第212話 ハンスさんのお話
「まぁ、あれだ。ダー・・・様?ダー・・・君。いやダーでいいよな?そのなんだ。ダーとあのお嬢様の話を聞いてて、さ。なんつうか、俺らが口を挟むようなことでもないんだろうけどさ。その、なんだ・・・・」
ハンスさん、言いにくいことを話そうとするときもゴーダンっぽいんだな、なんて、ちょっとクスッてなっちゃった。
ラックルボウさんの話はなんていうかつなぎの世間話?
内容はあれだけど、まぁそんなつもりだったんだろうね。
お宿の案内に街ブラと、彼らがついてきてくれたその本当の理由を話したい、って感じで、森の咆哮の皆さん、肘でつつき合っているんだけど?
あ、もちろん、僕らを案内してくれるのも目的の大きなところだったとは思うよ?だけどもう一つ、言っておきたいことがある、そのことはさっきからずっと感じていたんだ。
まぁ、それは僕の王子云々の話だろう、なんて勘違いしていたんだけどね?
心を読もうとしたわけじゃない僕の勘では、何か言いたいことをどうやって言い出すかって考えてる、ってことだけが分かってたんだよね。
でも王子云々は、どうでもいいこと・・・とまでは言わなくても、大本命の言いたいこと聞きたいこと、ではなかったみたいです。
「もう。ダーでいいですって。で、何か言いたいことがあるんでしょ?何?」
だから僕はダイレクトに聞くことにしたんだ。
「ああ、そっか。そうだよな。・・・うん。そうだ。・・・えっとな、ダーは外国人だからよくわかんないかもしれないけど、この国の偉い人ってのは評議員といってだな、そいつらが話し合いでいろんなことを決めてるんだ。これは分かるか?」
僕はうなずいた。
王政よりもこっちの方が前世の記憶を持ってる僕にはわかりやすかったりするんだよね。
「でだ、たくさんの人間が集まって決め事をするから、派閥って言って、まぁ考え方が一緒の奴が集まって、違う意見の奴らと足の引っ張り合いをしているわけだ。」
ハハハ。一般市民の目ってこんなもんだよね。
「ちなみに、その派閥ってのの影響はギルドにもあってだな、ここクッデと首都トゼのギルドは意見があんまり合わないんだ。仲のいい偉い人が違うって思えばいいかな?」
これにも僕は頷いた。その話は前に来たときから聞かされていたしね。
「意見が違うだけで別に喧嘩してるわけじゃねえ。が、それに伴っていい奴悪い奴、つうか、好きな奴嫌いな奴ってのがなんとなくできたりするんだな、これが。」
ま、そうだろうね。
「でだ。さっき出てたミゲル商会・・・なんだが・・・」
ここでハンスさん、伺うような感じで僕らを見たよ。なんだろう?
「ありゃあ、トゼ界隈じゃ人気の商会だ。特殊な素材加工技術で素材ランクを1つも2つもアップさせた武器やら防具を売ってるってな。同じ素材の中なら高価だが、それのもつ能力考えたら安いってのが冒険者の仲間でも評判なんだ。」
だろうな、って思う。
その特殊な技術ってのが、あのタールの魔物を使うってところじゃなきゃ、僕だっていいなぁって思うもん。
たとえばさ、普通の人でも使うモーメーの毛。
普通に暖かい羊毛っぽい感じで糸にして編んだり、圧縮してフェルトみたいにして服にする。フェルトなんかは簡易の防具の役割をするんだけどね。コッケラに軽くつつかれた程度じゃ大丈夫な感じって言えばいいのかな?
えっと、モーメーってのは家畜の定番で、毛は羊毛っぽく、肉やお乳は牛っぽいんだ。顔は怖いけど優しい動物です。あ、ちなみにこの世界の生き物は全部魔石を持っているから魔物って言うべきかな?
で、コッケラは、ダチョウ・・よりは小さいか?エミューぐらいのでかさの鳥の魔物。これも定番の家畜で、鶏みたいな扱いかな?ちなみにサイズ以外は烏骨鶏っぽい。
でね、潜入のためミゲル商会で働いていたマウナさんとかに聞いたら、このモーメーの加工した毛をフェルト状にすれば、強化されていない木の弓矢だったらはじくそうです。
お値段は普通のモーメー製のものの1.5~2倍はするけど、弓矢をはじく、そんな防具が、それこそグレンのようなランセルの毛皮を使ったものより半分以下のお値段で買えるんだって。あ、グレンは特殊個体みたいだから、もっとお高いらしい。売らないし売らせないけどねっ!
