第223話 ギルドでは喧嘩は日常です
「この馬鹿どもが、ギルドも通さず、ふざけた依頼を受けたんだ。」
ハンスさんの声に、若手冒険者たちは震え上がる。
「ふざけた依頼?」
僕は首を傾げたよ。
「ああ。あのお嬢様からの依頼だ。アレク王子の居場所を逐一報告しろってな。元々はギルドに出そうとしたんだが、受付で蹴られたんだ。」
「ハハ?ギルドは僕に気を遣ってくれたのかな?」
「そうじゃないわ。依頼には正当性ってのが必要なのよ。犯罪やそれに近いものをはじくためにね。なのにあのお嬢様、アレク様をお守りするのが私の役目です、ですって。はん。この町の英雄を守る力ってなんなのかしらねぇ。アレク王子、なんて人物、守るならその国の騎士か国から派遣された兵士の仕事、って話でしょ。冒険者としてのダー君個人だったら、どう考えても、あの人の持ち駒じゃ無理。そう思って冒険者を雇おうって話かもしれないけど、どこに宵の明星を守れる冒険者がいるってのよねぇ。」
ラックルボウさんが口を挟んできたけど、周りのベテランさんは、うんうん頷いているよ。
「ハハハ、そっか。僕らの方から守ってくれって言うなら理屈は通るけど、赤の他人がそれを理由に見張るなんて変だもんね。」
「そういうこと。その様子を見てた人たちもほとんど鼻で笑ってたんだけどさぁ。それをそこの、太陽の槍だっけ?お馬鹿さんたちがギルドを通さず受けたって訳。どんなトラブルが出ても自己責任だっていうのにねぇ。プププ。」
プププ、って笑う人、初めて見たよ。
でも、ラックルボウさんの言うことは間違っていない。
ギルドを通してなければ、トラブルが起きても自分たちでなんとかしなきゃならない。たとえば冒険者をつけ回して、それで怒らせた場合、返り討ちに遭ったって自業自得なんだよ?
「ダー君は分かってるみたいね。普通、冒険者なら知らない人につけられたら反撃してもおかしくないわよね。やめろ、って言われてもさらにつけ回したりしたら、実力行使をされたって文句は言えないわ。最悪殺されたって、ね。」
「ボウの言うとおりだ。ダー君が怒って、おまえたちを殺したって、誰も文句は言わねえし、むしろ、おまえらの馬鹿さ加減を笑うだけだぜ。」
ハンスも言う。
いや、それぐらいで殺しはしないけど・・・
「ふ、ふざけんなよ。」
「はぁ?」
「ふざけんなってんだ。そりゃあハンスさんからしたらはした金かもしれないけど、俺たちには5日分の金なんだよ。それをこんなガキを見張るだけでもらえるなら、冒険者ならやってあたりまえだろ?自己責任?分かってるよ。たかがガキ一人。仲間はセスだってんだから、ちょっとやばいかもしれないとは思ったよ。誰もあんたらベテランが受けようとしないしな。だがガキの居所を言うだけだぜ。宿に戻ったら戻ったって言う、それだけで5日分の金だぞ?セスを怒らせなきゃどうってことはないだろうが。他所の国の王子だ?道楽で冒険者やってるガキの見張りだろうが?何、びびってんだよ。ガキが怒って殺す、だ?魔力は多いかもしれないけど、まだ魔力の通り道が通るか通らないかのガキに、どうやって殺させろって言うんだ?」
あぁあ、逆ギレしちゃった、かな?
