第227話 クッデ村の村長さん
「え、え~~~?!」
翌朝。
アーチャはまだ寝ていたけど、妖精2人組が『任せて』って言うから、僕は1人村長さん宅へ。
クッデ村の村長さんて、何気に知らないかも。
前回の時、ひょっとしたら大人たちは逢ってたかもしれないけど、僕は記憶にない。ていうか、もうギルド長のヤーヤンさんが村長じゃない?まである感じだったんだけど・・・
そんなことを思いながら、僕はギルドに行って、村長さんちを聞いたんだ。
意外にも、村長さんているんだって。
おうちもあって、元々の村のセンターにあるそう。
けど、今は村がどんどん拡張していってるから、海に近いエリアって感じの場所で、ギルドからもまぁ近くだった。
ギルドはどっちかって言うと森側だけどね。
僕は教えられた通り、海に近い集落へと向かったんだ。
元々からあるこの辺りは、ちょっぴり古めかしい。言い方を変えると、ボロい家かが多いかな?
だって、そもそもが開拓団の居留地だったみたいだし、森へ森へと開拓は進み、広がってきた村の原型、らしいし。
とは言っても、はじめここに来た人たちは、海からじゃなくて南の森から来たんだって。
大概のこの国の村はそうみたい。森には点在する集落もたくさんあって、正直なところ政府が完璧に把握しているものでもないんだ。
大昔、森にはたくさんの魔物がいて、いろんな人種がいて、それぞれで自分の生存地をかけて戦いが続いていたらしい。そんな中、意思が通じる生き物=人たちが、そうでない生き物=魔物たちを共同で駆逐するようになった。それが国の始まり。
強い魔物ほど魔力が豊富な地を好み、また、強い魔物が棲むことでその地に魔力が満ちる。そんな循環もあったんだろう、大地には強い魔物の棲む魔力が濃い場所が生まれた。普通の人には濃すぎる魔力を帯びた地。
人々はそんな地を人の住む地の外側へと追いやっていった。強い魔物を押し込める形でね。
それが、樹海、と呼ばれる場所をはじめとする、辺境の地ってわけ。
で、まぁ、いろんな人種が、いろんな場所で集落を開いているんだけど、その最北端がクッデの村ってわけで、トゼからクッデの間にも多くの集落はあるんだ。
当然、険しいけれども道だってあるしね。
ただ、トゼもクッデも海沿いだし、大きな村や町は全部そう。
町から町への交通手段は、メインは、ほぼ船ってなるんだ。
まあ、途中の集落にも荷物は落とさなきゃならないし、逆にその場所でしかゲットできない物もあったりする。
商人の中には、こういった森をたどる人も少なくないんだって。
途中途中で商いできるし、何より安くつくらしいんだ。船はいろいろ高くつく、らしいです。
というわけで、村長さんの家がある海沿いの集落。
村の中でも南寄り、かつ、東=海寄りです。
ここからはじめは円状に村は広がっていき、すぐに北側へとその広がりは偏っていった。元々の最北端にして最西端に冒険者ギルドは設立されたんだそう。
今じゃギルドは、ほぼ町の中心だけどね。
村長さんの家は、周りと同じように少々痛みが激しいけど、周りよりはちょっぴりでかい家でした。
木の枠を中心に所々石を並べて固めたようなここらの家は、材料の調達が付近の森からなんだろう。
素人が協力して作りました、っていうような、平衡感覚がちょっと狂っちゃいそうな家々だけど、僕はわりと好き。
田舎の集落によくある木の家って感じで、山小屋感が素敵です。って海近だけどね。
「ごめんくださぁい。」
僕は教えられた家の前に行くと、大きな声で呼びかけたよ。
冒険者スタイルから、ちょっぴり悩んだんだけど、商業ギルドのご用ならこっちかな?と鎧をジャケットに替えてきた。まぁ、インナーに着ているシャツは、丈夫な冒険者仕様のものだけどね。
腿丈のジャケットで隠れているけど、腰には短剣もちゃんと装備しているし、お供にはグレン。一応、ギルド長に叱られない程度には護衛・防衛を固めてます。
「ほぉい。」
奥から、なんかゆる~い声がして、バタバタと誰かがやってきた。
で、
「え、え~~~?!」
思わずさけんじゃったのは、前述の通り。
バタバタ走ってきたのは見知った顔、なんと、クッデ若手冒険者として有力株とのギルドでの評判を聞き、僕が思わずププッて笑っちゃった彼、セグレじゃないですか?
なんで?
「え~?ダー、だよな。どした?てか、そんな格好すると王子様って感じするぜ。」
「いやいや、なんでセグレこそこんなところ、って失礼か。村長さんちにいるの?」
「だって、ここおれんちだし。」
「え~!」
「なんだよ、知らなかったのか?」
「だって、村長さん、だよ?」
「いや、おまえも王子様だろうが。」
・・・・
そういうもん?
「まいいや。僕、村長さんに会いに来たんだけど。」
「あ、親父?いいぞ、案内するわ。ま、入れ。」
セグレは言うと、「おやじー、客だぞー。」と叫びながら中に入っていったんだ。
僕は、「ちょっと!」と言いながら、セグレの後を追う。
「あ、グレンはここで待っててね。」
僕が言う前に、とっくにおねむの体勢でした。
そういや、森の咆哮は地元出身者の集まり、って言ってたっけ?
