第228話 ミゲル商会会頭ガーロン・ミゲル
村長さんちから戻ると、アーチャは目を覚ましていたよ。
魔力の譲渡がとっても上手だったから、早く目覚めることができたって褒めてくれたんだ。
僕は、アーチャから、前日は探索の成果がなかったこと、思ったより奥まで魔物は間引かれているようで、どこまで続くか分からないこの森の中、しかも北の大陸の北方てことで、どうやら僕らのいるところは北半球っぽい気候だから、この寒い時期には想像以上に北上が難しいってことが報告されたんだ。
さすがに村の森の奥に怪しい集団が云々だけでは、どの辺りか見当さえつけるのは難しいみたい。
一方、僕は、みんなのところを回った報告とか、陛下からの2通の手紙の話、そして村長さんのところに行った話をしたんだ。
僕がプジョー兄様の代理でこっちのお役人さんと話さなきゃならないって話の時は「そうきたかぁ。」って目を覆っていたけど、概ねそうだろうな、って感じ。
あと、村長さんがセグレの父親だってことは知ってたんだそう。教えてくれてもいいのに!
とはいえ、村長さんちに行くことになったのは、アーチャのベッドに入ってる間だから文句も言えないけどね。
その日のうちに、セグレがやってきて、このお宿にミゲル商会会頭が来るか、僕が彼の泊まっている宿に行くかどっちでもいいし、日もこちらに合わせる、なんて返事をもらいました。
なんて言うか、めちゃくちゃ下手に出てこられて、ちょっぴり不安です。セグレなんかは、「やっぱり王子様ってすげえのな。」なんて言ってるけど、多分そういう話じゃないと思う。
とりあえず、アーチャの体調も考えて、1日空けた明後日に僕らが行くことにしたよ。うん。アーチャも連れてく。
そしてやってきました、この村に似つかわしくない、キンキラホテル。うん。宿屋って言いたくないリゾートホテルだね、これ。遠目にあの白と木でできたでっかい建物は見てみないふりをしていたよ。
多分発想は前世のリゾートホテルに近いんだろうね。お貴族様の避暑地、的な。いや、冬場には寒いけど、さ。
この国の建造物は、木が多く使われているんだ。
トゼでも、木でできたおうちがいっぱいだった。
町の塀も木だったもんね。あれは初めて見たとき驚いたよ。
僕らが宿に入ろうとすると、大慌てで従業員らしい人が数名飛び出してきたよ。
そして恭しくお辞儀をして、
「アレクサンダー様、お連れ様、お待ちしておりました。当家主人の下へと案内させていただきます。」
と、一人一番偉そうな人が出てきて、って、後で知ったんだけど、ここの支配人らしい、僕らをひょこひょこと奥へと案内していったんだ。
にしても・・・・
当家主人って言ってたけど、聞くと、ミゲル商会ってのは押しも押されもせぬ大商会。武具防具からはじめて日用品から食料品何でも扱うことで有名だけど、土地土地でこういった宿屋を開業していることでも知られているんだって。
元々は、先代だかもっと前だかの会頭が、気に入った宿がなくて商売する気にならない、なんて我が儘言って、支店のある各地に自分が泊まる用の宿を建てたのが始まり。主人がいない時は別荘なんてもったいない、と、大きな宿にして、従業員を常駐させ、高級宿として営業させたんだって。
ここに配置されるのはそんな会頭が満足するサービスを提供できるだけの人材。
てことで、高くてもいいっていう商人たちはこぞってこのミゲル商会の宿に泊まるようになったんだって。
ミゲル商会の宿がある地は商売に向いた地だ、なんていう噂までできてるのは、やっぱり商才がある人ってことなんだろうね、代々の会頭さんたち。
僕らは、応接室なんだろうな、キンキラキンでたくさんの飾り物が置かれたでっかい部屋に案内されたよ。
そこにはすでに、ザ・商人なおじさんが座っていて、僕らが入ると同時に起立、深々と頭を下げたんだ。
「これはこれは、アレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジタシオ・タクテリア殿下。わざわざご足労願いまして恐縮でございます。私は、このナスカッテ国において、小商いをさせていただきます、ミゲル商会会頭ガーロン・ミゲルなる愚物にございます。以後お見知りおきを。」
ハハハハ・・・
たまにいるんだよね、こういう本名を長々と言っちゃう人。
僕はナッタジ商会会頭の息子の肩書きでここに来てるのにやめてほしいよね。
「頭を上げてください。僕は、アレクサンダー・ナッタジ。単なるアレクサンダー・ナッタジとしてここに来ています。タクテリアで商売をさせていただいているナッタジ商会の者でしかありません。」
王子じゃないよ、って一応言っておく。
てか、ナッタジ商会の息子が王子って外国でも知られてるのってどうなんだろう?まぁ、一流の商会の情報網ってそんなもんなのかもしれないけど・・・
「ハハハ、そうでしたな。タクテリアの麒麟児。ナッタジ商会の秘蔵っ子。その名前は、ここ、はるか遠方のナスカッテまでとどろいておりますぞ。」
ハハハハ・・・・
「それに、あの世界的有名な冒険者パーティ。宵の明星の真の主、としての名声も伺っております。」
はぁ?
