第211話 森の咆哮との語らい

 「こらそこ、女の年をばらさない!!」

 ハハハ、ラックルボウさんはどうやら地獄耳のようです。

 人差し指を立てて、チッチッて言ってます。


 「まぁ、それは置いておいて、そこの坊やの言うとおり私は年上よ。だけど、まだ二桁だからね。」

 ・・・だそうです。

 あ、ちなみに、100歳ぐらいだとまだまだひよっこなんだって。70オーバーのアーチャだって、お子様扱いです。


 「アーチャ君も知ってると思うけど、100歳以下のエルフってこの国でも50人もいないから。」


 ちなみにこの国は結構混血が進んでいるんだよね。100パーセント○○族、って人は、ほぼいないそうです。ここで言うエルフって、外見がエルフ優勢で半分以上エルフの血が入ってる人

 アーチャなんなかはエルフそのものに見えるけど、8分の1程度は多種族が混ざってるんだって。だいたい半分の血が混ざった種族の外見になることが多いらしい。まぁ、例外も多いそうだけど。

 以前にも聞いたことがあるけど、エルフって言える人=2分の1以上がエルフの血の子供、ってほとんどいないらしい。セスではずっとアーチャだけが子供だったそうです。お兄ちゃんお姉ちゃんって言ってる人も10歳どころか20や30は上、ってのが当然の世界だそうで・・・

 アーチャの住んでいた集落は、特にエルフ中心の町だから、ここで生まれるエルフの子ってのはすっごくレアだったってお話しです。まぁ、戦う人の集落だからってのもあるんだけどね。


 

 「ま、そんなわけで、こんな冒険者なんてやってる私みたいなのでもアーチャ君やあのお嬢様のことは、耳にしてるんだよ?」


 ラックルボウさんが、そんな風に僕らに言ってきました。

 ちょっぴり真面目モード?かな?


 「純血、えっと、エルフとエルフの子って意味だけど、そういう子の中で最年少があライライって子で、次がアーチャ君。知ってるよね?」

 アーチャに向かって言ってるけど、知ってる、レベルなんだよね。アーチャがライライさんについてそうだと聞いたのは、うちのパッデが拉致された事件の後だったみたいです。


 セスだとあんまり気にしないんだって。

 ただ、一応エルフのネットワーク的なのから完全に脱しているわけじゃなくて、若いエルフとして数度、親に連れられて社交らしきものに出席したことがあるみたい。

 僕と会うちょっと前にそういう社交でライライさんと同席したらしい・・・んだけど、アーチャはほぼ忘れてたみたいです。


 ちなみにラックルボウさんのお話でエルフ最年少2人って言ってるけど、片親がエルフで2分の1以上の血でもエルフ、ってのは、もっといるんだって。

 純血云々言いたがるのは、上流家庭、言ってみればお金持ちの商人とか評議員ぐらい、だそうです。

 アーチャの両親だって、ある意味有名人どうしなんだけど、セスはそういう階級の人からは下に見られる上に、そもそもエルフだからって結婚したわけじゃなくて、好きになった人がたまたまエルフだった、ってだけだから、純血とか言われても、だそうです。


 「アーチャ君はあんまり興味ないみたいだけど、あっちは違うみたいだったんだよね。親や親戚からも推薦されたってのもあるけど、けっこうあのお嬢様、君に夢中で、勝手に婚約者だ、まで思ってたみたいよ。セスの王子様と結婚する、みたいな?けどね、ほらあなた冒険者になったでしょ?彼女ショックだったみたいね。王子様のすることじゃない。荒くれ者の底辺の人間になっちゃった、って感じでね。そんな中颯爽と現れたのが異国の王子様。自分の侍女にして幼なじみを身を挺して助けた幼いながらもとてもきれいな天使様。まあはじめはどこかの貴族だろうって話だったけど、子供達を救った功績かなんかで、本物の王子様になったみたいだし?てか、実は王太子の隠し子おっと御落胤って言うの?そうなんでしょ?まぁ、セスの王子様から乗り換えるのにふさわしい、ってわけ。」


 えっと・・・なんですか、そのストーリー・・・???


 僕らが困惑していたら、気まずそうに鼻の下をかきながらハンスさんが言ったよ。


 「まぁ、なんだ。あのお嬢様の話はさておいて、今ボウが言ったのは、芝居の話だ。なんつうか、あれがダー・・・様?の話ってのは、知らなかったが・・・」

 「?」

 そういや、ザドヴァの話が舞台になってる、って言ってたっけ?


