第231話 森の奥へ

 村の中に人が少ないな、と思っていたのは、雪の日におこる雪の宴のせいだったみたいです。

 活動しているのは冒険者とか衛兵さんとか。

 今日は露店も屋台もほぼ出てないんだって。

 、ってのは、冒険者相手の露天はやってる人もいるってこと。

 腹ぺこ冒険者のためにご飯とか、あとはちょっとした消耗品なんかも販売してる人がいる。

 そんな事をしている店主って、元冒険者だったり、それなりに腕に自信がある人だったりするんだそうです。元々開墾、ていうか、魔物との北限を争うために来た人たちとその末裔だからね。こんなところは我が国のバルボイと気質は似てるかもね。


 そんな露天の人たちも魔物のところまでは来ていません。

 場所は移動しているけど、昔ここに来たときと同じように、人の住むところと魔物の棲む森の間には、そこそこの広さの緩衝地帯が設けられているんだ。

 森は開いているけど、人は住んじゃダメって決まりの広場です。


 冒険者たちはこの広場に入れないように、魔物を倒そうと頑張っています。

 だから戦いの場は森の中。

 雪が積もってて、足場は悪いし寒いしで大変だよ。

 それにね、魔物の皮でできた鎧しか着れません。

 鉄とかの熱伝導率がいいのは、冷たくて凍っちゃうからね。

 まぁ、高級素材の鉱物製の中では、雪でも大丈夫なのはたくさんあるけど。


 同じ事は武器にも言える。

 多くの鉄を中心とした武器って、雪の中では使いづらい。

 物によっちゃ、もろくなったり、あとは、ちょっとした水分で鞘から抜けなくなったり、一番困るのは全部が鉄とかの場合は、柄に手がひっついちゃう、なんてことも・・・

 さすがに柄だけは凍らないような素材で作ってたりする場合も多いけど、毎年、はじめて雪での戦いに来るような人がいて、騒ぎになるんだって。


 そんな話を聞きながら、森の奥へ奥へ。


 森に入ると、ベテランさんの指導の下、ランクに応じた魔物と戦う冒険者も散見されます。ていっても、浅いところは、正直、子供の投石でも大丈夫な魔物も多いんだけどね。


 僕らは、そんな冒険者を見つつ、さらに奥へと走ります。

 目指すは、2日前にジンバを見たって報告があった場所。

 森の咆哮が大体の位置は把握しているから、僕らは情報を聞きながらついていく。

 あ、ちなみにメンバー。

 森の咆哮のリーダー・ハンスさんにセグレ、ジャヌさんにラックルボウさん。宵の明星の僕とアーチャ、そしてグレンです。あ、姿を消したエアとキラリンもついてきてる。この辺りは精霊様がいないようで、妖精もいない、っておしゃべりしてるよ。まぁ、エアがいるから、その母体でもある花の精霊様の気配は感じるけどね。どうやら気になって、僕らを見守っているようです。



 奥へと進むと、人も魔物も少しまばらになる。

 でも、森の咆哮のみんなとか、先行していたさっき会議室にいたような面々が、難しい顔をして声をかけあってるよ。


 深いところほど、森の魔素は強くなる。

 そこが平気な強い魔物も多くなる。

 でも、通常の生息圏っていうかね、このあたりだと通常いるのはこういう種類、っていうのが、奥へ行くほどずれてるらしいです。

 「なんで○○がここにいるんだ!」

 なんて会話が随所で聞こえるよ。

 どうやら全体的に森の表層へと出てきているらしい。

 昨今は、大夫ずいぶんと森を開いて、魔物を追いやっていただけに、不安みたいだね。



 僕らも森の奥へと走って向かってるけど、戦闘がゼロってわけじゃないよ。

 むしろ、それなりに強いのを間引きながら進んでます。

 僕は、アーチャの指示で、もっぱら剣で戦ってるけどね。

 魔法は、ここぞという時のため、できればジンバのために温存ってことです。

 それに森の咆哮がいるからね。僕がどんな魔法を使えるか、それは秘密なんだよなぁ。でも、アーチャに対していっぱいヒールをかけたから、治癒魔法が使えるってバレちゃってるし、しかもその前に、属性のない魔力を放出しちゃったから、いろいろと思うところはあるようです。

 ま、ママが治癒魔法を使うことは有名だし、魔法は遺伝する場合も多いから、これに関しては、「そっか」で済ませてるみたいだけどね。


 だけど、普通は魔導師っていっても、2種類の属性が使える人は少ないし、それ以上だと伝説級なんだそう。有名どころの魔導師ってだいたいが2つか3つ使えるけどね。

 けど、僕の場合、全属性プラスアルファだもんな。あんまり知られちゃダメなようです。

 対ジンバには、うーん、剣だけじゃ心許ないなぁ。

 宵の明星の中ではアーチャは弱い方だと思うけど、多分この中では一番強そうだし。アハハ、正直森の咆哮のみんなの戦力は当てにできない感じなんだ。いや、強いは強いんだろうけどね、クッデってくくりで言うと。でもどう考えても中堅の冒険者パーティってレベル。

