第230話 雪がもたらすもの

 ミゲル商会からもらった地図。

 地図、と言っても、なんせ未踏の森だからね、かなりいい加減な物です。

 それでもないよりはマシで、これが合ってるとしたら、ずいぶん場所は絞り込めるんだけどね。

 うーん・・・・


 アーチャはずっと地図とにらめっこしてうなってるよ。

 僕には気づかない問題を見つけたらしいです。

 あらら、僕にお留守番させて、一人で出かけちゃったよ。

 村から出なけりゃお出かけしてもいいって言ってたけど、ね。


 てことで、僕はグレンと合流して、お出かけしよう・・・って思ったのに、断られたよ。グレンは森の中の魔素の濃そうなところに寝床を作ったらしく、今日は動かないんだって。

 なぜか。

 寒い、だそうです。


 でもでも・・・


 うわぁ、雪だぁ。


 この辺りはかなり北の地域。

 実は昨日のうちに雪が積もってたんだ。

 どうりで寒いはずだよね。


 ちなみにグレン。


 タクテリアでも南部って言われる地域で生活していたから、どうやら寒いのは苦手みたい。立派なもふもふの毛があるのに、情けないねぇ。

 本人(?本狼?)曰く、動けるけど動きたくないだけだ、そうです。

 魔力である程度気温差は平気なんだけどなぁ、なんて思いつつ、お散歩。

 って思ったけど、こんな日は屋台も出てないみたい。

 人は少ないんだけど、おや?なんていうかちょっぴり騒がしいのは、冒険者たちかな?

 って、あれは太陽の槍の人たちだ。


 「ダー様。ここにいたんですか。」

 ラメーヌさんが、息を切らせつつ言ったよ。どうしたんだろう?

 「ギルドに来てください。緊急招集です。」

 「?」

 「雪で魔物があふれそうなんです。」

 えっと、どういうこと?



 太陽の槍の人たちに引っ張られるようにギルドに向かったよ。

 なんかね、雪ってきれいだな、ですまないんだそうです。

 道々尋ねたんだけどね、魔素が濃いところっていうのは、雪は積もりにくいんだって。

 でね、普段は魔素が濃いっていっても、比較したら、って感じなだけだし、森の入り口付近だと、むしろ魔素がそんなに多くないところを魔物も好むんだそう。入り口付近を住処にするような魔物だと、多すぎる魔素は疲れるんだろう、なんて言ってるよ。

 そんなことで、本来なら浅い森に棲む魔物にとって、良い環境ってのは、魔素が強すぎない場所なんだって。

 けど、雪が降ると、魔素の濃いところの方が雪が少ない。

 てことで、雪をいやがる魔物は、魔素の濃いところに移動する。

 問題は、良い場所って強い魔物が陣取るからね、普段は、環境の良くないところには弱い魔物が棲んでいるんだ。

 そうなるともともと環境が悪いために仕方なく魔素が多めのところに棲んでた弱い魔物は、移動してきた、より強い魔物に、雪のない場所を取られちゃう。

 押し出し方式で、弱い魔物はより雪の多い方へ多い方へと流されちゃうんだ。

 てことで、絶賛森の外に向かって、負けた魔物が流れ込むんだって。


 て感じで、ある種この地の風物詩的なものでもあるんだけど、住処を追われた魔物たちの討伐が、こんな雪の日にはあるんだって。

 まぁ、理由が理由だし、弱い魔物が多いから、冒険者に取っちゃボーナスタイムみたいなもんでもあるんだけどね。

 ただ、そんな大量の魔物を狙う大物も紛れるから、油断はできないそうです。



 そんなわけで、この村の冒険者は総出でこの対応に当たるのが決まりになってるんだって。ただ、弱いのも多い、ってことで、依頼を受けていたらそっち優先してもいいってことみたいなんだけどね。

