第238話 森の事情

 いろいろ推測は成り立っても、ここでああでもないこうでもないって話していたって真実はわかんない。

 いろいろあって、みんなもお疲れ。

 なんだかんだで、おこぼれをあずかりに来た大量の魔物とも戦ったし、今日はここいらで野営ってなったんだ。



 この辺り、ちょっぴり開けてるし、ちょっとした高台が近接してる。

 開けてるのは戦いがあったためかな、って思ってたんだけど、それだけじゃなくて、この辺りはもともと開けたところだったんだって。

 冬場だと、この辺り、奥から出てきた魔物を狩るために命がけで来るような場所。

 だけどね、冬じゃなきゃ、高ランクの冒険者の格好の狩り場になっているんだそう。森の咆哮みたいな現地パーティで、それなりに優秀な人たちは、他所から来た高ランカーたちの案内とかもするので、割と庭だったりするらしいです。


 でね、この辺りは、そういった人たちに野営に良い場所としてよく案内しているところなんだって。

 実はこの森のなかにはこういった場所がチョコチョコある。つまりは開けている場所だね。


 森は深いところほど魔素が強くなりがち。とはいえ、かなり濃い場所とすっごく濃い場所では濃度が全然違うんだって。これは樹海とかでもあるある話なんだけどね。

 同じくあるある話として、この濃度はいろいろムラがある上、その濃淡は変わるんだそう。

 気候だったり、魔物の移動、その他突発的な何かとか、いろいろ原因はあるだろうけど、ね。

 魔物が移動して周囲の魔素濃度が変わるのか、周囲の魔素濃度が変わるから魔物が移動するのか。それは卵が先か鶏が先かみたいな議論になっちゃうんだけど、移動なんかで縄張りがぶつかっちゃったりしたときには、魔物同士だって戦いが起きる。


 強い魔物対強い魔物、強い魔物対強い人間、なんでもいいけど、そこで戦いが起きて魔法が使われると、極端に魔素の濃度が変わる場合があるんだ。濃くなる場合と逆に薄くなる場合があるけど、とにかく、周囲の魔素濃度が変わることがある。

 そうすると、その近辺の植物がダメージを受けるんだって。生態系が変わるってやつ?植物だろうが動物だろうが、体内には魔力があるでしょ?その魔力に適した周りの魔力?魔素?そういうのがあって、周囲の濃度が変われば動ける動物なんかは移動し、動けない植物は枯れちゃうんだ。

 てことで、戦い跡は、戦い自体で地が荒れる他に、こういった意味でも荒れちゃって、開けた場所ができるんだそうです。




 「だとしたら、ガーネオたちレッデゼッサの奴らのアジトもそんな開けた場所にあるかもね。」

 森の中に開けた場所があることの説明を受けた僕はそんな風に言ったよ。

 「だろうな。話に聞くと、そいつらは結構な数の魔導師やら冒険者やらを囲い込んでんだろ?それなりに広い場所が必要だろうし。」

と、ハンスさん。

 「そういや春から夏にかけて、大工を大量に森に連れて行った連中がいたな。あれ、ミゲル商会の雇われ連中じゃなかったっけ?」

 セグレが言った。

 「他所からの冒険者がほとんどで、奥地へ入ったから気になってたんだよな。ほら、ギルドでも話題になってたじゃん?」

 「ああ。しかもあの大量の人数が帰ったところを見たって話は聞かなかったな。まぁ、誰も気にしちゃいなかったってのもあるから、三々五々帰ったんなら分からんが。」

とは、ジャヌさん。

 「あの頃は、って今もだけど、ずっとクッデは開拓開拓で誰もが浮き足立ってたし、奥に入るのも珍しくなかったからね。」

 ラックルボウさんも頷きながら言う。



 なるほど。

 大工さんと冒険者がこっそり?かどうかはわかんないけど、奥へ入った、ってことは、奥に小屋なんかを建てるため、ってことだよね。

 森の咆哮がこんな奥まで詳しいとは思ってなかったけど、彼らなら、あの地図の場所、わかるのかな?

