第207話 後ろ盾?

 「そういうことですので、ダー様のお世話は、不肖わたくしライライ・パリミウマムが務めさせていただきますわ。」


 ん?


 えっと、そういうことってどういうこと?

 どや顔されてもさっぱりわかんないんだけど?


 こういうときは、・・・ん、無視しようっと。


 てことで。


 「マーシーさん。ギルマスいますか?」

 一応、いろいろと情報を集めるにしても、ある程度内緒にしつつ探さなきゃね。

 どこから手をつけるかって、この前、ドクと打ち合わせしてるときに、

 「ヤーヤンを使ったらええじゃろ。」

 なぁんて言われたんだ。ちなみに長距離遠話、ドクとはちょくちょくしてます。

 ちなみにヤーヤンってのは、ここクッデのギルマスです。ドクとは昔なじみです。


 「え、ええ。・・・けど・・・」

 チラチラとライライさんを見ながらマーシーさんは困った様子。

 困らせたいわけじゃないけど、僕もライライさんと遊んであげられるほど暇じゃないもん。


 「おほほほ。ダー様。お話しなら私が伺いますわ。あいにくとこのようなところにダー様とお話しできるほどのお方は、いらっしゃらないかと・・・」

 あれれ?

 それはどういう意味ですか?

 外国人の僕の言葉が通じてないってこと?

 この世界、国は違っても、言葉は共通語、だよねぇ?


 とか思いつつ、今僕口開いたら、ライライさんにとんでもないこと言いそうなので、聞こえないふり聞こえないふり。

 こういうのってちょっとは貴族らしい?

 ふぅ。自慢にもならないや。


 「奥かな?入っていいですか?えっと、ドクからも伝言あるんだ。」

 「あ、えっと、グラノフ様からですか?あの、はい。父は家の方に・・・」

 「あ、そう。じゃあ行ってくるね。」


 ちなみにギルドとギルマスの家は接してる。ていうか裏にあるから、裏口からお邪魔しようっと・・・


 「ちょっとお待ちください、アレク王子!」


 無視しすぎたのか、ライライさんが叫ぶように言ったよ。

 あちゃー。

 アレク王子って叫んじゃった。

 様子をうかがっていた冒険者たち、ざわざわしちゃったじゃない。

 僕が王子って知っている人は、この国じゃ多くない。

 そもそも、以前ここに来たときは王子じゃなかったし・・・


 森の咆哮の面々ですら、ちょっとおっかなびっくりで僕を見てるよ。


 「ライライ様、彼はダーです。見習い冒険者、宵の明星のダー。そういう冗談はやめていただきたい。」

 アーチャが言った。

 結構きつい感じで言ったから、ライライさんはちょっとおびえ顔です。


 「でも・・・」

 「でもも何もない。以前うちの子と知り合いだったようですが、もう卒業されたのでしょう。だったら無関係の人間だ。変に絡まないでもらいたい。」


 あぁあ。

 アーチャ激おこモードです。


 アーチャって優しいしおちゃめさんだけど、なんていうか、空気読めない系の人、嫌いだよね。我が我が、ってタイプ、特に嫌いみたい。


 「お言葉ですが、アレ・・・ダー様がどう名乗ろうと、お立場は替わりませんわ。それに、私が無関係ですって?あの学校では友誼を結び、ともに手を携えていく人脈の形成も重要な任務のはず。でしたら、この私が、後ろ盾のない外国での後見になるは必定。学友であり、年長のこの国の重鎮であるわたくしの使命ですわ。」


 「ライライ嬢、それはちと早計ですな。」


 反論しようとしたアーチャが口を開くよりも先に、奥からそんな声がしたよ。


 あ、ギルマスだ。お久しぶりです。


 どうやら、冒険者の誰かが裏まで走って、ギルマスに状況を進言したみたいです。

 このギルド、こじんまりしているだけあって、なんていうか、みんな家族みたい。困ったことがあったら、すぐにギルマスの家に押しかけちゃうんだよね。これも人徳、なのかな?


 ギルマスは、ライライさんに向かって、にこやかに・・・見えるけど、目が笑ってないな。ハハハ。まぁ、そんな風に声をかけたんだ。


 「あなたは?」


 口を挟まれてムッとしました、って顔で振り返ったライライさんは、そんな風に言ったよ。

 って、ギルマスのこと知らないんだ。

 ここで受付嬢としゃべってたみたいだから、てっきり知り合いだと思ったけど・・・


 「これはこれは。私はここでギルドマスターをしておるヤーヤンと申す者。いやはや、長年この職にあるがまだまだですなぁ。議員のご令嬢にも知られてないのですからなぁ。ハハハハ。」


 うわぁ。

 ギルマスってば、こんな人だったっけ?