 特に低級の人たちはしっかり稼げって発破をかけられる、って言ってた。


 そういう話を聞きながら、ギルドに到着した僕。

 対応に忙しくしていたスタッフさんの中にギルド長もいたけど、僕を見て、おいでおいでってされたよ。

 僕をギルドまで連れてきた太陽の槍は、元気に討伐に向かったけど、あれ?ギルド長に呼ばれていった会議室には、どうやら高ランクのパーティが揃ってるみたい。

 って、アーチャも森の咆哮と一緒にいたよ。

 僕は呼ばれて、彼らのところへ行ったんだ。



 「アーチャ、来てたんだ。」

 「ああ。村長に聞くことがあって彼の家にいたんだが、セグレに言われて一緒に来たんだ。」

 「雪が降ったら、魔物が出てくるって、こんなのはじめて聞いたよ。」

 「だね。だけど、今回はちょっとおかしいらしくって、高ランカーを集めたみたいだよ。」

 「高ランカーねぇ。はぁ、僕、見習いだけど・・・」

 「ハハハ。まぁ、いろいろバレてるしね。ギルド長としては宵の明星ってことで参戦させるみたいだよ。」

 「うわぁ・・・」



 そんな感じで雑談してたんだけど、ギルド長が手を叩いて注目を集めたから、僕らは口をつぐんだんだ。


 「おまえたちに集まってもらったのは、巨大なジンバの群れが発見されたからだ。」

 ギルド長の言葉にザワザワと部屋がざわめいたよ。


 ジンバ。

 割といろんなところにいる魔物。

 普通なら成体は約2メートル、前世換算だとね。

 緑色の猿っぽい生き物で、目がぎょろりとしている。

 たまぁに、その倍近い個体とか、緑じゃない個体もいたりするけど、なんせ力が強い上にすばしっこいんだよね。あのでかさであの早さは反則だよ。


 「パーティ魂の輩たましいのともがらが、2日前に森の奥地で、3頭から5頭の群れを複数見た、と報告があった。普通のジンバより倍近い巨大な身体を持ち、深い緑だったそうだ。それらが、何かに追われるように森の外へ向かって移動していたと報告があった。それも原因だろうが、今回のには、雑魚とは言いがたい魔物が多くあふれてきておる。普段ならおまえたちには若手のサポートを頼んでいるが、今回はすまんが、主軸で戦ってもらいたい。」


 さすがに高ランカーが集まってるだけあって、ギルド長の言葉が進むにつれて、顔が引き締まっていくのが分かる。あ、ちなみに雪の宴、ってのは、こんな雪の日に出てくる魔物の群れのことだって、森の咆哮の人たちが教えてくれたよ。


 「それと、ジンバだが、森の咆哮そして宵の明星にその対処を願いたい。」


 は?


 僕ら?


 僕もだけど、他の人たちもザワザワってしたよ。

 だって、僕らは余所者だ。

 そんな大事なこと、任せるのっておかしくない?


 「静かにしろ。このギルド所属じゃ、森の咆哮がナンバーワンじゃ。ランクだけで言えばもっと上がいるが、クッデ所属って意味じゃ、間違いないだろう?」

 そうなんだよね。

 ここに集まっている人たち、僕たちも含めて所属は別の支部だったりする。

 そもそもクッデ所属の冒険者は少ないんだよね。


 「それに宵の明星の実績は、黒い魔物の件でも知っておろう?」

 「いや、宵の明星全員なら分かるが、今いるのは2人だけだろう?しかも一人は見習いの子供だぞ。」

 「そのダーは、ワージッポ・グラノフや弾刃爆滅に鍛えられておる。子供といえど、その力量のさわりは見た者もいるじゃろうて。」

 ギルド長がそう言うと、みんなの視線が僕に刺さる。って、なんで、こっちに振るかな?僕はちまちま雑魚狩りでいいんだけど・・・


 「それに、ダーよ。おまえさん、今の年の半分の時にはジンバと戦ったと聞いておるが?」


 誰から~?

 いや、事実だけどね。

 でも子供のジンバ相手にやらかしちゃった苦い過去だよ?

 ってか、ちゃんとした記憶もないんだけど・・・


 すげー、とか、そうなんだ、とか、なんか普通に納得してる冒険者たち・・・

 はぁ、これは決定事項、なの?

 アーチャが肩をすくめてるよ。


 なんか、みんな納得?したのか、わらわらって出てって、前線に行っちゃった。


 で、残ったのは森の咆哮と僕らとギルド長。

 アーチャに手を引かれながら、森の咆哮たちと退出する僕は、精一杯の抵抗で、ギルド長にイーだって、威嚇しておいたんだ。

 

 

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