 ギルド長、きっとこのへんも分かってて、僕らの道案内として彼らをよこしたんじゃないかって、実はグレンと念話してたりして。



 そんな、ちょっぴり、ううん、大いなる不安を抱きつつ、実は困っちゃったことが起こりました。

 いや、ちょっと考えれば分かることだったんだけどね。

 だって、森の咆哮のみんな、妙にでっかい荷物持ってるし。

 ジンバみかけたのは2日前って言ってたし。


 はいそうです。

 まさかの野営だって!


 僕とアーチャは、突然のことだったんで、手ぶらだよ。

 正確には僕はポシェットしてるし、アーチャだっていつもの鞄は肩から提げてるけどさ。


 「突然だったからな。そのつもりで2人の分も余分にもってきたぞ。」

 そう言いながらハンスさんは毛布とか、乾燥お肉なんかを出したりしてるけど・・・

 はぁ。

 冬の森で、それはないよねぇ。

 いや、正直僕らの防具ってカイザー特製で、ある程度の気候変化は大丈夫、なんだけどね。

 乾燥お肉、1枚ずつ渡されても、ねぇ。


 「アーチャ~。」

 「んー。食べ物はともかく、体調のことを考えると、毛布一枚じゃね。まぁ、グレンと寝る、という方法もあるにはあるが。」

 『我はかまわんぞ。ダーとアーチャだけならな。』

 「ダーだけでいいよ。女の子もいるし、ね。」

 アーチャは何気に紳士です。

 ラックルボウさんがいるのに自分たちだけもふもふに包まれて寝るのはNGだって。でもグレンはお腹の中に親しくない人を入れたくないみたいだし・・・

 でもね、それを言うなら、アーチャは倒れてたんだよ、僕のせいでさ。

 だったら、僕も我慢するかなぁ。

 ゴーダンの訓練で、寒い中の野営だって体験はしてるしね。



 「なぁ、ハンス。」

 だけど、アーチャが意を決した様子で言ったんだ。

 「僕らの秘密を守れるかい?」

 「ん?秘密?」

 「ああ。うちのパーティの秘密だ。多分これはヤーヤンギルド長も知らないと思う。」

 野営のために荷物を開けたりしていた森の咆哮は、真剣な顔でこちらを見たよ。

 ゴクリ。誰かが固唾をのんだ。


 ハンスさんが、順番にメンバーの顔を見ていく。

 彼らは、決意をした顔で、しっかりと頷いたんだ。


 「俺たちは、宵の明星に救われた。あんたたちがいなかったら、全滅していただろうよ。だから当然、秘密を口にしない。ギルド長にも家族にだって、絶対に言わないさ。たとえこの命や、仲間の命、家族の命が犠牲になっても、だ。」


 いや、さすがにそれは・・・


 「いやいや。命は大事にしてよ。そこまでのことじゃない。ただ、知られるといろいろ面倒くさいからね。だから秘密にして欲しいの。」

 僕は慌てて言ったよ。

 でも、口々に、それでも命に替えて守るって言ってくれて、焦っちゃったけどね。


 僕とアーチャは、顔を見合わせて頷いたよ。

 アーチャの袋も、マジックバッグだけど、彼専用だから入ってるのは1人前。

 僕は全部と同期できちゃうから、僕のだけお披露目です。


 「ありがと。お礼も込めて、おいしいご飯と快適な眠りを提供するよ。」

 にっこりと笑うと、ポシェットからテントと人数分の寝袋、そして、ママ特製のシチューが入ったお鍋を出す。あ、パンもあっためよう。

 森の咆哮がたき火用の火を用意してくれてたから、僕はその周りに石を積んで、簡単なコンロをつくり、お鍋をのせたよ。

 パンは葉っぱにくるんで、火の側に置く。

 ポシェットは便利だけど、食べ物は瞬間冷凍されちゃうからね。なんせエセ宇宙空間。温めは必須です。


 アーチャは僕がご飯の用意をしている間に、風の魔法で木を払い、土の魔法で簡単に整地。テントを広げてくれたよ。


 ポッカーン。


 そうやって、僕らがいつもに近い野営の用意をしている間、森の咆哮のみんなは馬鹿面して口を開けてフリーズです。


 何もそこまで驚かなくても・・・・


 「・・・・いやいやいやいや、何、普通にあっためてんのよ。それどこから出たの!」

 「なんでその小さい鞄からこんなでかい物が出るんだよ!」

 「てか、野営?これ野営?常識はどこ行った~!」


 そんなに叫んでないで、シチュー飲も?身体あったまるよ?アハッ。

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