第209話 ギルマスのうちにて
ライライさん、信じられないって顔をしています。
でも、正直僕だってライライさんの言ってること、信じられないです。
アーチャとライライさんが、無言で対峙していて、その様子をギルドにいるみんなが固唾をのんで見守ってる感じ。あとは、チラチラと僕を見ている、かな?「王子」なんて呼ばれているのを見て、何か問いたげな人がチラホラ。と言っても、そもそも僕がここを訪れたのはもうずいぶん前だし、面識のない人の方が多いから、そういう目をしているのは、前回来たときにお話しをしたことがあるような人たちだけだけどね。
しばらく、微妙な緊張感が流れたあと、はぁっーって、でっかいため息がこれ見よがしにギルドに響いたんだ。
発信源はギルマス、だった。
「もういい。アーチャ、ダーはうちへ行ってろ。ある程度グラノフから聞いて協力するように言われている。それと、パリミウマムのお嬢さんは、いったん引いてくれないか。ダーとよしみを作ろうという腹だろうが、今のままだと逆効果だ。それと、てめえら、いつまでもサボってないで仕事だ仕事。クエストの1つでもこなしやがれ!さ、とっとと解散だ!」
最後にはギルドでだべっていた人たちにまで、とばっちりがいったみたいです。
僕らは、ギルマスの娘で受付嬢のマーシーさんに促されて、「うち」こと、ギルド裏のギルマスの家に向かったんだ。
そのとき、何か言おうとしていたライライさんが見えたけど、マーシーさんの圧力に僕らはギルドから追いやられちゃったよ。
で、しばしの後。
ギルマスの家のリビングでお茶をごちそうになっていたんだ。
そのお茶がほぼほぼなくなった頃、ギルマスがやってきたよ。
「たく、あんな箱入り娘に絡む必要は無かっただろうが。」
ドン、って勢いつけて椅子に座ったギルマスの第一声は、そんな感じだった。
ギロリ、って音がするみたいに睨まれちゃったよ。
でも、確かになぁ・・・・
「ごめんなさい。」
僕は、しゅんってなって言ったよ。ほんと、なんであんな風に絡んじゃったんだろう。自分でも不思議です。
「前々から彼女については、気に入らなかったんですよ。それが一線を越えたから、これ以上はない、と言うことで。」
僕と違ってアーチャはしれっとそんな風に言ったよ。
前々から?
僕は苦手意識はあったけど、アーチャ、そんなに知らないよね?
僕がそんなことを聞いたら、学校での従者組=バンミとバフマからいろいろ聞かされていたんだって。
僕狙いでの留学って話も従者組では有名で、むしろそういうことだから僕にそれぞれの主が近寄らないように気を配ってほしい、みたいなことを言われていたようです。僕にはそんな話はきてなかったんだけどね。
僕の年齢と、姉様が僕にべったりなことで、僕と友人って言えるようなクラスメートはできないのかな、なんてちょっぴり思っていたんだけどね。それに欠席も多いし、しかも我が国や他国のエリートの子たちだから、苦手意識もあったし、こちらから接触、はしてこなかったんだよなぁ。まさかのライライさんのせいも少しはあって、友達、できなかったのかなぁ・・・
「一線、な・・・」
ギルマスがうーってうなっちゃった。
僕の場合、そもそも王子になったのが、自国他国問わず望まない強要を防ぐ、ってのが大きいからねぇ。僕の意思に関係のない結婚や養子縁組なんてのは一番の鬼門、て、ちょっと調べれば分かるはずなんだけどね。
実際、目の前のギルマスはそのことを知っているみたいだし・・・
「まぁ、今の感じだと、あのお嬢さんは夢に焦がれるガキンチョで、面倒なことに無駄に権力と行動力を持っていた、ってことだな。が、保護者がそこまでダーのことを知らん、とは、思えんから、その辺は娘の物知らずをも武器として様子見している、ってところか。おまえさんらがほだされたらラッキー、ぐらいのところだろうな。」
「うーん。でもなんで、僕なんかに?そりゃこんな髪だけどさ、ライライさんからしたら僕はずいぶん年下に見える、よねぇ?」
「ダーはかわいいからなぁ。」
アーチャは目を細めるけど、それは身内のひいき目だと思うんだ。そうじゃなくても、僕が年齢より幼い外見の自覚はある。なんていうか、恋愛の対象、っていうのはないと思うんだよね。
「それは、わからなくはないです。」
と、マーシーさん。
「ダー君は王子様でしょ?王子様ってやっぱり女の子の憧れなんですよねぇ。うちの国には王族なんてないから、余計に憧れがあるんですよ。しかもダー君は強くてかわいい。そりゃかわいいより格好良いって方が、って思うけど、彼女はエルフの血が濃いでしょ?人族のダー君ならすぐに見た目も釣り合うようになるし、なんだったらすぐに見た目年齢は超すでしょ?どう考えても格好良く育つだろうダー君に今からつばをつけるのは、大あり、だと思うんですよね。」
・・・何それ?
