瘴気を感じるけど、多分、それを抑えるための結界が施されているんだ。これも南部で見た倉庫のと同じ感じ。ただ、あれよりもずいぶんと規模がでかいけどね。
待機部屋で寝ている人は一人。
ハンスさんがこっそり忍び込んで、背後から拘束したよ。
丁寧に猿ぐつわを噛ませ、ロープで縛り、床に転がす。懐から何かの薬剤を出したけど、どうやら、液体の睡眠薬みたい。
聞くと、でっかいジンバ用に用意したのが液体状の強力な睡眠薬なんだって。ていうか、話を聞く感じ麻酔薬っぽい?
大きな魔物と対峙するときには、割とポピュラーな戦術として、睡眠薬とかで弱らせてから、じわじわとやっつけるんだって。初めて知りました。
ちなみに、これ、弱い魔物ほど即効性があって寝ちゃうけど、強かったりでかかったりすると効きはゆっくり。しかも量だって大量に必要だったりするそうです。さらにさらに、動きの速い魔物なんかは、そもそも液体を掛けることが難しいんだって。
睡眠薬一つ使うにも、知識と技術が必要みたいだね。
まぁ、今回はすでに寝ている人間。
起きないように、ほんのちょっと嗅がす感じでOKだそうです。うん。なんか起きる気配はありません。
で、人間は大丈夫として、本題の建物です。
木の板を跳ね上げるタイプの扉とはいえ、しっかりと封印されているような状態。
この封印を外すとなると一苦労・・・
「まぁ、まかせて。」
フフッといった感じで、アーチャが扉に描かれている魔法陣に向かいます。
「やっぱり全く同じだよ。」
そう言いながら、何やら魔力を流したり、忙しく魔法陣に触れてるよ。
そういや、南部の倉庫だけじゃなくて、いくつかの倉庫には似たような封印の魔法陣が施されていて、アーチャもドクと一緒に解除してたっけ。
て感じで、余裕で封印は解除されちゃったようです。
もともと出入りしなきゃならないから、強力ではあるけれど解除は魔法陣さえ分かってれば簡単にできるようになっている、とのこと。僕も勉強しなきゃ、なんだけどねぇ。
でっかい跳ね上げ式の扉は、グレンが僕らの通れるように上げてくれたよ。
こそこそっと開けて、全員入ったらすぐに降ろします。
モワッ
いや、外からでも瘴気は感じていたんだけどね。
そもそも扉の封印はこの瘴気を外に出さない役目も持っていたんだ。中に入ると、一気に黒いもやと、なんて言うかモワッとした空気感が僕らを襲います。
思わず、
「ホーリー。」
言っちゃってから、しまった!って・・・
ハンスさん、いるじゃん。
てか、ハンスさん、ホーリーの光には驚いてるけど、いったい何をしたかまでは分かってないみたい。もともと魔力とかは強くないから、瘴気だって感じてないだろうし、まだ瘴気がタール状になってるわけじゃないから、黒く見えてるのは僕だけだ。
で、ハンスさんからしたら、ウェッてなりながら、僕がいきなりなんかの魔法をぶっ放し、真っ白な光に建物が包まれた、な、感じだと思う。
アチャーって感じで、アーチャは天を仰いじゃったよ。
僕だって、しまったって思ったもん。ついつい反射的に気持ち悪いと思ってホーリーを唱えちゃったんだ。気分的にはドブ川が急に目の前に現れて、思わず鼻をつまみながら手で空気を煽っちゃった、な、感じで・・・
「なんか、やったのか?」
「あ、ええと・・・」
「隠している魔法か?」
「・・・」
「だったら、俺は何も見なかった、でいいか?」
「え?」
「まぁ、冒険者なら、能力は隠してなんぼだ。ダーの秘密ならメンバーにも言わんよ。それにしても、なんて言うかきれいですがすがしい魔法だな。浴びれてラッキーだった。」
ニカッと笑いながら、優しく僕の頭を撫でるハンスさんは、まったく男前です。
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