僕は、目の前でへこへこするおじさんを見ながら、そんなことをぼうっと思う。
おじさんは、村長さんなんだって。
セグレとは、うーん似てない?あ、目元はちょっと似てるか。
そんな父親に、
「そんなへこへこしなくても、こいつは根っからの冒険者だから、粗相とかそんなの関係ないって。」
ガハハハと笑いながらそう言うと、バシバシ背中を叩いている。
ちょっと、おじさん壊れそうなんだけど?
セグレみたいに鍛えた身体じゃないし、ちょっとしぼんだ感じのおじさんだよ?
僕は、ちょっとセグレを睨んだけど、どこ吹く風。
さっき女の人が用意したお茶を、がぶって飲んだ。
ていうか、セグレもいるの?
「最近物騒だし、村長の護衛と勉強兼ねて、仕事のないときは同席してるんだ。」
「えー、ひょっとして僕の事危害を加える人、とか思ってる?」
「いやそれはねえな。単純にダーが絡むと面白そうだし?」
「いやいや。じゃあいらないでしょ。」
「ま、昨日みたいな事があったりしても困るし?」
「うっ・・・」
そういういたずらっ子な目で見ないでください。って、僕の事、怖い・・・よね?
「おいおい、早速か~?昨日みたくびいびい泣き出されたら親父も困るだろって、親切でお兄ちゃんが同席してあげるってんだ。さ、怖くないからお話ししてみ?」
・・・・
ウィンクがさまになっていません。
ぶぅっと思わず頬を膨らしたら、
「申し訳ありません!」
椅子から飛び上がって村長さんが頭を下げたよ。セグレの頭を一緒に下げながらね。
はぁ。
そういうのも困ります。
「あ、そのセグレとは仲良しで、軽口言い合えるっていうか、ね、セグレ。」
うんうん、と、セグレも頷く。
「それと、そんなかしこまらないでください。その、僕は商業ギルドからのお話しのことで来ただけだから。」
慌てて僕が言うと、ほっとしたように頭を上げてくれたよ。
一礼して、村長さんは椅子に座る。
「商業ギルド?」なんて言いながら、横にセグレも座った。
「そうでしたか。わざわざご足労ありがとうございます。私どももナッタジ商会の船が入ったことは分かっていたのですが、御曹司がどこにいらっしゃるか分からず、伝言を伝えることができませなんだ。」
「そうだったんですか。」
「メンダンさんにはご挨拶したのですが、お坊ちゃんとは港で別れた、と聞いたもので。」
「あー。」
「一応、各宿屋には坊ちゃんがいらしたら連絡が来るように手配はしていたのですが・・・」
「アハハ。それって、商人用の宿だけだったりします。」
「ええ、まぁ。」
「すみません。僕、冒険者としてこっちにきたもんだから、セグレたち森の咆哮の皆さんのおすすめに泊まってて・・・」
「へ?セグレ、おまえ・・・坊ちゃんが来られたことを知ってたのか?」
「坊ちゃん、て、ダーのことか?親父、でっかい商会のボンボンを見たら教えろ、って言ってたけど・・・」
「おい、言い方!」
ハハハハ・・・
そういうことか・・・・
本人の前でなんか言い合いを始めた親子に、軽く咳払いして僕は注意を引きつけたよ。
ばつの悪そうな顔をした二人は、うん、やっぱり親子です。
「えっと、セグレとは黒い魔物の事件からのお友達、でいいよね?セグレは僕の事見習い冒険者のダーとしか知らないし、普段はこんなジャケットも着てないから、商会のボンボンなんて思いもしなかったと思います。だから、怒らないでくださいね。」
「あ、それは・・・でもこいつ、王子様がどうとか・・・」
「アハハ。あ、セグレ、これって王子っぽいじゃなくて、一応商人風のジャケットだから。王子の時はもうちょいヒラヒラ。で、村長さん。その、いろいろあって僕、タクテリアの第3王子なんてやってます。けど、村長さんにとっては単なる外国の商会長の子だし、セグレにとっては冒険者のダーなんで、王子とか気にしないでください。」
「気にしないで、とか言われても・・・」
「いや、ダー、なんだよ商会長の子って。意味分かんねぇし。」
「ハハ。多分、ライライさんの要件が、そっちっぽいんだ。で、村長さん。商業ギルドからの伝言、ってミゲル商会の会頭との会談、ですよね?」
「そうですじゃ。しかし、なんともまぁ。こんなお小さいのに、ほんにしっかりしとるわい。うちのセグレが情けなくなりますよ。」
「ハハハ・・・」
「で、坊ちゃん、でよろしいかな?ミゲル商会がこの村に来ておりましてね。ナッタジ商会のご子息とお話しをしたいと、商業ギルドを通し申したてがございましてな。もちろん断ることもできますが、どうされますか。」
「母より、逢った方が良いと言われています。僕から訪ねようと思いますので、会頭の居場所は分かりますか。」
「それはもう。」
村長さんは、この村で一番新しくて、一番豪華な宿を教えてくれたよ。
それでもって、アポも取ってくれるって。
伝言をセグレに任せ、僕は、村長宅を後にしたんだ。
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