第208話 ライライの提案
えっとね、僕の生まれた国はタクテリア聖王国っていう王国です。
王様を筆頭に貴族がいて平民がいる。そんな国。
で、今いるこのライライさんの国は、ナスカッテ国って言うんだけど、建前上は多くの種族がいるけど、その種族間にも、同族間にも上下関係はなく、すべては各種族の代表者が話し合いで決定する国ってことになってるんだ。前世でいう民主主義に近いかな?でも選挙とかじゃなく代表が決まるみたいだけどね。部族みんなの決定って言いつつ、有力者ってのの推薦で評議員と呼ばれる政治家が選ばれて、国を治めるんだ。ちなみにその有力者ってのは評議員してるまたはしてた人がメインだから、世襲制になりがち、なんだって。
何百年もこういう政治形態を行っていたから、実態は上下関係ありまくり、なんだけどね。とくに首都たるトゼで生活しているような人たちは、ね。だから評議員の人の家は、他国=僕らの国とかの貴族と変わんないんだよね、実質は。
ちなみに、部族ごとの集落なんてのになると、割と元の制度が残っているんだって。
村長さんとかは世襲制っぽくなっているけど、権利より義務を大事にする感じ。それが逆転したら村人たちにトップを引きずり下ろされるらしい、です。・・・て、アーチャが言ってた。
特にセスは、個の能力によって、仕事なり立場が決まりがちなので、元々はセスみたいな体制だったんだろうって、以前話してくれたよ。ちなみに、トゼみたいに評議員は偉い、その子供達も偉い、エルフは偉くて獣人はダメ、なんて発想は大っ嫌い、だそうです、セスの民はね。ハハハ・・・
「下々の者の分際?どういう意味かなぁ。この国の良いところは上も下もないってことじゃないの?」
涙目の女の子に追い打ちかけるみたいだけど、僕はさらに言葉を続けたんだ。
「それに、僕は見習いだから立場的にはここにいる誰よりも下、ってことになるんだよね?」
「まっ!何をおっしゃっているんですの?あなたはやんごとなきお方じゃないですか。このような場所にいていい方ではありません。」
「あのさ。言ってるでしょ?僕は冒険者。冒険者ギルドはむしろホームなんだって。あと、後ろ盾はドク、ワージッポ・グラノフで十分だよ。だって、彼はセスの重鎮なんだし。ちなみに、ドクには、君んちと同じ評議員のおじさんがいるよ。」
僕は苦手な人だけどね、っていうのは心の中で付け加えておこう。
「セスですって!あんな野蛮人、アレク王子にはふさわしくありませんわ。」
はぁ。
セスはこの国の英雄、なんだけどなぁ。
冒険者たちは、この国を守っているセスに対して印象が良い。
彼女の発言が、空気を凍らせてることに・・・気づいていないんだろうね。
「悪いけど、セスは僕にとっても大切な人たちだ。ここにいるアーチャだって、セスの人だしね。そのことは知っていたのでしょう?」
さっきそんな話、してたよね?
ライライさんってば、今の僕の言葉で、初めて青くなったみたいです。
アーチャのニコニコ顔、こんなに怖いのって初めて知ったよ・・・・
「お嬢さん、ここはダーのいるべき場所ではあってもお嬢さんのいるべき場所ではないな。ちなみに儂もセスの関係者じゃよ。グラノフ同様、外に出た者ではあるがな。」
ギルマスが、そんな風に口を挟んだ。
一瞬、僕のことを睨んだから、こんなところで口論すんな、って怒っているのかもなぁ、なんて、僕は鼻の頭を掻いたよ。
「なっ。わ、わたくしは、アレク王子のお役に立つべく駆け参じたのです。その、ほら、トゼ沖であなた様が救った商船。その持ち主があなた様に最大限の敬意とお礼を示したいと申しておりますの。ご存じないでしょうが、あなた様がお救いになった船は、この国においてとても力を持つ商会のものなんですのよ。私はアレク王子を商会の会頭に逢わせるべく、ここにはせ参じた次第ですの。これは王子にとっても商会にとっても、またタクテリアとナスカッテ両国にとっても、とっても有意義な面談になりましてよ。」
ライライさんは言いながら、さっきの涙目が嘘のように生き生きしてきたよ。
でもさ・・・・うーん。
「それってミゲル商会のことだよね?」
「さすがはアレク様。その通りです。我が国有数の商会にして、我が家とも懇意にしておりますの。」
「じゃあさ、ミゲル商会の秘術って分かる?」
「秘術、ですか?申し訳ありません。私では分かりかねます。が、おじいさまであれば、きっと知っていると思いますわ。」
「ふうん。そのぐらい
「ええ。」
ライライさん。そのドヤ顔、無意味なんだよなぁ。てかむしろ逆。悪印象重ねちゃってるんだけどね。
僕はライライさんにバレないようにアーチャと目を見合わせて苦笑した。
「あの。幸いにも、その会頭が、この辺境の地へと参っておりますの。是非ともご案内させていただきたく。そして・・・・」
?