殴られて、尻餅状態だった兄ちゃんが、立ち上がりながらハンスさんたちに食ってかかっちゃったよ。
見たところ、成人したてのパーティーっぽい3人だ。
クッデ村で力試しでもしたい、自信のある若手、ってとこなんだろうな。
この国じゃ、クッデ村ってのは、それなりに強い魔物が跋扈するところで、腕試しにも稼ぐのにも良い場所だからね。力があれば、だけど。
多分、前回、この村の森にタールの魔物が出たときのことは知らないんだろうね。
他所からやってきたんなら、聞かされてはいても、実感がないんだと思う。
あれと相対したら、普通の魔物じゃないってのは、それなりに力にある冒険者なら分かるだろうから。
ベテランなら、あの場にいなくても、あのときの出来事がいかに大変なことだったかは、経験的に理解できる。
けど、自分に自信のある若手では、ねぇ。
ちなみに、彼が言うのは常識的におかしな事じゃないとは思うんだ。
僕は、髪色から魔力が多いだろうと思われるだろうし、将来的に立派な魔導師になるだろうなぁ、って思われるのは、この世界じゃ当然だ。うん、あくまでも将来的には、とか、可能性、とかのレベルだね。
だって、この世界、魔法を使うには、魔力の通り道っていうのを体内に通さなきゃならない。基本的に生きとし生けるもの、ていうか、無機物も含め、あらゆるものにら魔力は宿っているんだけど、それを魔法って形で使うには、この魔力の通り道を通す、って作業が必要になるんだ。
ただ、これは身体の組織そのものを再構築するみたいで、成功すれば魔力が身体になじむし、肉体が強くなる代わりに、当然その代償っていうか、身体に負担がかかる。ゆっくりと上手に慣らさないと、魔力の通り道が壊れて魔法が一切使えない身体になったり、下手したらそもそも肉体が崩壊して死んじゃう場合があるんだ。
だから、魔力の通り道を通すのは、7歳から10歳ぐらいの間に始めることが多い。国によって、または身分によって遅い早いはあっても、平均したらそんな感じ。
で、僕は今10歳。もうすぐ11歳です。
だけど、初見の人には6歳か7歳ぐらいに見られるんだよね。
成長が遅いのは僕の悩みの種ではあるけれど、それは置いておいて、普通この見た目なら、まだ魔法は使えない、って考えてもおかしくはないんだ。
彼の考えは、魔法もまだ使えないようなガキンチョに、殺す殺されるの話しが出てることが信じられない、ってところなんだろうね。よその国の王子様に気を遣って、我が国の冒険者として恥ずかしい、ぐらいは思ってるのかもしれない。そもそもこの国に王族はいないから、他所の国の有名人のガキ、ぐらいの認識だと思うし。
まぁ、何人かは、彼らと同じように思っている人もいそうだなぁ、なんて、見回していたんだけど、僕の事を知っている人と知らない人で温度差はあるようです。
「なぁ、ラザンってひょっとしてダーに勝てるとか思ってる?無理無理。こいつ、超強いよ。ハンスだって勝てないんじゃね?」
そんな中、森の咆哮のセグレが当然、って表情で激高する兄ちゃん、ラザンさん?に言ったよ。
それにハンスさんが肩をすくめる。
「はぁ?そんなガキに普通にやって負けるわけないだろうが!」
「ばっかじゃないの?セグレが言うようにうちのリーダーだって瞬殺よ、ねーダー君。プププ、あんたなんか片手でポイよ。」
ラックルボウさんが、また煽っちゃった。そんなことないよ?ハンスさん、結構強いし。・・・・、て、確かに負ける想像はできないけど・・・
「何を騒いでいるかと思えば。おまえたち仕事はどうした、仕事は?」
と、後ろからギルド長の声が飛んだよ。
口々に、仕事は終わった、とか、いろいろヤジっぽく返事をする野次馬たち。
いつからか、見てたみたいだけど、僕、悪くないからね?
目が合ったギルド長に、僕は表情で必死に訴えたよ。
「まぁ、ダーが悪くないのはわかっとる。じゃがな、騒ぎの収集をつけるために協力してくれんか。発端はおまえさんじゃし。」
「えーっ!」
「依頼にするからいいじゃろ?おまえさん、トレネーではしょっちゅうやってたそうじゃないか。」
ニヤッとギルド長が笑ったよ。
確かに、地元のギルドで、若手の鼻っ柱を折るお仕事ってことで、模擬戦でボコボコにしてきた実績があるけどね。ギルドからの依頼って形で。
あ、でも最近はやってないよ。一番多かったのは5年ぐらい前かなぁ。4,5歳の子供にボコられる力自慢の15,6歳の図。うん、今考えるとちょっと気の毒だったなぁ。依頼だから僕は悪くないけど。
このクッデのギルド長ヤーヤン殿は、今、あのお兄さんたち相手にそれをやれと?
はぁ。
受けたけどね。
結果?
3人まとめて瞬殺したよ。魔法なしで、ね。アハッ。
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