第206話 ライライ・パリミウマム

 「ちょっと道を空けていただけないかしら。」

 人を押しのけるようにやってきたライライ・パリミウマム。

 普段からちょっぴり人を押しのけるような人だなぁ、とは思っていたんだけどね。

 いつも学校じゃ姉様がブロックしてくれてた感じ。

 でも何でこの人がこんなところに?


 「ダー様とこうして卒業後も会えるなんて、もう運命としか考えられませんわね。」

 オホホ、って感じで笑うライライさん。

 いやいや、絶対狙ってここに来たんだよね。

 だって、僕を見て驚いてないもん。

 むしろ、ここに来るのを知ってたって感じ?


 ていうか、卒業したんだ。


 ちなみに養成所は入学時期は一応決まっているけど、卒業は自由。

 僕はもともと仕事で潜入捜査?って感じで入っただけだから、事件が終わったら行かない予定だったんだけど、なんだかんだで、まだ席は残っているようです。

 あんまり通ってないから席は外してあげません、卒業資格はありません、なぁんて、プジョー兄様が言ってたけど、卒業に日数とか関係ないんだけどなぁ・・・


 「ライライ嬢はどうしてここに?」

 卒業したんなら関係ないんだけどなぁなんて思いつつ。

 だって、ライライさんはちょっぴり苦手なんだよね。

 とはいえ、知り合いの女の子、無碍にできないしなぁ。

 けど、正直邪魔です。

 僕は、ニコニコしながら再会を喜んでくれてるみたいな「森の咆哮」のみんなとかと話したいんです。


 「それはダー様との運命が。ポッ。」


 ポッて、口で言っちゃった。

 こんなキャラだったっけ?

 なんかいつも必死に話に割って入ってくるイメージで、怖い感じだったんだけど、なんていうか、ちょっとポンコツ?

 でも強引なのと、絡みづらいのは一緒だから、姉様がいないと面倒だな。

 ・・・ていうのが顔に出ていたようです。


 「ダー。女の子にそんないやそうな顔はさすがに無いかな?で、どなただい?」

 アーチャが苦笑しながら、僕の側に来てくれたよ。

 今まで、誰かと話をしていたみたいだったけど、あ、あれはハンスさんだ。えっと、森の咆哮のリーダーさん?


 「あ、えっと、この人、じゃないや、この方は、ライライ・パリミウマム嬢。養成所でご一緒した・・・」

 「パリミウマム?なるほど。確か、パッデが世話になったよね?」

 「まぁ、そうだけど・・・」

 「だったらその態度はないかな?・・・てことで。初めまして、ライライ様。私はダーのパーティメンバーのアーチャと言います。パリミウマム家のご令嬢とは知らず、失礼しました。」

 アーチャってば優雅に貴族の礼をしたよ。

 まぁ、うちのメンバーは全員貴族の作法はたたき込まれた感もあるからね。てか、アーチャだって、セスの御曹司っちゃあ御曹司だもん。エルフ系の子供って本当に少ないからって、大事にされたみたいだしね。って言っても70歳オーバー。うんまだまだ子供です。

 だってさ・・・


 「あ、マーシーさんだ。お久しぶりです!」


 こっちを不安そうに見ている女の子。

 どう見ても、なんだけどね。

 このクッデのギルドの受付嬢ににしてギルマスの娘さん。

 ライライよりも3つ4つ下に見える。

 けど、彼女は100歳オーバー、のはず。


 はは。

 ナスカッテ国に来ると、見た目と年齢のギャップがありすぎて、なかなかに面白いです。

 えっと、確かライライさんは初めて会ったときに14歳、って言ってたっけ?

 エルフで、評議員の娘で、この年っていうのは、他にいないらしい。

 で、特に上流階級の人たちには有名で、ていうか、国宝級に扱われているんだって。エルフの子供は貴重なんです。


 エルフ種っていうのは、だいたい18-25歳ぐらいまでは人種と同じような成長をするんだそうです。

 そこからはほとんど年をとらない。

 アーチャも、初めて会ったときは、ラッセイと同じくらいに見えたんだけどね、ラッセイは人種としては若見えだけど、アーチャよりちょっとだけ年上に見えるようになった、かな?


