第216話 お昼も忙しく・・・

 そろそろお昼。

 てことで、ママのところへ・・・

 あれ?

 王都、じゃないね。ダンシュタのナッタジ商会だ。

 そういえば、向かうって言ってたような・・・


 「ダーチャ!!」


 ママのバッグから出た僕がそんな風にキョロキョロ見ていたら、ドン!って足下に小さな衝撃。

 レーゼ?!

 突然現れた僕に体当たりハグをしたレーゼだったよ。


 「うわぁ、レーゼ、大きくなったねぇ。」

 思わず抱き上げて頬をスリスリ。

 でも、ほんとずっしりになってるよ。


 「ダーチャ、おかーりぃ!!」


 なんて賢いんだろう。

 もうペラペラしゃべってる?


 「ただいま、レーゼ。いい子にしてた?」

 「あい!!」


 どうやら、ママの執務室で一人お留守番していたところに、僕が出ちゃったみたいです。

 声を聞きつけたのか、コンコンってノックがされたよ。


 「「はぁい。」」

 僕とレーゼは一緒にお返事。

 恐る恐るドアを開けたのは、ん?クルスだ!


 「ダー様でしたか。お帰りなさい。」

 僕を見て、クルスがニコニコと入ってきたよ。

 クルスはここ本店の番頭さん。

 彼がいるから、ママ達も僕も自由に動けるんだ。


 「坊ちゃんたちがおられるなら、お昼になさいますか。会頭が下でお食事の用意をなさっていますよ。」

 「やったぁ!」


 フフフ。

 店の奥には従業員さん達も使っていい厨房やら食堂もあるんだけどね。ママがいるときは、暇を見つけてはお料理を振る舞っているんだ。料理上手だし、食材は凄腕冒険者が提供するお肉もいっぱい、ってこで、ママが作る日は従業員さん達も、テンションアップです。


 僕がいるときは、スープだけはいっつもママ特製だよ。ママのスープは世界一なんだ。レーゼでもしっかり食べられるミルキーなのも多いしね。

 僕はレーゼを抱いたまま、クルスと一緒に食堂へ向かったんだ。



 「お帰り、ダー。」


 ママはいつも通りのニコニコで、僕を迎えてくれたよ。

 レーゼは僕のお隣。

 カイザー特製ベビーチェアは、僕のお子様チェアの横に設置されました。

 あいにく僕の身長はまだまだ普通の椅子ではテーブルが高すぎる。けど、レーゼの椅子よりは大人と同じ椅子で大丈夫。普通の椅子の上にちょっとした台を乗せてるだけだからね。うん。僕はもうお兄ちゃんだから、赤ちゃん椅子はいらないんです。フフフ。


 クルスは僕らに遠慮したのか、そのまま食堂を出て行ったよ。

 しばらくしたら、ヨシュアが来たんだ。どうやらクルスが呼んできたらしい。

 ヨシュアも戻ってきてたんだね。

 ランセル達が協力したみたいで、南部へ行ってたみんなも、適宜戻っているらしいです。


 てことで、このテーブル、ママ、ヨシュア、レーゼと僕。

 ・・・

 僕が入らなきゃ親子水入らず、なんだろうけど、なんか申し訳ないな、ってちょっぴり思ったら、ヨシュアが一言。

 「ダーも私の息子ですよ。」


 ・・・・

 どうやら心の声がバレてしまっていたようです。



 そんなこんなで、久しぶりに家族団らんのお昼ご飯。


 レーゼは本当にしっかりしてきたよ。

 はじめは、ママとダーチャしか言えなかったのに、赤ちゃん言葉だけれどいっぱいしゃべれるようになっていました。パパ、も言えるようになっていて、良かったね、ヨシュア。



 ママのところでご飯食べなさい、ってゴーダンが昨日言ってたから、そのつもりでママのバッグから出たけど、一つ誤算です。

 ママは王都にいると思ってたからね。

 王都で、陛下に依頼の証書をもらわなきゃなんなかったから、どうしようってなっちゃった。


 そうしたらね、なんか、ゴーダンとラッセイ、ミランダは、王都にいるって。

 南部から今回の関係者を捕まえた護送チーム、もう、王都入りしているんだって。

 早いねぇ。

 ランセルなら分かるけど、って思ったら、どうも途中まで王都からの騎士団がきて、引き継いでくれたらしい。でその後は、メンバーだけランセル便で王都に向かったんだって。

 ママにゴーダンのバッグから出るといいよって言われたんで、みんなにバイバイしてポシェットにダイブです。



 で、出てきたのは、ナッタジ商会王都支店の、VIPエリアにあるお部屋。


 VIPエリアって言っても豪華にしてるわけじゃなくて、どっちかって言うと宵の明星のメンバー専用エリアって感じかな?もともと王都支店には、お店部分とスタッフ用のお仕事関連の部屋にくわえて、寮としての機能も持たせているんだ。ほとんどがダンシュタからの従業員さんだからね。

 ナッタジ商会には、特殊技能って言うか、僕とかカイザーが開発に加わったりしていて、前世でいう特許的な技術をもった商品もたくさんあります。これから出す新製品なんかは特に、ね。そういう意味では泥棒さんとか悪い人の侵入にも気をつけないと、なんです。

 そこで、わざと「宵の明星のスペース」っていうのを明示してるの。わざわざ有数の冒険者パーティがいるような商会に盗みに入るのは、よっぽどの人でしょ?