弓矢をはじくためってことで量産されるランセル製の防具、その一番お安いものでも加工モーメーの防具の数倍するよってマウナさんが言ってたんだ。
まぁ、そういうわけで、同強度で考えると、ミゲル商会の素材のものを購入するのはお得ってわけだそうで、ハンスさんの話だと、トゼだと人気がある、ってことだね。でもトゼではってことは・・・
「だがなぁ。特に魔力が多い者ほど、なんか嫌な感じがするって言って、ミゲル商会の武器や防具は嫌がるんだ。ここクッデだと強い冒険者も多いし、魔力が強い魔導師なんかもいるしな。ミゲル商会の製品を持っていると験が悪いなんて言って敬遠される場合もあるんだ。」
へぇ、やっぱり瘴気とかを感じちゃって嫌な感じとかするんだろうか?
僕はまだミゲル商会の商品とか、実際には見たことないんだけど・・・・
「まぁ、ダーがあのお嬢さんを通してミゲル商会と懇意にするのは仕方ないけどな。すでに助けた?のか?そんなこと言ってたしな。だが、そのなんだ。ミゲル商会の評判が、少なくともここクッデじゃ良くないってのも耳に入れとこうかな、ってことだ。それに、とみにここ最近妙な噂も入ってきてるし・・・」
「妙な噂?」
「ああ、あの黒い魔物な、ミゲル商会が呼び込んでるんじゃねえか、とかな。」
・・・
僕とアーチャは思わず目を見合わせたよ。
そんな僕らに気づかず、ハンスさんは続けた。
「どっちにしても、あのお嬢さんが会わせるって言ってたのは、そう眉唾でもないんだよな。なんせ、ここしばらくあそこの会頭がこのクッデに逗留してるんだからな。」
え?
まさかの情報に僕とアーチャは思わず聞き返したよ。
「会頭がいるの?」
「ああ。さすがにあのお嬢ちゃん、トゼまでダー達を連れていくつもりはないんじゃないか?」
それもそっか。
「これも噂の域を出ないが、商会の連中が北の森へ入ってなんかやってる、とかまぁうさんくさい話はチラホラ聞こえるんだ。まぁ、嫌いな奴らの悪口を酒の肴にしてるだけっちゃあだけなんだけどな。」
でもな、火のないところに煙は立たないって言うしなぁ、なんて、セグレたちもこそこそ言ってます。
「まぁなんだ。本当かどうか分からないが、あの黒い魔物が森の奥に現れた、なんて噂まである。実際空気感、ていうのかな、なんか森の様子が妙だなんて言うやつもいる。言っても、こんだけ開拓しまくってたら妙にはなるんだろうがな。」
なんか、予想外に情報がいろいろ出てきちゃった。
僕らがよくわかんないままに、怪しげな評判の悪い商会と仲良くすることになるんじゃないか、って心配してくれたみたいで、なんだかほっこりするね。
所々、余計なお世話をしているんじゃないか、なんて心配しつつ、あんまり悪口にならないように気を遣ってるのが分かって、ハンスさんってばいい人だなぁ、って思います。
だから、ちゃんとこれは言っておこう。
「あのね。ライライさんが何を思ってるか知らないけど、僕たちミゲル商会と仲良くするつもりはないんだ。てか、むしろ敵になるかもしんない。」
「え?」
「もしそうなったときは、僕らに敵対せず遠目に見てくれたらうれしいなぁ。」
にっこり、って僕はみんなを見回したよ。
ちょっと唖然って感じの森の咆哮さんたち、ちょっとかわいい、って言ったら失礼かな?なんて思ってたら・・・
ゴチン!
頭にげんこが降ってきて、目の前に星が散ったよ。いったぁい!!
僕は何が起こったかわかんなくて、思わず頭を抱えて、上目遣いに見たよ。涙目になっちゃったのは不可抗力です。
すると、ハンスさん、わなわな震えながら手をグーにしたまま僕を睨んでるよ。ヒィッ。は、迫力が・・・
「ばっかやろう!何が遠目に見ろだ!そういうときはな、敵対するから手伝えって言うんだ!分かったか!!」
ものすっごい剣幕で怒鳴るハンスさん。
思わず激しく頭を縦に振ったよ。
ついつい後ずさっちゃった僕を支えたアーチャが、僕の頭を押さえて礼をさせ、自分も頭を下げた。
「森の咆哮の皆さん。まだ詳しいことは言えませんが、協力を願ったときには、是非ともよろしくお願いします。」
アーチャの言葉に、ニコッと笑った彼らは口々に「おう」とか「ええ」とか、肯定を口にしたんだ。
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