第210話 戦いの跡地
クッデというのは、冒険者の町って言っても良いかもしれません。
もともと、村っていうのも難しいぐらい小さな集落で、ナスカッテ国の北の砦、魔物に対してのね、だったんだって。
北からの脅威に備えて人類の版図を確保するために作られた集落が大きくなった場所、なんだ。
今では、一応ここで生まれて一生を過ごす人もいる。
けど、あくまで最前線で、その前線を冒険者に任せているそんな土地だから、ずっと住む人よりも、仮住まいの冒険者の方が多いんです。
てことで、村の規模に対して、冒険者の宿って充実してるんだ。
冒険者で成り立ってるってことも理由だけど、ここで稼げる冒険者ってある程度の腕がなければ難しい。新人がやってけるほど易しくない場所なんだ。
てことで、そこそこ腕の立つ冒険者がやってくるから、田舎にしては宿が充実しているらしいです。
宿に泊まれない人用にテントを張れる場所もたくさんあるから、お金のない低ランクの冒険者はそういう形で寝泊まりするのも多いらしいけど。
ただ、テントは今の時期は無理だね。
今みたいに寒い時期はテントだと凍死しちゃうかも。
それに、魔物もあんまり活発じゃないらしくて、活動しているのは強いのが多いから、低ランクじゃ太刀打ちできないんだそうです。
暖かくなったらテントの花が咲く、らしい・・・
てことで、数は多くないけど質は高いと噂の宿の1つに僕たちはチェックインしたよ。
あのね、以前来たときはこんな立派な宿は実はなかったんです。
高ランクの人が多いとはいえ、そこまで充実してなかったんだって。
でもね、ちょうどその頃、ここクッデの魔物との境界線っていうのかな、北側の森の前線をさらに北へ押し上げようって動きが強くなったんだって。
もともと、そうした方が良いっていう派閥と、前線維持でせいぜいだし、北に広げて魔物の反撃が大きくなったら大変だ、と、現状維持派が対立していたらしいんだ。
ただ、以前来たときに僕らがちょうど対峙した魔物がね、黒いタールの魔物だったの。
タールの魔物は、セスの守る樹海奥でしか生まれない、それがナスカッテ国の常識だったんだって。
評議員レベルでは知っていても、セス以外でタールの魔物を知る人はいない、それほどの珍しい、そして脅威度の高い魔物、として、偉い人の間では認知されていたんだって。
それが、魔物の領域とはいえ、樹海以外に現れた。
しかもそんなに深くない領域で。
そもそもが、樹海の深いところに出るといわれていたタールの魔物が、樹海でも浅い場所に出るようになってきてて、問題視されていたそうです。
が、まさかの樹海以外に現れた。
これに脅威を抱いた評議員議会は、クッデの北の領域を開拓することにしたんだって。
開拓して森がなくなれば、周りの魔素はちょっぴり薄くなる。
魔物が出る森は魔素が濃いっていうのはこの国では常識で、人が切り開くとそれが薄くなるのもよく知られていること、なんだって。
ただし、切り開く途中には魔物が飛び出てくるし、切り開いたお隣は強い魔物が直で現れる。基本的には人の住まいの近くには弱い魔物、森の奥ほど強い魔物ってなってるらしいです。
それが森が開かれたら、弱い魔物の住処がなくなって、直、強い魔物の住処とお隣になる、よって危険は増す、ってことみたいだね。
それを分かった上でこの国の偉い人たちは、高ランクの冒険者を集めるために衣食住を充実させるって手に出た模様です。
この数年で、高級宿に高級レストラン、僕にはまだ関係ないけど娼館とかギャンブル場とか、続々誘致していて、しかも首都トゼのそれらよりリーズナブルなんだって。
そんなお話しを、案内役の「森の咆哮」の面々に聞きながら、町に発展途中のクッデの村を歩き、おすすめの最高宿(ちなみに森の咆哮はまだ入ったことはないんだって)を案内してもらったんだ。
一度荷物を置いた後、森の咆哮の人たちに以前討伐したタールの魔物がいたところに案内してくれたよ。
これは、エアがグレンに、自慢したことが原因なんだけどね。
僕がホーリーでやっつけたタールの魔物。
そこはいつものように白っぽくなったんだけど、エアが森を復活させたんだよね。あのときは黒いタールの魔物からとれた黒い魔石があって、それを使ったんだ。
ドク曰く、瘴気って僕が言ってるのも悪いだけじゃなくて、それはそれで必要な魔力で、偏ることが悪いんだって。僕の使うホーリーだって無害なようで無害じゃない。瘴気と対をなすようにいろんな魔力を消しちゃう魔力じゃないかって。それが証拠に白い大地で魔法はほぼ使えないんだ。まぁ、黒い魔力との相殺以外で白い大地はできないんだけどね。
セスの人たちとやった実験で、ホーリーっていろんな魔法を打ち消すことが分かったんだ。他の魔法同士でも相殺とかはできるんだけど、ホーリーはなんかちょっと違って飲み込んじゃうように消す、なんて言ってた人もいたっけ?
