第222話 クッデのギルド長のお小言
「ハハハ。兄様が到着するまで僕の責任で、あいつらの身柄は確保することになっちゃったんだ。」
そんな僕の言葉を聞いて、ギルド長はでっかいため息をつき、自分のまぶたを分厚い手でつまんでマッサージみたいに揉んだよ。
「ハァ・・・。まぁ、概要は分かった。だがな、ダー、いやアレク王子と言うべきか?宵の明星とは言っても、ここにいるのはあのセスの坊主と見習いのおまえさんだけ、相手は樹海の黒い魔物をもてあそぶ危険な輩じゃろ?身柄確保は無理じゃないのか?言っとくが、トゼならまだしも、ここのギルドにそんなやつらを留めておくだけの施設はないぞ。」
「うん、分かってる。多分、そこらへんはセスの民が手伝ってくれると思うんだ。」
「セス、だと?だが、セスは樹海の守護者、こんな辺境まで手伝いに来るとは・・・ん?ひょっとして、そういうことか?樹海の魔物がらみか?」
「えっと、ギルド長ってセスだよね?どこまで情報が入ってるかわかんないんだけど・・・」
「元、セスじゃ。樹海の守護を捨てた臆病者じゃよ。」
ハハハ、さすが仲良しさん。
おんなじ台詞をドクも言ってたっけ?
「僕とセスの関係は?」
「知らん、ということになっとる。グラノフの馬鹿がここだけの話、として、新しいセスの仲間の話はしていったがな。」
「ハハハハハ・・・」
思わず乾いた笑いをしちゃった。
ちなみに新しいセスの仲間ってのは僕の事です。
セスは特殊な立ち位置なので、基本的には代々セスだったりするんだ。
ドクやギルド長みたいに、樹海を飛び出しちゃう人もいるけど、セスに生まれたら一生を樹海の守護に捧げる人がほとんど。だからこそ、セスの一族として、一つの部族みたいな扱いになっているんだ。
もちろん他所で生まれてセスと一緒に守護をするようになる人もいるにはいるらしい。でもそれはほんとにまれ。それだけセスとしての生き方は過酷で、外から来て一生を捧げる人なんて、セスの人と子をなすような強者のみって感じかな。
だから、そういうセスの誰かと家族になるのではなくて、長老達から請われて仲間になるのって、歴史的にもほぼいないんだって。
僕の場合は、セスの夢を叶えられるかもしれないっていう可能性を買ってくれた、んだと思ってる。
まぁ、感覚的には、前世でもあった名誉市民的な称号だと思ってるけど、セスの人たちはすっごく仲間意識が高くて、セスである以上は家族です、って扱ってくれるから、なんかこそばゆいんだ。
家族は大事。
だから僕のことを家族だって言ってくれるセスのことは、僕も大事って思ってるよ。
あくまで、セスは、だけどね。
ナスカッテ国はやっぱり外国だし、建前と実情が違いすぎて生きづらい国って感じがする。ていうか、なかなかに良い思い出はないんだよね、特にトゼ界隈では。
「まぁ、なるほどのう。樹海と同じ黒い魔物の件もあるし、クッデにセスが
「ひっどぉい。僕は別に悪い奴を追っかけてきただけだもん。ギルドには迷惑はかけるつもりはないし、勝手に依頼を遂行するだけ。でも、クッデのお膝元で騒ぎになっちゃ悪いから報告はするけど。」
「・・・おい、小僧。本気で言ってるのか?」
え?
なんか急にギルド長がドスの効いた激おこモードになっちゃってるけど、なんで?
「ギルドに迷惑をかけないだぁ?報告はする?おまえ、ゴーダンたちに何を学んできた?いや、あいつらのやり方を見て、そんな考え方になったのか?」
「ちょ・・・ギルド長?」
「いいかダー。おまえは、いや宵の明星は、ギルドを通してその指名依頼を受けた、そうだな。おい、実際は、とかぬかすなよ。経緯はどうあれ、それはギルドを通した依頼だ。違うか?」
ギルド長の迫力に僕は首を振ったよ。
なんか、むちゃくちゃ怒ってる?
「あのな、ギルドを通した以上は、ギルドが協力する。依頼遂行のための最大限の協力だ。なぜか?そのためにあるのがギルドだからだ。個人の力なんざ結局はしれてる。そのための組織だ。そしてギルドって組織はその構成員を守る義務がある。特に、だ。見習いは、ついた冒険者が教育する・保護するってだけじゃねぇ。ギルドが見習いとして登録を受けたんだ。おまえさんみたいなひよっこを守るためにギルドはある。ギルドで次世代を育て守るのが見習い制度の趣旨なんだよ。それが迷惑をかけるだ?あたりまえだ。見習いって存在自体がギルドの足をひっぱる迷惑なもんなんだよ。だがな、それでいい。迷惑をかけてなんぼが見習いだ。迷惑掛けられて、それをこっぴどく叱るのが儂たちの役目じゃ。」
えっと・・・
ギルド長、肩で息をしてるけど大丈夫?
一体何をそんなに怒っているのか、正直僕にはわかんないんだけど・・・
そんな僕を見て、彼は今日だけで何度目かの、しかも一番でっかいため息をついたんだ。
「はぁ。まったく分かっておらんようじゃのう。冒険者は自己責任とでも叩き込まれたか?それはそれで間違いないがのう。じゃがそれだけじゃない。互助、と言っても分からんか、せっかく冒険者が集まる組織じゃ、互いに助け合ってやっていこう、ギルドはそのためにもあるんじゃよ。だからな、迷惑をかけてもいい。じゃが、勝手に突っ走って、無理をして、失敗するようなことはするんじゃない。無理して、怪我をしたり死んだりしたら、それこそ地獄にまで叱りに行くからな。あのな、ダーよ。確かに、ここには、大物を確保する立派な施設はないが、捕り物に協力もできれば、見張りにも協力はできる。存分に頼れ。頼っておまえさんたちが無事ならそっちの方がずっと良い。必要なのは報告じゃない。協力の要請じゃよ。」
ひょっとして、この人は僕たちのこと、むちゃくちゃ心配してくれてる?
いっつも面倒くさそうにしてるから、わかんなかったです。
ハハハ、なんていうか・・・心配かけてごめんね、ギルド長。
「ごめんなさい。そして、ありがとう。」
僕が小さく言ったら、ニパァって笑ったよ。
好々爺って、こういう顔を言うのかな、なぁんて思ったりして・・・
と、そんな感じのやりとりをして、ギルドの方へ戻った僕。
なんか、ザワザワしてる?
!
けんか?
誰かが誰かを殴ってでっかい声で怒鳴ってる感じ?
どうしたの?
僕は、遠巻きにしてる人の足下をくぐり抜けて、騒動の中心に行った。・・・え?・・・ハンスさん?
森の咆哮のリーダー、ハンスさんが、どうやら殴って怒鳴ったらしく、少し離れた足下に、若い感じの冒険者が尻餅をついて口元を拭っていたんだ。
その仲間っぽい、これも若い男女の冒険者が、殴られた人の後ろにしゃがんで、その背を支えていた。
「ハンス、さん?」
僕は恐る恐る声をかけると、僕を見て驚いた顔をしたハンスさんが、ガバッて頭を下げたんだ。
「悪い、ダー。大恩人のおまえさんを、この馬鹿どもが金で売ったらしい。ほんとにすまない!」
?
どういう意味?
「この馬鹿どもが、ギルドも通さず、ふざけた依頼を受けたんだ。」
忌々しげに言うと、ハンスはその若手冒険者たちをギロッと睨んだんだ。
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