 なんかドクと、子供みたいな言い合いしていたイメージだったんだけど・・・


 ちなみにクッデは辺境だけど、国にとっては国防上重要な地です。

 言ってみれば魔物との最前線。

 セスのいる樹海ほどじゃないけど、危険で大切な人間の版図、なんだよね。

 で、冒険者ギルドは、この地ではその国防を担っているって言ってもいい。

 そりゃ騎士とかもいるにはいるけど、実質この地を守っているのは冒険者達だ。

 で、そのボスであるギルマスって言えば、国でも重鎮のはず。

 田舎者って馬鹿にする都会の人も多いけど、実際重要な人であるのは間違いないし、有力者たちは何らかの形で知己を得ている。

 この国の治世者なら知ってて当然の人、って感じ、かな?


 それを、顔も認識していないって、上流階級のご令嬢が何を言ってるんだろうねぇ、って暗に言ってる、て感じかな?

 はぁ。こんなこと分かるために学校に行ってます。やだなぁ。



 「えっと。・・・それは失礼。あいにくと勉強を始めたばかりの身。失礼をお許しください。」

 「そんなかしこまらんでいい。ここは冒険者ギルドじゃ。丁寧な言葉なんぞ似合わんよ。」

 「!そうは参りません。ここにおられるお方は・・・」

 「そいつはなじみの冒険者じゃのぉ。まだ見習いじゃったか?いつまで見習いやってるんだかな、ハハハハ。」

 「ひどいなぁ。そんなこと言うならライセンスちょうだいよ。」

 「わしの身長を抜いたら考えてやるかのう。」


 ちなみにギルマス。ドワーフの血が濃いようで、身長はかなり低いです。

 背は高くないアーチャと比べても頭1つどころか、胸ぐらいまでしかないもんね。

 10歳なら、どっこいどっこいか、抜いている子も多いはず。

 僕は・・・

 はぁ。


 「ちょっ、お父さん。ダー君に謝って!」

 マーシーさんが言ってくれるけど、その慌てた優しさが、逆に胸に来るよ。グスン。

 それに知ってるんだ。

 いくら身長がギルマスより高くなっても、見習いのまま。

 成人しないとライセンス、もらえないんだよなぁ。

 って、まさか成人してもギルマスよりチビだ、なんてこと・・・ない・・・よね?


 「無視しないでください!とにかく、ダー様はこの国で後ろ盾が必要だと思いますわ。ですから、私、そしてパリミウマム家がこの任を担って差し上げようと、急ぎここを訪れたんです。」


 なんだって?


 なんでこんなところに現れたのかって思ったら、僕の後見?

 意味わかんないんだけど・・・

 思わずアーチャを見るけど、彼も首を横に振ってるよ。


 これって、彼女の暴走?家も関わってる?

 ほんと、そういうの迷惑なんだけどなぁ・・・


 それにねぇ、

 「僕の師匠は、ワージッポ・グラノフなんだけど?」


 あれ?

 ライライさん、?が飛んでる?

 だから?って言いたそうな顔をしています。


 「博士がダー様のお身内なのは存じてますわ。だからってなんなんですの?」


 ライライさんの言葉に、野次馬達もざわざわしたよ。


 ワージッポ・グラノフ。

 そもそもがセスの変わり者、なんて言われてた人だよ?

 外に出たから後ろ指をさす人もいるみたいだし、ドクもそれを気取っている。

 けど、その実績はセスにとってもでっかくて、一部にはううん多くの人に英雄視されているんだ。

 そもそもがセスの重鎮。本人は否定してるけど、その影響力は、特に中枢部にはすさまじい。

 だからこその、僕らとセスの関係ってのもあるんだよね。

 内緒だけど、僕はセスに新たなるセスとして受け入れられている。

 セスが後見だ、なんて表だっては言えないけどね。


 ただドクが僕の親がわりの一人だってのは、みんな知ってるよね。

 でっかい後ろ盾でもあるんですが・・・


 「お嬢さんさぁ、ワージッポ・グラノフがわかんないなら、もう一度お得意のお勉強でもやり直したら?」


 誰かが、野次るように言ったよ。


 「な・な・な・・・下々の者の分際でこのわたくしに、なんて言い草!お覚悟はあるんですわよね?」


 顔を真っ赤にして言ってるよ。


 でもね?

 「ライライさん?この国って皆が平等って建前なんでしょ?なのに下々ってなんですか?僕にはさっきの人の言い分の方が納得いくよ?」


 僕の言葉に、ライライさん・・・あー、泣き出しちゃった。

 どうしよう。

 

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