とはいえ、まだよく分かってません。
そんなことを考えつつ、タールの魔物を倒した場所に来たよ。
倒したときは、森の中だった。
僕の足が遅いからって、おんぶされて移動したっけ?
今は、そこはもう森じゃなくて、公園みたいになっていたんだ。
エアが取り戻した緑を残す形で、そこだけちょっとした木と草が生えていたよ。
で、そのまわりにはベンチがあったり、屋台もあった。
小さな町の広場兼公園になっていたんだ。
「ここで何が起こったかは聞かないけどね、ダーたちが何か秘密の魔法を使って僕らを助けてくれたんだよな。それを忘れないように、復活した森をここだけは残そうってギルマスが言って、こうなったんだ。あのとき助けられた俺たちは、ダーたちのことを一生感謝するよ。」
ハンスさん=森の咆哮のリーダーが言ったよ。
「あの評議員ちの娘だけどさ、そのダーのことを王子って・・・」
ゴチン!
会った当時はぺーぺーで伝言役だったセグレがそんなことを言いかけた。ずっと聞くタイミングを計ってるんだろうなってのは思ってたんだけどね。
けど、全部言わさず、ラックルボウさんがセグレにげんこつを落としたよ。
セグレよりも小さな身体でジャンピングげんこつ。なかなかにすばやくて、びっくりして目をしばしばしちゃった。
「あのねぇ。ダー君はダー君。冒険者見習いだけどそんじょそこらの冒険者よりわっぽど頼りになる冒険者よ。私にとっちゃ命の恩人で颯爽と現れたヒーローのような王子様だけど、あんなあばずれに王子呼ばわりされるいわれはないわけ。いい。彼はダー。冒険者で将来は絶世の美男子になることが約束された全人類の王子様。決してどこかの国の王子様で、ご令嬢が玉の輿を狙う相手なんかじゃない!いい?分かった?」
そんな風にセグレにまくし立てるラックルボウさん。
はっきり言って、何言ってるかわかんないけど、ライライさんの言ったことをごまかしてくれてる、でいい、のかな?ハハハ・・・
「ダー君。あなたがどこの誰か、なんて、関係ないからね。私の恩人の冒険者、それですべてだからね。でもまあ、私だけの王子様になりたいって言うんならOKよ。あのライライって子じゃないけど、私もエルフだしさ。私より大きくなったら考えておいてね。」
うふって言ってウィンクされたけど、本気、じゃないよね。
子供をからかっている、だけだと思うんだ・・・・
はぁ。
この国はドワーフとかエルフとか、僕らに比べて寿命が長い人が多い。
年の差なんて考えない人も多いみたいです。
でもまぁ、ラックルボウさんは冗談だろうけど。
僕が後ずさったのを見て、「おい!」って怖い顔でハンスさんが怒ったら、舌を出してたからね。
ちなみに・・・
「彼女、僕よりずっと年上だと思う。」
そう僕の耳に御年70オーバーのアーチャがささやいたことにびっくりしたのは内緒です。
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