第218話 辞令?

 僕が転移しているように見えるのは、宙さんの空間を使ってるから、そこは宇宙空間と同じ環境だ。そういう風に空間を作ったから。

 その理屈で言うと、華さんみたいな空間を作って通れば誰でも行けるでしょ?って言えるかもだけど、どんな空間を作り誰をそこに招き入れるかは精霊に依存してて、そもそもが彼らの存在意義にも関わっちゃうんだって。

 でね、華さんとか森の精さんとか見ても分かるけど、ほとんど精霊のいる空間ってのは、この世界だとにリンクされるんだ。鞄を出入り口にするっていう宙さんってば、めちゃくちゃ特殊で、それもこれも宙さんが生まれたきっかけにが関わってるから、らしい。宙さん談だけどね。


 理系で宇宙大好きな団塊世代のおじいさんが転生して、ファンタジーもいいけどSFも好きなんだよなぁ、なんてレベルで空想してできた・・・のが、宙さんの住処、らしいです。

 あいにく僕はひいじいさんが好きだったっていうアメリカの映画系SF(昭和時代)てのに詳しくは無くて、そういうロマンはよくわかんないけどね。

 ま、そういうわけで、宇宙空間=絶対零度な空間は、空気もないし超寒い。グラビティゼロ重力なしだからふわふわ浮くのはちょっと楽しいけどね。


 この空間で生きられるのは、この空間維持に魔力が使われている僕だけ、なんだって。

 この辺り宙さんのさじ加減があるんじゃないか、って思わなくもないけどね。だって、すねちゃった宙さんが、たまぁに僕の空気をなくしちゃうんだもん、死んじゃうって・・・・

 ま、どっちにしろ疑似宇宙空間な宙さんの空間は、本当は僕の魔力で満たされた空間で、僕よりも魔力が弱いと宙さんの設定を受け入れて、即凍るし息ができないし、場合によっては血液が一瞬で沸騰するかも(地球の医者が前身のモーリス先生談)、らしいです。


 なぁんてお話しを、凍ったお茶のカップを見せながら僕はプジョー兄さん達に説明したんだ。


 「そうか。そうだな。それにアレクに負担をかけるなんて言ったら陛下や父上に殺されかねないしね。ハハハ。転移に関しては・・・博士に解析を引き続きお願いしようか。まぁ、それはいいとして・・・」

 兄様は近衛の1人に目配せしたよ。

 彼は兄様に2枚のお手紙みたいなのを差し出した。

 それを受けると、兄様はそのまま僕の前に置いたよ。


 「こっちが依頼書。こっちが辞令だ。」


 いずれも陛下の印と封が施されている。けど、前者が事務的な物だろうなと思われる無地の封筒で、後者はなんていうか仰々しいっていうか、軍服みたくラインが入った、そうだな表彰状の外枠みたいな感じで装飾された封筒だった。


 「依頼書はいいけど、辞令??」

 僕は首をかしげる。

 「依頼は、宵の明星宛。我が国の商人レッデゼッサおよびその関係者の捕縛および移送の依頼をした旨の王直筆の書。依頼自体に関しては先ほどギルドを通して、リーダーのゴーダンに渡っているが、その確認書だね。」

 うん、それは分かる。

 クッデのギルマスが用意しろって言ってたもんだ。

 依頼なしに冒険者が勝手に捕縛していいのは、基本的に現行犯だけだ。ま、現行犯なら冒険者云々も関係ないんだけどね。

 現行犯じゃなくても捕まえていいよって許していたら、それこそ嫌いな人を捕まえてもOKってなっちゃうもんね。冒険者は治安要員じゃ無いんだからね。


 「それとこちらの辞令は、アレクサンダー・ナッタジ・ミ・マジダシオ・タクテリア王子に対する、本件の外交勅使任命の証になる。養成校で外交について、多少は学んでいるね?」

 外交?

 そりゃ、簡単なお勉強はしたけど・・・・

 僕が外交?


 「不思議そうな顔をしているけど、当然でしょう?要は、我が国の犯罪者を引き渡せ、という交渉です。そもそもが自分の領地にいる人物は、そこの国家に生殺与奪の権利がある。それは教えたはずですよ。」


 そうだった。

 兄様が先生として教えたのは礼儀作法とかがほとんどだけど、海外との接し方、みたいな授業もあって、そのときに習ったんだ。


 少なくとも我が国の土地もそこに住む人民もすべては王の物である。

 それは外国の者も例外では無く、犯罪者が我が国に入り込んだ場合、我が国にその裁きを行う権利があるんだ。

 これはお互い様ってことで、基本的には自分の国の犯罪者が他所の国に行っちゃったら、もうどうしようもない。

 その逃げ込んだ国に対して、引き渡してもらうよう交渉して、言い方は悪いけど、持って帰れるように話し合うんだ。


 その場合は対価だったりを渡すことも多いって。あとは物々交換だったり、権利を上げたりもらったり、まぁ、そこの交渉が外交官としての腕の見せ所、って感じ?

 とは言っても、当該国じゃ無い国の目もあるからね、いかにも犯罪者ですって人の引き渡しとか要求されたら、割と簡単に応じるみたい。

 それこそ捕縛とかからなら、自腹で全部やるなら勝手にどうぞ、てな感じ。あとは捕まってたりして経費が発生してたらその分をちょい色のせしてお金払うぐらいかな?牢屋の宿泊費、みたいな?


 でもその外交を、僕??