何を赤くなってるのだろう?
「そして、その、・・・段取りをしたことをきっと喜んでいただけると思いますが、そのお礼は、その・・・お付き合い、と言いますか・・・国と国のより深い絆のために私たちでその礎をともにつくっていきたい、と言いますか・・・」
「え?」
「あの、以前言ったかもしれませんが、私がタクテリアへの留学を決めたのは、夜空の天使とたたえられたあなた様のお近くで侍りたく・・・」
アハハハハ・・・それは・・・
「無理。」
「はっ?」
「絶対それは無理だから。僕が国のために結婚とか、一番あり得ないから。」
「ですが、王族としての務めが・・・」
「ないない。僕にはその務めがないんだよね。そもそもそういうことを言ってくる人から距離をとるためにもらった身分みたいなかんじだから。だから僕はまともな王族じゃないんだ、って、学校でも何度も言ってたでしょ?兄上達や姉上だって、うんうんって頷いてたじゃない。ライライさんだって、それは見てたでしょ?」
「それは・・・・ですが!」
がぁーんっ顔、ってこういう顔を言うのかもしれない。
ライライさんが、僕に会いたくて留学したって話はいろんなところから聞いていたんだけどさ。
昔、ザドヴァって国で僕を捕らえようと画策されたことがあって、しかも僕だけじゃなくて国内海外問わず、魔力の多そうな子を集めて実験とかしてたんだけど、それを僕らがやっつけたって事件があったんだよね。そのとき捕まってた子達を解放して、還るところがある子たちは返したんだ。その一人がライライさんの知ってる子だったらしくて、僕に興味を持ったみたい。
で、そのあとなんだかんだあって、僕が王子として王太子の養子になり、そのお披露目もあったりしたんだ。
外国から披露パーティーに列席した人もいっぱいいて、その中にライライさんも潜り込んでたみたいです。
この世界、魔法の能力は髪色に現れる。
それもあって、髪を元に美醜の判断がされることも多いんだ。濃い色ほど男女ともに美人さん、ってね。
僕は、他にない夜空のような髪で、褒められることも多い。
髪を見て、心が囚われる、なんていうのは、ある種この世界の人の本能みたいなもんで、だから僕は常に襲われる危険を持っていた、らしいです。
まぁ、幸いなことに、僕は生まれてからずっと、強い保護者たちに囲まれて育てられたから、直接的な危険は・・・・あんまりなかった、かな?とはいえ、この髪のせいで奴隷として0歳にして買われる、なんて人生を送っては来たんだけど。
まぁ、そんな僕の話を仲良しの子から聞いて、憧れて、実際王子としてお披露目された場で、きっと僕はお眼鏡にかなったんだろう。彼女は僕と知り合いになりたくて治世者養成校へと留学を果たした、って言うのを姉様から聞いたことがあったのを、今思い出したよ。
ただねぇ。
僕よりも保護者たち。
僕を権力争いだの、力を手に入れるために強引な手段を使うだの、そういうことには完全に怒っちゃう人たち、なんだよねぇ。
そんなことをさせないために、貴族を捨てた人や断り続けてた人が、わざわざ貴族になっちゃうほどに、ね。
「ライライ女史。ダーを国に利用させるつもりはありませんよ。もちろん他国の令嬢にもね。だけど・・・そうだな。ミゲル商会の会頭の居場所、教えてくれないかな?あ、案内は結構。クッデにいるならこちらから向かうからさ。教えてくれたなら、さっきの話は聞かなかったことにするよ。」
冷たい目をライライさんに向けながら、アーチャがにっこりとそう言ったんだ。
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