第221話 とりあえず、仕事を先に済ませよう
グレンからOKの念話をもらった僕は、クッデの村に飛び出したよ。
浅い森、って言ってたけど、もう黄昏時は過ぎちゃってるのか、なかなかに真っ暗です。と言っても、魔力が多い僕には、一応見えるレベルなんだけどね。
この世界に、肉体強化系の魔法はない。けど、魔力の通り道を通すことによって、内蔵だけじゃなく筋肉だったり、まぁいろいろ、肉体も強化されるんだ。
そもそも、魔力そのものが身体の至るところをコーティングするようで、これは無意識レベルの身体の仕様になっている。汗が出たりするのと同じように、身体の機能の一つなんだ。
だから、魔力量の多い人間は、割と丈夫だったり、肉体的にも魔力に応じて能力が上がります。
とはいっても、剣士として特化している人は、外に魔力を放出するのが苦手な分、肉体強化に使われていたり、それなりの訓練での肉体強化もできるんだけどね。
むしろ魔力で肉体のステータスアップがされちゃうと、フィジカルを鍛えて筋力アップ、っていうのが逆に難しくなったりして、一長一短はあります。
ドクの研究で、魔力を散らす=魔法を使えなくする、そんな魔導具をつけると、肉体強化にいっていた魔力も消えちゃうから、その状態で鍛えると効率が良いってのも分かってたりします。そのためわざと魔力が使えないようにして訓練したり・・・
ハハハ。これ、かなりきつくって、僕は苦手です。うちの大人達を怒らせちゃったら、この状態で訓練が行われたりして、ほぼほぼお仕置き代わりに使われるから、さらに苦手・・・
まぁ、それはいいとして、さて、どうしようか。
さっきの聞きかじった話だと、どうやら、ライライさん、ストーキングでもしてたのか、お宿から僕が出てきてなくって、アーチャ一人(実際は外でグレンと合流)で調査に出た、ということが分かってる・・・らしい?
いやいや、その時点でアウトでしょう。
僕らのお宿は、冒険者としての最高級お宿みたいな感じ。最近できたらしいけど、言っても高ランクの冒険者相手のお宿です。
で、最近はクッデ村はもう町と言って良いほど発展してきていて、それなりに名のある商人たちも入ってきてるんだ。
てことで、冒険者とは違う、商人とかの普通のお金持ちとか、この国には貴族はないけどそれに類するような人たちとか、そんな人たち用の高級お宿も建っているんだって。
当然、ライライさんはその手のお宿に泊まっているはず。
なのに、朝っぱらから、冒険者用お宿前でストーキング?
(アーチャが戻ってきたときには、宿の人間と、もめてたみたいだぞ。)
グレンが言ったよ。
どうやら、森の探索に行ってる間に、宿に突入してきて僕を出せ、ってやってたらしい。
あのね、この世界でも良いお宿なら、絶対宿泊者の情報は出さないんだよね。特に冒険者の宿はこの点安心なんだ。
冒険者って、仕事柄いろいろ恨まれることもあるし、情報を持っていたりもする。
誰が誰と会っている、とかも重要な情報だったりするしね。
だから、セキュリティに対しての意識は高い。
お金に困ってないって事もあるんだけど、僕らができるだけ高級お宿に宿泊するのも、この手のセキュリティ対策を信じてのことでもあるんだ。
多分、宿の人は、ちゃあんと突っぱねて、僕らが泊まってることすら口に出さなかったとは思うけど、そこに本人が帰ってきちゃったら仕方ないよね。
グレン曰く、宿の人にアーチャはごめんなさいして、とりあえず部屋に入れたんだって。まぁ、グレンはそれを遠目に見てたらしいけど。
で、小一時間、お部屋で大騒ぎしてるそうだけど、はっきり言っていろいろアウトです。ひょっとして、こういうのも、僕の保護者達は考えていたんだろうか?
そう思って、こそっと、依頼書と任命書をポシェットから出して、僕は握りしめたんだ。
(で、どうする、ダーよ。アーチャの下に行くのか?)
「うーん、放置もできないけど・・・別行動してた、っつっても、本当の事なんて言うわけにはいかないし、どうしよう?」
(我の背にいた、とでも言えば良かろう。)
確かにグレンに乗って寝転ぶと、もふもふの毛皮に埋もれて、小さい僕は見えないだろうけど・・・さすがに無理があるんじゃ?
それに小さいから見えなかったって、なんか悔しいよねぇ。
でも、だったら、誰かと別のところにいたことにすれば・・・、って、誰とだよ?
「先に、ギルドに行って、やることすませちゃおっと。」
(おいおい、アーチャは放置か?)って言うグレンの言葉は聞かなかったことにして、僕は先に冒険者ギルドに向かうことにしたんだ。うん。お仕事大事です。
冒険者ギルド。
夕方のこの時間は、それなりに人が多いです。
けど、僕が入ると、お約束な展開があるわけでもなく、数名の笑顔と、軽い挨拶が飛んできたよ。
昨日来たばかりなのに、どうやら僕のことを知っている人がたくさんみたい。
ま、どこにいても、この髪は目立つからねぇ。
「ダー君。うちの方に回ってくださいね。ギルド長が待ってます!」
グルッとギルドの様子を見てたら、受付から声がかかったよ。マーシーさんが、目ざとく見つけてくれたみたいだね。
僕は「はぁい!」と軽く手を上げて答えると、そのまま、裏口へ回ったんだ。
で、ギルド長のおうちへ突入です。
どうやら、ギルド長、晩ご飯の支度をしてるみたい。
ちゃんと、家事もやって偉いねぇ。なんて思いつつ、声をかけると、応接で待ってろ、って言われちゃった。
しばらくして、お茶とお菓子を持参したギルド長に、軽い挨拶のあと、目的のものを見せました。
うん。依頼書。
うちの陛下からレッデゼッサおよびその一味を捉えて移送する依頼を宵の明星に出したって内容で、それが我が国王都のギルドで指名依頼として発せられたことの証明書だね。
「うむ。どうやって昨日の今日で用意したかは聞かんが、本物のようだな。ギルドで受付られた以上、当然協力はする。しかし、それはギルドとしてだ。国から横入りがあったらどうしようもないぞ。」
「うん。そっちも大丈夫。タクテリアの第一王子プジョー殿下が責任者として、ナスカッテ国と交渉することになってるんだ。今、こっちへ向かってるんじゃないかな?2,3旬のうちにはトゼに到着できると思う。」
なんせ、うちの新造船。スピードも桁違い・・・のはず。多分ね。
「第一王子だと?それはまぁ大物を投入したもんじゃなぁ。じゃが、捕縛が早くできたり、そもそもその前にナスカッテ国も乗り出すかもしれんぞ。」
「その辺の話し合い自体はもう始まってるかも。トゼに詰めてるうちの官吏が実務の話し合いは行うことになってるし。それに・・・」
はぁ、と、思わずため息をついちゃった。
やっぱり外交カードになるのは気が重いです。
「なんじゃ?」
「一応、第一王子が到着するまでは、第三王子がその代理に任命されてるんだ。」
「ほう、それなら大丈夫かのう。・・・?それって・・・」
ギルド長がまじまじと僕を見たよ。
僕は苦笑しつつ頷いた。
「ハハハ。兄様が到着するまで僕の責任で、あいつらの身柄は確保することになっちゃったんだ。」
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