 「いやいやいやいや、違うよ~。僕、王太子のご落胤とかないし・・・。父・・・生物学上の父ってのも知ってるし、母はママだもん。あのザドヴァの話がどう脚色されてるのか知らないけど、全然っ違うからね?」

 「・・・そう、なのか?」

 「そう!だから今までどおり、見習い冒険者のダーでお願い。」

 「その・・・なんだ。やっぱりダーはダーで王子様とかじゃ、ない?」


 ・・・・・


 嘘は・・・・やだなぁ・・・・


 「この国では、冒険者の身分、だよ。えっと、外国人だけど、セスには身内扱いしてもらうほどよくしてもらってる、かな?」

 「この国では?」

 ハンスさん、聞き逃さないね、やっぱり。


 「ハハハ。えっとね、うちの国の王族の人たちって優しいんだ。僕、こんな髪でしょ?魔力も多いみたいで。いろいろ狙われちゃうっていうか。ザドヴァの話もそうなんだけどね。この国でもライライさんみたいな偉いおうちの人からも目をつけられたり、とか。平民だと対処が大変だし、貴族だったとしても上位の貴族とかから囲われちゃうっていうか、さ。それを避けるのに王族の身分をくれたんだ。名前だけの王族で、無理矢理誰かの物にされるのを防ぐため、っていうか、さ。だからその・・・僕を王子とか、そんな目で見ないでくれると・・・うれしい・・・」


 グスン。

 言いながらなぜか涙が出てきちゃった。

 だってさ、言いながらむちゃくちゃな理屈だな、って自分でもちょっと思っちゃったんだもん。なんだかんだ言い訳したって僕はこの世界でも有数のでっかい国の国王の孫って身分で・・・

 それを冒険者って扱ってね、って、相手からしたら「無理ですぅ。」って逃げたって不思議じゃない。

 領地の人とか、仲良しギルドのみんなとかが、変わらず接してくれるから、こんなことをいつも普通に言って受け入れてもらってるけど。

 そんな風に思っちゃったら、言葉もだんだん小さくなっちゃって・・・・


 「ああもう!」

 ガシガシガシガシ


 ハンスさんが僕の頭を乱暴にガシガシ撫でたよ。

 その乱暴さも、そしてびっくりして見上げたときに僕の目に飛び込んできたハンスさんの困ったような怒ったようなそれでいて泣きそうな顔が・・・

 (まるでゴーダンみたいだ)

 僕は心の中でそっと思う。

 顔も年齢も違うけど、なんだかゴーダンを困らせた時みたいで、なんか不思議と心の中がポッてなったんだ。


 「あのな。おまえさんは宵の明星の見習いで、それ以下でもそれ以上でもないんだろうが。こんな馬鹿なやつらしかいないところで小難しいことを言われても分からないぞ。おまえは見習いのダー。俺たち森の咆哮の命の恩人の同業者ってやつだ。だいたいこの国には王族もへったくれもない。人類皆平等。ランクなんて冒険者ランクぐらいしか関係ねぇって。な?」

 だから泣くな。

 口の中でそうつぶやいたのを見た・・・気がした。


 「はぁ。まったく。そんなの当たり前じゃない。いい?あんたは見習いのダー。あんなお嬢に取られていい人材じゃない。って、まだダーは小さい子供でしょうが?まぁ、あと10年もしたら立派になるだろうし、そのときになって相思相愛なら私と結ばれるのもありっちゃありだけど?あんな節操のないお嬢様にくれてやるつもりはないんだからね。だいたい今の時点でダー君に色目使うなんて犯罪よ犯罪!私たちが守ってあげるから、なんか言われたら私たちを頼りなさいね。冒険者として助けてあ・げ・る。」


 ラックルボウさんの言葉に、他のメンバーの人もうんうんうなずいてるよ。

 アハハ。

 まぁセグレが「犯罪ってそのまんま自分にブーメランじゃん」なんて小さくつぶやいてたのを聞き逃すラックルボウさんじゃないみたいで、杖でボカスカ殴られてるのはご愛敬、だけどね。


 なんていうか・・・


 冒険者。

 やっぱり好きだな、僕・・・

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