第232話 ハンスの決意
なんだかんだ言いつつも、温かいご飯と寝床はみんなの常識よりも疑問よりもずっと強いわけで・・・・
さすがに一流パーティってのは野営まで違うなぁ、なんていう感想に(無理矢理?)落ち着いて、森の咆哮のみんなもご飯もテントも楽しんでくれたようです。
でも、びっくりだよ?
野営のつもりはあったそうだけど、持っているのは毛布だけ(まぁ、特別な魔物の毛でできてるから、暖かいは暖かいんだけどね。)。ご飯は乾燥したお肉とパン。でね、この時期は雪があるでしょ?コップに雪を入れて火に掛けると水ができる・・・らしい。野営の時は火をおこすから、その火で水を作るのは常識・・・なんだそうです。
ちなみに雪国あるあるとかで、ただ、火起こしが難しい場合もあるから、それだけに頼るのは怖いって話を、昔、ラッセイか誰かがしてた気がする。彼も北の国の出だから、ね。
ちなみに、このクッデでは、踏まれていない雪があると、水筒に追加しつつ行軍するみたい。溶けるし、ゆっくり休むときには水筒ごと火に掛ける。風とかが少ないから、火起こしは難しくないんだって。地理的に、そういうことらしいです。
そういや歩きながらチョイチョイ雪をいじってるのを見て、みんなそんなに雪が好きなのかなぁ、なんて暖かく見守っていたことは内緒です。大人なのにかわいいことするなぁ、なんて思ったりはちょっとしかしてないです。アハ。
僕の場合は、自分で水が出せるから、あんまり水の心配なんて考えたことがないなぁ。
そんなことを言いながらコップに水を足しているのを見て、また驚かれたんだけどね。あ、アーチャも同じように自分のコップに水を出してるよ?
これもまた、一流パーティ云々で納得していた・・・のかなぁ?アハッ。
野営をするなら当然、順番に見張りをしなきゃね、なんだけど・・・・
これは断られました。
なんかねぇ、おんぶに抱っこはやだ、だそうです。
ハンスさんたち、彼我の差ってのを気にしてる、とか言うんだもん。
実際、今日の後半は、彼らが4人で戦っている相手に、僕らはそれぞれソロで相手していたし、気にしていたみたいです。
で、巨大ジンバの相手は自分たちには荷が重いだろう、だって。
「そんなことは・・・」
って、僕が言いかけたら、逆に叱られちゃったよ。
「あのな、ダー君。冒険者はちゃんと自分の実力を知らなきゃならない。やりたくてもできないことはある。その事実をちゃんと分かってないと、あっという間に死ぬことになるんだ。戦闘で遠慮とかするな。自分も仲間も殺すことになるぞ。」
ハンスさんは、そんな風に言ったんだ。
「5年前のことを覚えているかい?」
ハンスさんは言う。
5年前。
最初にクッデ村に来たときだ。
そのときに黒い魔物を倒したんだ。
僕は頷いた。
「あのとき、まだ走ってついてこれないダー君をかついで、君たちのリーダーは黒い魔物に対峙したよな。俺たちには帰れ、と言ったのに。」
確かにそうだったっけ?
あのとき、森の咆哮は壊滅寸前。
まだ駆け出しだったセグレがパニック状態でギルドに飛び込んできて、彼の案内で僕らが駆けつけたんだ。
森の咆哮とか、最前線で戦っていた人たちはボロボロで、あのときは、黒い魔物にホーリーを試すしかないって思ってたから、簡単な治療のあと、みんな退却してもらったんだよね。
あのとき、僕を担いでいたのって誰だったっけ?
でも、クッデの冒険者たちが、僕を連れて行こうとするゴーダンに怒ってたのをぼんやり覚えてる。
「普通に考えれば、まともに走れない小さな子を連れて行くなんて、非常識なんてもんじゃない。でも、彼は君を連れて行き、そして事件は解決した。どんなに小さくても、あのときダー君の力が必要だったんじゃないのかい?なんだったら、あの魔物を退治したのが君だったんじゃないか、俺はずっとそう思ってるんだ。」
「・・・・」
「ハハ、答えなくて良いよ。だけど、これは覚えておいて欲しい。俺はゴーダンさんなんかと比べるのもおこがましい、つまらん冒険者だ。だが、リーダーとして、常にみんなの命を預かる、その気持ちは同じだって思ってる。あのときゴーダンさんは、みんなの命を救うために君を連れて行くという決断をした。どんなに小さな子だとしても、それが必要だと、逆に俺たちは邪魔だと、リーダーであるゴーダンさんは決断したんだ。もちろん悔しくないわけじゃない。だけどな、誰が何をできて何をできないかの正確な把握が、仲間を生かすんだって、あのとき俺は胸に刻んだ。だからダー君。君は自分の力をためらわなくていい。仲間を守るためにできることをきちんとやってくれ。俺たちはジンバ戦では役に立たない。どこまでサポートできるかの勝負だろう。メインで戦う君たちはしっかりそのときのために力を蓄えるんだ。いいね。」
ハンスさんだけでなく、他のメンバーの目がなんだか優しくて、それにアーチャが、
「そこまで言われて甘えないわけにはいかないね。」
なんて言うもんだから、結局夜の見張りは森の咆哮の4人に任せることになったんだ。
「それにな、俺たち4人のローテーションは決まってるんだ。2人も入られちゃ、体感が狂っちまうよ。」
いつもはしゃべらないジャヌさんがそう言って笑った。
そうして、僕らはぐっすりと眠らせてもらい、朝を迎える。
そして同じような2日目。
魔物が強くなると同時に、雪が減る不思議。
なのに寒さは変わらない。
雪が少ないところは魔素が多い?
そんなことをアーチャと話しながら進んだよ。
お昼ご飯を食べて、次の休憩の時に、それは起こったんだ。
瘴気?
僕は、僕が瘴気って呼んでる黒い魔力が移動しているのを、さぁ出発って時に感じたんだ。
僕とほぼ同じにグレンも気づいたみたい。
瘴気がこっちに向かって移動している?
『この匂い。ヒトだぞ。』
グレンが鼻をしわしわにして念話で言った。
「人だって?」
それに反応したアーチャに、森の咆哮が振り返る。
「人?」
「ああ。グレンが人が近づいてくる、と言ってる。」
「ウワァーーー」
アーチャが言ってる間にも、かすかな叫び声が近づいてくる。
と、同時に瘴気も。
叫び声はかすれていて、風が枯れ木を揺らす音と同化してるけど・・・
カサカサカサ・・・
灌木を押し倒して、(僕には)人の形をした瘴気が飛び出してきたように見えたんだ。
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