 冒険者ギルドでも、王都での連絡先はナッタジ商会王都支店、ってしてるし、商業ギルドにも、それとなく、というよりも大々的にママも僕も宵の明星のメンバーだ、って報告してます。

 だから、どっちからの情報でも、宵の明星とナッタジ商会は一心同体だって分かる、ってわけ。

 パーティの連絡先としても、セキュリティとしても一石二鳥の措置だって、いろんな人に褒めてもらってます。



 てことで、王都では宵の明星用エリアに放置されていたゴーダンのバッグから出たんだけど、・・・誰もいないね。

 無造作に置いてあるけど、さすがに不用心なんじゃ?


 そんなことを思いながら、お店の方に降りていくと、スタッフさんを捕まえて、宵の明星の誰かの居場所しらない?って聞いてみました。

 一応、伝言あったよ。

 冒険者ギルドに来るように、ってね。



 てことで、一路冒険者ギルドへ。


 ギルドの扉ってさ、なんでこんなに高いところにノブがあるんだろうね。

 ま、ギルドだけじゃないけどさ。

 僕は誰かと一緒に来ることが多いから、自分で開けるのは少ないんだけど、ちょっぴり意地悪だよなぁって思います。

 背伸びをしてもギリギリだもん。

 そりゃ僕がチビ、なんだけどさ。


 「おい坊主。ここは冒険者ギルドって言ってな、大人の来るところだぞ。」

 「でも、カザよ。こいつ、いっちょ前に冒険者の格好してるぜ。」

 「へへへ。どうせ勇者に憧れただろうぜ。さ、どいたどいた。ここはガキの来るところじゃねえ。邪魔だ。どきな。」


 僕が、開けようとしたら、ほらね。

 こういう人が来るんだよ。

 実力行使でどけようとしないだけまだマシだけど・・・

 ひどい人なんかは、襟首つかんでどかしたり、足で蹴飛ばしたりするんだもん。


 「気遣ってくれてありがとう。でも僕、ここに用があるんだ。」


 僕は毅然とした態度で振り返って、そう言ったよ。

 どうやら、遠征で帰ってきた7,8名のパーティみたいだね。

 結構汚れているし、疲れたって感じ。それにお昼過ぎたところ、って感じの時間帯だから、そう思ったんだ。

 ひょっとしたら他所の地区から王都にやってきたパーティかもしれないけど。

 そうだとしても、少なくとも護衛のお仕事じゃないな、護衛にしては、その・・・清潔感が・・・ねぇ。


 けど、まぁ、悪い人でもなさそうです。

 疲れているのに、そこそこ丁寧に僕に話してくれてるし。ね。あ、丁寧ってのは冒険者としては、だけどね。

 そういうわけで、ランクも高いのかも、です。ランク高い人ほどなぜか常識をわきまえているっぽいんだよねぇ。逆は・・・ま、ご想像通り・・・


 「おやおや、坊ちゃんがご依頼ですかい?でもおとうたまにきてもらった方がいいでちゅよ?って、イデッ!」

 後方にいた男の人がからかう感じで僕に赤ちゃん言葉で言ってきたら、横に立っていた女の人に頭叩かれてた。ハハハハ。なんていうか、いいパーティなのかもしれない。暴力は反対だけど、ね。


 「坊や。用があるんだろ。カザ、開けてやりなよ。」

 そのお姉さんが、最初に声をかけてきた男の人に言ってくれたんだ。

 おお、とか言いながら、僕の頭の上から手を出して、ドアを開けてくれる。

 このドアはどっちにも開くけど、手前に引くのがお約束。

 反対側に開けると近くにいる人に当たったりして、喧嘩の原因になっちゃうからね。割と最初に学ぶ常識です。


 「ありがと。」

 僕は、開けてくれたカザさん?に言い、進言してくれたお姉さんにぺこり。そして、他の皆さんにも再びぺこりってして、中に入りました。


 ザワザワしているいつもながらのギルドだけど、時間帯が時間帯だから、人は少ないかな?受付エリアなんかは閑散としてるよ。

 てことで、すぐに入ってきた僕に気づいたんでしょう。

 「あ、ダー君、いらっしゃい。来たらすぐにマスターの部屋へ行ってくださいって。」

 「はぁい。」

 僕は顔見知りの受付のお姉さんにそう言われて、手を上げて返事をしたよ。

 王都ギルドのお姉さんたちはほとんどの人が僕が第3王子アレクだって知ってるけど、ここでは、冒険者ダーとしている、って知ってて、そのように扱ってくれるから安心です。


 僕がそんなやりとりをしているのを後ろで見ていたカザさんたちのパーティはちょっと目を白黒。

 そりゃまだ10歳、春でやっと11歳の僕が、(3つ4つ下に見られることは無視したとしても、ね)、普通に有名冒険者みたいに受付嬢と会話しつつ、しかもマスターの部屋へ行け、なんて言われてたら、どういうこと?ってなっちゃうよね。

 気持ちは分かるけど、ちょっと面白い顔をみんなしてて、クスリって笑っちゃった。


 ま、そんな彼らは放置して、奥へと向かいます。

 扉をジャンプして通ったら、後ろから「ダー君お行儀悪い!」なんて叫び声が聞こえた気がしたけど、そこにいたスタッフが邪魔だったんだもん。彼ごと飛び越えたんだし、仕方ないよね?


 僕は聞こえなかったふりをして、階段を駆け上がったんだ。

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