「えっと、僕はまだ見習い冒険者で、リーダーはゴーダンです。なんですか、その噂?」
いやもともと僕らを、僕とママを助けてくれるために作ったパーティが宵の明星だ。本当はナッタジ商会がママのものに戻ったら解散も視野に入れていたパーティだし。
僕が冒険者を続けたいって我が儘言ったから、みんな付き合ってくれて、未だに存在するパーティで、そういう意味では僕が真の主、なのか?
でもなんでこのおじさん、そんな内輪ネタを知っている?
マジで侮れません。怖いよぉ。
「いやいや警戒させてしまいましたかな。しかし宵の明星と言う名前を聞いてあなた様の
そっちかー。
ま、本当のところはわかんないけどね。
ペラペラとしゃべるこのおじさん、どう考えてもくせ者だもの。
「おっと。私ばかりがおしゃべりしてしまい申し訳ない。いやぁ、年甲斐もなく興奮してしまいましてね。噂には伺っていましたが、王子はこの世の者とは思えない美貌の持ち主とか。噂はオーバーではなく、むしろ控えめであったと、このじじい、胸が高鳴っておりますよ。夜空を具現化したような黒にも見える濃紺にありとあらゆる宝石を星のようにちりばめた奇跡の御髪。そしてその髪の美しさにも負けぬ、可憐で
キュートな
道化のようにしゃべりながらも、深々とまた頭を下げる会頭さん。
えっと、結局言いたいのは、商会が救われた、ってこと?
「商会を救った?」
「はい。トゼ沖で魔物に襲われた商船を救っていただきました。わが親族も乗船しており、あなたに命を救われた、と申しております。その・・・治癒の魔法もお持ちとか。」
「ああ、あれですか。たまたま通りかかっただけです。気にしないでください。」
「そうはいきません。あなたを知っていた冒険者からお名前は知ることができ、冒険者ギルドにお会いしたと依頼を出したものの、どこに行かれたかは分からず。ただあの地のギルド長が既知の方で、あなたのこともご存じとか。商船に助けられたということも話ましたら、ここクッデを訪れるのではないか、と教えられ、その足で船を出した次第でございます。商業ギルドを通し、ナッタジ商会のご子息であるあなた様とお会いしたい、それも依頼していたのですが、やっと。やっとです。あなた様とこうしてお目にかかることができました。」
なんか必死感出してるけど、うさんくさいのは何だろう?
そもそもトゼのギルド長と仲良しの段階で僕は苦手意識が高まっちゃったんだけど。
だいたいこの人、レッデゼッサとタッグ組んでるはずなんだよねぇ。
あそこらへんの人たちから、僕の悪口、きっと聞いてるよね?
「あー。私は商人です。もう長年この世界でおまんまを食わせていただいております。」
僕の疑うような気持ちを察したのか、口調を変えて、真面目な様子で言ったよ。
「先般よりあなたの国の商会と、販路や技術協力等の提携をしております。それはあくまで商人としてそれが商機に繋がるのでは、と考えたからです。」
先生が生徒に言うように丁寧に言ったよ。
「私どもの先祖は、元々セスの方々とともに黒い魔物を研究しておりました。その中で黒い魔物の魔力を一部用いることで武具防具の強化ができることを発見しました。この強化した武具防具を冒険者の皆さんに提供して、お国の役に立とうと始まった商会でございます。魔物の魔力を用いることが危険であるのは承知の上、少しでもその危険を減らすための研鑽を行って参りました。そうして、比較的安全に強化できるすべを整えた上での商売です。この技術は門外不出にして、ごく少数の者しか存じません。」
スーッ
会頭さんは、懐から紙の束を出して僕らにむかって机の上をスーッと滑らせた。
アーチャが手に取り、パパパッと目を通す。
隣にいると、ポーカーフェイスのまま、一瞬アーチャの身体がこわばるのを感じた。
アーチャがチラッて僕にそれの1部を見せる。
え?
レッデゼッサ?
それはレッデゼッサの様々なデータが書かれた紙の束だったんだ。
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