第235話 魔力の問題
「ガーネオがいた。」
僕は、アーチャに言う。
あのあと、すなわち、僕に自分の見たものを伝えたあとに、彼は静かに息を引き取った。僕にいっぱいの感謝と、いたわりの気持ちを伝えて。
簡単な埋葬を終えた僕たちは、さっきの様子を共有する。
ちなみに、僕が彼の記憶を見た、って話は、森の咆哮のみんなにアーチャが話してくれた。こうやって心を見る技ってのは、そんなに珍しいものじゃないから、彼らはすんなり受け止めてくれたけどね。
「ガーネオ?」
ハンスさんが聞いてくる。
「元はザドヴァの魔導師。強い魔法陣を創るのが得意なやつ。転移の魔法陣を創ったやつなんです。」
「転移?そんなものできるわけないじゃない。」
ラックルボウさんがうさんくさげに言う。
「ダンジョン内だと珍しくないでしょ?あれを参考に転移の魔法陣自体は古くから研究されてる、ってドクが言ってたよ。」
「それは知ってるわ。そして、だからこそ転移の魔法はない、って分かってるんでしょう?」
「そうだね。普通は発動しない。いろいろ工夫をしても発動できない、それが常識だったんだ。でも違った。発動できないのは魔法陣の問題じゃなくて魔力の問題だったんだ。ガーネオはそれを発見して、・・・・実用化した。」
ラックルボウさん以外の森の咆哮のみんなはちょっぴりハテナ顔。
でもさすがに魔導師でもあるラックルボウさんは、ちょっと眉をしかめた。
「実用化した?つまり使えるようにしたってことよね?それって魔力を用意する方法があったってこと?」
えっとね。
この世界では魔法の力は魔力の量によっても決まる。
たとえば、アロー系の魔法って使う人が多いけど、一般的には本当に弓につがえる矢が基準になってる。小さい弓から巨大な弓まで、矢はそれにふさわしいものってあるのだけど、基本的に矢って自分の腕の長さが基準になるんだ。
とはいえ、長い矢を使う人もいる。けど、長いったって自分の背丈はないでしょ?だって、弓は思いっきりひいても自分の腕プラス身体の幅が限界だからね。
イメージが魔法のできを左右するからか、やっぱりアロー系はこの範囲の
つまりは実在する矢の長さや太さが多い、ってことだね。
で、実際、この矢の威力を増すには、でかくするか、数を撃つか、力を圧縮するんだ。いずれも魔力は倍々ゲームで必要です。そういう意味でも、普通は矢で弓を射るのと同じような数とサイズがベターなのが常識。うん。僕にも常識はちゃんと身についてる。
ちなみに・・・・
僕の場合は、数は視界いっぱい分くらい出せるし、大きさなら、飛行機=前世のジャンボ機?ぐらいのが作れる。ジャンボ機大で使う魔力を針サイズまで圧縮するのも可能です。
これって魔力量が物を言うってやつなんだけどね、これができるって知らない人には言っちゃだめ。僕も常識人になったよ。アハッ。
で、話を戻して、ラックルボウさんの怪訝な顔の理由なんだけどね。
魔力って、持って生まれた物でしょ?訓練で増える、とは言っても、ね。
でも大きな魔法、強い魔法は魔力がいっぱいいる。
で、そのためにいくつか方法があって、魔力を他所から持ってくる、んだよね。
実はそのための方法もいろいろ古くから研究開発はされているんだ。
そのために魔法陣がある、ってのもあるんだけどね。
魔力を一つに集めてまとめて使う。基本はこれ。
この集め方だけど、たくさんの人が同じ魔法を一斉に使う。
数がいっぱいいる場合ってのはこれは有効です。
騎士団とかがよくやる奴。
あとは騎士団みたいな集団で、1つの大きな魔法を使う方法。
魔法ってのはイメージが大事。
だからバラバラに魔法を撃つだけだと、このイメージが固まらない。
だからといって単純に魔力を集めて一人が操るとしても、そもそも同じ波長の魔力なんてないから、まとまりが悪いし、操る人の魔力を受け入れられるキャパは決まってるから、そもそもそれができるなら一人でやってる。
てことで、魔法陣の出番。
いろんな方法で、複数人の魔力を集めてでっかい一発を放つ道具を創るんだ。
魔力を集めて均一化する魔導具。
イメージを魔導具内で固定する魔導具。
操作を分解して複数人で作業する魔導具。
それらの魔導具を連動する魔導具。
・・・・
まぁ、こんな風に強い魔法を創る、そして使うための魔導具ってのはいろいろあるんだけどね。それをどんな組み合わせで創るかっていうのも職人たちの腕の見せ所だそうだし・・・
だけどこれだけはいえる。
複雑な物ほど、強い魔力を集める物ほど、魔力をたくさんいるのに対し、魔力を集めれば集めるほど逃げちゃう魔力も多いんだ。
水漏れならぬ魔力漏れ。
放電ならぬ放魔力?
だからこそ、今まで不可能とされていたレベルの転移の魔法陣について、魔法陣より魔力の問題だって結論づけされた上で、そのでっかい魔力を収集できる魔法陣を開発したって話は、眉唾物レベルのすごい話題な訳で・・・
どうしたってまともな解決策じゃないんじゃないか、って、きっと僕らの様子も込みでラックルボウさんなら簡単に思い至ったんだろうと思うんだ。
「実用化した?つまり使えるようにしたってことよね?それって魔力を用意する方法があったってこと?」
そう言うラックルボウさんの顔は、相当険しいものだった。っていうか、むしろほぼほぼ僕に詰め寄るレベルで来たから、思わずアーチャが間に入って彼女を止めたぐらいにね。ハハハ・・・
「君の想像通りだと思うよ、ラックルボウ。いや、ひょっとしたらそれ以上かもしれない。彼は数多の禁忌、生け贄の禁忌に加え、領域外の禁忌に手をつけたんだ。」
アーチャのその言葉に、ラックルボウさんは息をのんだ。
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