 僕はアーチャとこそっとそんな話をする。

 そう。

 僕らは彼らの小屋の地図とその設計図だと言う物を、ミゲル商会の会頭からもらったんだよねぇ。

 設計図はともかく、森の地図なんて入ってみなきゃわかんない。いくつか、名前やら特徴が入っていたけど、余所者の僕らにはからっきし。

 それでもこの地図片手に探そうか、なんて思ってたところの、この騒動だったんだけどね。


 僕とアーチャはお互い頷いて、森の咆哮に向き直る。

 そんな様子に、彼らも注視してきたよ。


 「えっとね、ジンバ討伐がこの今のパーティの目的だよね。」

 「そうだな。」

 「で、僕らは、そのジンバが僕らの探していた奴らと関わってるみたいだって分かっちゃったんだよね。」

 「ああ。」

 「でもそれは、ハンスさんたちとは関係のない話で、付き合わすつもりはないんだけどさ。」

 「付き合うぞ?」

 「は?」

 いやいや、地図の場所が分かるかどうかを聞いて僕らだけでいくつもりなんだけど?だって、危険だよ?


 「そもそもそいつらがジンバを連れてったってんなら、仕事の範疇だ。」

 「いやいや。話したでしょ?とんでもないことをする魔導師とそれを利用する商人たちだよ。」

 「あのな、ダー。俺たちはジンバ討伐を受けている。まぁ、正直こっちには手に負えんから、奴の相手はおまえさんたちに任せるがな。だがそのサポートまで放棄するつもりはねえ。で、そのガーネオとやらやどこぞの悪徳商人なんつうのは、ジンバ討伐の障害でしかない。つまりは俺らの仕事だ。そいつらの捕獲も含めて俺たち、俺ら森の咆哮とおまえら宵の明星の共同仕事ってわけだ。それをなんだ?おまえら独りじめする気か?クッデの冒険者としてそれは黙っちゃいられねえなぁ。」


 ハンスさんは言葉の内容に反して、からかうような表情でそう言ったよ。

 僕らに協力してくれる、でいいんだろうか。

 でも他の人たちは・・・って、おんなじようなからかうやらあきれたやらの表情をしていたよ。

 僕らに恩を感じているとは言ってくれてたけど、それだけじゃない、矜持みたいなのを僕は感じたんだ。


 「あはっ。みんな物好きだよね?だったらお願いしちゃうよ?でも危ないと思ったら逃げてね。」

 「あたりまえだ。きっちり逃げれて一人前。うちの半人前ですら、逃げ足だけは一人前だ。」

 「えーひどっいっすよ~。」

 ハハハハハハ

 セグレをからかってみんなが陽気に笑う。

 ほんとにいいパーティだよね、彼らは。


 ひとしきり笑い終わると、僕はポシェットから1枚の地図を出した。

 ハンスさんにそれを手渡す。


 「これは?」

 「この前、ミゲル商会会頭がくれたんだ。僕らと敵対しないって事だと思う。レッデゼッサを切り捨てた、ともいうけどね。」

 「はぁん、そういう・・・。やだねぇ、偉い奴のすることは。ま、これなら俺たちで分かるぞ。てか、けっこうここから近い。」

 「マジで?」

 「日が出てから昼までに2往復できるぜ。」


 これは慣用句。

 大雑把なこの世界では、1日だって、朝・昼・夜ですむ。とはいっても都会なんかでは、ある程度時間は知らせるけどね。日の出から日の入りまでが朝と昼で2等分。日が出てない時間が夜なんだ。

 日の出と日の入りは、大概の町レベルでは鐘をならす。

 そして、その中間時刻も鳴らすところが多い。この鐘が朝と昼を分けるんだ。

 細かい時間が必要な人たちは、それぞれ朝を4つ昼を4つに分けるかな?学校とかはこれが単位になったりしてるみたい。

 朝は、だいたい2つめの鐘から作業が始まるのが一般的。

 とはいえ、準備ができたら仕事、が普通だから、時間を気にする人がそもそも少ないんだけどね。


 ハンスさんが言うのはこの辺りのことをほのめかせた慣用句で、前世風に言うと、1,2時間もあれば着く、ってことみたいです。北国の冬は日が短いから、そんなもんだと思う。

 ・・て、森でそのぐらいなら、確かに近距離だ・・・

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