「ザドヴァからの救出劇は物語になっているしなぁ。」
「え?」
「大分脚色もあって、最初からダーが王子だってことになっているが、ナスカッテの有名な芝居小屋が、ザドヴァからの救出劇を舞台でやっていて人気なんじゃよ。ザドヴァの暗黒魔導師が世界中から子供達をさらっていく。同じようにさらわれた王子アレクが、助けに来た従者とともに暗黒魔導師を退治しして、子供達を救う、っていう、そんな話じゃ。」
「そう。素敵だったわよ。クッデにもその舞台がやってきて、私もお父さんも見たんだから。」
・・・・・
この世界に肖像権とか・・・ないよねぇ。はぁ。
「まぁ、それはともかく、おまえさんたちはミゲル商会と事を構えるのか?」
突然居住まいを正したギルマスに僕とアーチャはお互い目を合わせたよ。
この国では想像以上に大きな商会みたいだ。この国の有力者でもあるギルマスになんてお願いしようか、って、いろいろ相談をしてはきたんだけど。あ、アーチャとだけじゃなくドクとかゴーダンとかとも話し合ったりしてね。
「ミゲル商会に関しては、ついで、というか僕らとは別口でちょっと。あくまで僕らはタクテリアの犯罪者の移送を国から請け負った、という形になります。」
アーチャが言った。
「ほぉ。詳細を聞いても?」
「はい。後でお持ちしますが、タクテリア聖王国から、レッデゼッサ商会の会頭ほか主要者の捕縛、および移送を指名以来で宵の明星が請け負っています。あくまで冒険者としての依頼でして、クッデのギルドにも協力をお願いします。」
本当言うと、現在鋭意そういう依頼書を国に要請中、らしいです。
もらい次第、僕が宙さんの空間を通って取りに行くんだ。鞄経由で物だけでもいいかと思ったんだけど、詳細を会って聞きたいっていうゴーダンのわがままで、僕が取りに行くことになったんだ。
「ふむ。それは依頼の確認をしてからじゃな。・・・で?」
「はい?」
「別口、と言っとったじゃろ。」
「あー・・・・」
さすがにギルマスともなればしっかり聞いてるんだね、って僕とアーチャは目を見合わせて苦笑した。
「人を・・・依頼人をここに呼んでも?」
アーチャの問いにギルマスは一瞬眉をひそめてうなずいたよ。
僕は、それを見て、ギルドに放置していたある人を呼びに行ったんだ。
「魚人族の戦士マウナと申します。」
そう。僕が連れてきたのはマウナさん。
このゴタゴタで、ギルドに放置してたんだけど、静かに待ってくれていたみたいで、申し訳なかったな。
「魚人族?・・・これはまた・・・」
「私は、魚人族の複数の集落を代表して、ギルドにお話しをお持ちしました。まずは、事後承諾になりますが、我らが集落をここのお二人に救われたことに対するお礼を。」
マウナさんの話を聞いて、ギロッて僕らを睨むけど、別に無茶をしたわけじゃなくて成り行きだし・・・
「そして改めて、我らが集落に対する脅威の除去をお願いしたく、依頼に上がりました。」
そうなんだ。
いったんホーリーできれいにした海。
だけど、またきっと黒いタールのかけらを廃棄しに来るのは間違いないだろう、って魚人の人たちは心配していたんだ。
それを行っているのはミゲル商会。
マウナさんがいろいろ証拠とかを確保しているとはいえ、だからって僕らが攻め入るのは問題でしょ?そもそも僕らは外国人だし、そんな権限はない、なんて、ゴーダンはじめとした大人達に言われちゃったんだよね。
けど、冒険者が依頼として受けるなら話は別だ。
冒険者ギルドは国を超越した組織だし、冒険者の依頼は国に縛られない。
まぁ、だからこそ、ある程度依頼の選別とかも重要なんだけどね。
そもそも、マウナさん、ミゲル商会の偉い人を刺しちゃったってことで、犯罪者として追われてても不思議はない。
本当は他の人が依頼に来ることも考えたんだけど、バレなきゃわかんないってことと、バレたらその裁きの場でミゲル商会の悪事をばらしてやる、なんて言ってること、つまりは本人のたっての希望、ってことで魚人の人たちを代表して僕らにくっついてきちゃったんだよね。
「なるほどなぁ。全くおまえらは・・・はぁ、グラノフの身内だけはある。問題しか持ってこんなぁ。」
ギルマスが、疲れた様子で言うけど、失礼だなぁ。
問題を解決しても、持ってきたりはしないよ。・・・してないよね?
「とにかく、すべては依頼書を見てからだ。マウナさんと言ったか、マーシーに言って、依頼書を完成させてくだされ。それとアーチャたちもだ。国からの依頼書とやら、すべてはそれを見てからだ。」
ギルマスはそう言って僕らを追い出したんだ。
僕らは苦笑しつつ、クッデで宿を探すことにしたんだ。
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