 「相手は、ナスカッテ国においても行動をしている大きな商人です。それに事が事。ナスカッテ国が彼らの国の魔物を彼らが利用している可能性に気づいていないとは限りません。さらに、ワージッポ博士がかの国出身であることも分かるように、エルフが中枢にいて治安を担っている以上、魔法技術は我が国よりも秀でている可能性も少なくないでしょう。であれば転移の秘技を欲するであろうことは火を見るより明らか。そこを押して彼らを移送するのです。生半可な地位の者を交渉に出すわけにはいきません。」

 「だからって僕は!」


 僕がそんなことできるわけないじゃない。


 「ある程度の交渉は、すでに向こうにいる文官が行っている最中です。アレクはその交渉の責任者として赴任してもらいます。」


 トンツーの通信機は、国の関係者には支給もされているんだろう。

 そして、話し合いは中央からの命により、地球で言う大使みたいな感じで、各国に駐留している文官が行ってるみたいです。


 だけどその責任者に僕?どういうこと?

 僕は国のことはやんなくていい、ってことじゃなかったっけ?


 「あぁ、ダーよ。悪いがそれを進めたのはこっちの勝手なんだわ。」


 僕が困っているとゴーダンがこめかみを掻き掻き、気まずそうに言ったよ。

 どういうこと?


 「あのな、本当はプジョー殿下が名乗りを上げてくれてはいたんだ。だがな、この捕縛は、宵の明星の頼みで行っている上に、急ぎたいのもこっちの願いであって、そのためにもおまえさんにこの移動をしてもらったんだ。それは分かるな?」

 ゴーダンの言うのは分かる。


 この事件を重視しているのは僕らの勝手だ。

 だって、黒い魔力とか瘴気、って僕らは言ってるけど、魔力の段階で黒く見えるのは(人間では)僕だけみたいだし、タールの魔物はすぐに消滅するから、近寄らないっていう、対処法もあるんだ。

 レッデゼッサがいろいろやって、多少の人的被害は出たとはいうものの、魔力が低い者が高魔力の魔物を食べたり側に寄った時の症状と同じだから、国としては、商品の取り締まりができて、やった人がいなくなれば問題なし。外国に隠れてくれるんなら、まぁ、仕方ないか。捕まえられなくて悔しいな。

 治安当局の考えることなんて、そんなレベル。


 だけど、僕らは将来的にはこの技術は人にとって良くないって思ってて、なんとか危険を把握し対処したいって思ってるんだ。

 分不相応の魔力を用いて、魔導師を消費しつつ、無謀な魔法を、魔法陣を使役する。

 常に暴発の危険と、携わる魔導師の消費がついて回るんだ。

 魔導師の消費、なんて言ってるけど、要は命を使うんだよ?

 そんな技術、認めるわけにはいかないじゃない?


 だから僕らは焦ってる。


 少しでも早く、この技術を止めなければって思ってる。


 それに・・・


 転移だと言っても、つなぐのは魔素だまりと言ってもいい、魔力があふれる土地どうし。

 それによりこの世界が一部崩壊しちゃうんだ。

 だからこそ、精霊たちも妖精たちも不安がってる。


 僕らが無理矢理散って、なんとか彼らを捕まえようって、右往左往しているその理由がこれ。



 僕が頷いたのを見てゴーダンが続けた。


 「話し合いが真摯なものだと印象づけるには、それなりの地位の者が交渉台に上がる必要がある。名前だけとは言っても、ダー、おまえは立派な王族だ。それにザドヴァの件もあって人気もあるんだってな。成人前でも王族って名前は伊達じゃない。一刻も早く、彼らの身柄をこっちに持ってくるためにもおまえがやるのがいい、そう考えたんだ。」

 「でも、プジョー兄様の方が立場だって上だし、将来王様になる人だよ?」

 パクサ兄様は王様になる気はないって常々言ってるしね。

 「だから、時間だ。」

 「時間?」

 「ああ。殿下が急いであの国に入ったとして、交渉はいつになる?」

 「あっ。」


 そうだ。


 船旅ってのは時間がかかるんだよね。

 前世時間で1月ちょっと。

 首都トゼまではそのぐらい、優にかかるんだ。


 「その依頼書をもらうときに、陛下ははじめ、外交官として宵の明星にプジョー殿下の同行も命じようとなされたんだ。それを博士がおまえにしろって進言したらしい。方法は極秘だがおまえがナスカッテ国にいるから、とな。」


 うわぁ。

 ドクってば、王都にいたのか?もしくはトンツーかな?

 王様にいろいろ言える人ってドクくらいだもんなぁ。

 それをそのまま辞令にしちゃうって、陛下も変だって思ったろうに、ドクだから、って認めたんだろうなぁ・・・・


 そう思いつつ僕はプジョー兄様を見た。


 この人は、もしかしたら自分が代わりに、とでも思ってついてきたんだろうな。

 僕が王子っぽい仕事をしたがらないことは知ってるだろうし、何より子供の僕より自分の方が力押しできるから、って、僕らの役に立つために押してきてくれたんだろう。なんだったら僕の補佐、とか言ってついてきそうだし・・・・


 「これをあなたに渡すのが可能なら、レッデゼッサのように転移の方法があるのでしょう。本当は私もアレクに同行して外交の手助けができれば、と思っていたのですけどねぇ。まぁ、今日は諦めます。いいですかアレク。あなたは我が国の王子として、毅然と我を通してくるんですよ。喧嘩別れしそうになってもかまいません。私が行ったときになんとでもしますからね。ね、ゴーダン郷。」


 ほらね。


 けど、なんか聞き捨てならない台詞を言ったような・・・

 ・・・?


 ゴーダンを見ると、はぁっとでっかいため息をついて言った。


 「新しい俺らの船がもうすぐできるんだと。俺たちはそれでクッデに向かう。・・・殿下、も一緒にな。」


 ハハハ・・・

 ゴーダンってば、兄様に押し切られたみたいです。ハハハ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る