 てことで、ライライさんはとっても奔放に育った、らしく、我が国に来て、初めて思い通りにならないことが増えた、とか。これは養成所に従者役でついてきてたバンミ&バフマからの情報です。情報ソースは、ライライさんの従者たちです。ハハハ。


 そんなライライさんだけど、養成所を卒業してナスカッテ国に帰国したんだよね?

 で、なぜかここにいる。

 確か、僕が最後に学校に行った時は姿があった、と思うんだよね。

 ガイガムが捕まったあたりだったっけ?

 姉様が女子会みたいなことしたときに、参加してたんじゃなかったかな?はっきりとした記憶にないけど。


 はっきり言ってクッデは田舎です。

 ライライさんみたいな超お嬢様の来るところじゃありません。

 だって、他国の治世者養成校に留学するぐらいだもん、まぁ、そういう立場ってことでしょ?


 「アーチャ様?セスのアーチャ様、ですよね?噂はかねがね伺っていますわ。」

 ほら。

 オホホな感じで、アーチャにそんなこと言ってるもん。

 前にチラッと聞いたけど、セスの中でアーチャは数少ない子供として、しかも有名人同士の子供としてそこそこ有名だって。で、セスっていうのはこの国では特殊な立場。だから評議員とかそういう家の人なら、アーチャを知ってて当たり前。

 なんだったら、結婚相手として自家に取り込みたい対象として、ってことのようで・・・

 ライライならば、当然、その候補としてアーチャを狙っててもおかしくないレベルなんだよね。年の差50歳。余裕で年が近い扱い・・・だって聞いたよ。

 アーチャもその辺りは当然知っているんだけどね。

 養成所の同級生に関しては、パーティでも情報共有しているし。


 なんて思って見てると・・・

 ほら、セスのこと、根掘り葉掘り聞き出した。


 僕はその場はアーチャに任せて、マーシーさんのところへ向かったんだ。



 「マーシーさん。僕のこと覚えていますか?」

 「忘れるわけないじゃないですか。けど、・・・」

 チラッて、ライライの方を見る。

 いいんですか?って感じの視線です。

 

 本人は僕も気になるけどアーチャの話すセスの話も気になるって感じかな?

 で、ギルドにいた冒険者たち、むちゃくちゃ耳をそばだててるよ。


 「ああ。ていうか、なんであの人がここに?」

 「なんていうか、パリミウマム家はタウロスさんと仲良し、と言いますか・・・」

 もごもごと口の中で濁すマーシーさん。

 タウロスさん?

 どこかで聞いた名だけど・・・

 僕の?な表情から察したのか、

 「トゼのギルマスです。知りませんか?」

 あー、トゼのギルマスですかぁ。

 あんまり印象、良くなかったな。

 そっかぁ。

 まさかのパリミウマム家と・・・・

 まぁ、あるよね。


 僕は思わず苦笑したよ。


 「あの。ダー君は、やんごとなき方、・・・ですか?」

 「?何それ?」

 「ライライ様は、やんごとなき方がクッデに向かわれたとタウロスさんから聞いて、早船を出した、と・・・」

 「え?・・・いや、違うでしょ?そもそも僕、トゼには入ってないよ?」

 「トゼ沖で船を助けました?」

 「トゼ沖?あぁ・・・・えっと、そうなるのかな?」

 「船に乗っていた冒険者の報告で、やんごとなき方に救われたらしい、と。」

 「・・・・ハハハ・・・。あー。」


 確かミモザの冒険者もいたみたいだし、僕のこと知ってる、か・・・

 ライライさんにとっちゃ、僕はアレク王子。て、やんごとなき方ってやつになるのかなぁ?今は冒険者ダーとして、ここにいるんだけど・・・


 マーシーさんの、物問いたげな瞳を避けながら、僕は苦笑いと、ため息をつくしかなかったんだ。

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