第204話 祭り
ホーリー
初めての海の中でのホーリーは、息を詰めるぐらいきれいでした・・・
ホーリー
広がる白い領域。
それは海の中でも変わらなくて、
当然に黒い瘴気をむしばんでいく。
ただ、目、というよりは魔法を感じる目、なんだろうか。
僕の感覚に移るのは、たゆたう白い光のもやで・・・
仰ぐ水面に、そして僕を囲む水中に輝く光の粒を内包するそれは、今までにないほど幻想的。
そして・・・
黒を包み押しつぶし、光の粒となって白い海にキラキラと輝く元瘴気の気体はスーと白に溶け込むように四方八方に広がっていく。
白いホーリーの空間は、ゆっくりと海の中に溶け込んで、徐々に暗い海へと戻っていく。
残されたのは、まるで雪。
そういや前世でも、マリンスノーって現象があるって聞いた覚えがあります。
真っ黒な海中に降る白い雪は命の名残だったっけ?
今、僕の前の雪は、ただ降るだけじゃなくて、上に向かって上っていく。
降るのと上るのが交差して、なんか挨拶してるみたい。
どうやらこの辺りの海は黒い瘴気の元=タールの魔物の一部で相当汚されていたかのようで、海が汚れているというのは海水だけじゃなく、動物も植物も土や岩に至るまで浸食されていたみたいです。
黒い瘴気にホーリーをぶつけると、さらさらと白い魔力が全くない物質に変わっちゃうってのは、陸でも海でも一緒みたいで・・・
きれいだ、って見ていると、岩が砂になってほろほろと溶けていく。
砂だってそうだ。
でもこれって・・・
きれいだ、ではすまなかったみたいで・・・
岩礁が複雑に絡んでいた海の底が、いつのまにか整地したようにほどけていったんだ。
それに気づいた僕は、慌ててアーチャに呼びかけたよ。海が変わった!って念話でね。
すぐに僕らをここに連れてきてくれた船からアーチャとマウナさん、それにデデさんっていう男の人がやってきた。あ、デデさんはマウナさん達戦士のリーダーみたいなおじさんです。ちょっとゴーダン似の人魚=魚の獣人さん。
「これは・・・壮観ですな。ハハハハハ!」
なぜか大笑いするデデさん。
それからデデさんは周りを見て、うん、と一人頷いて、さっさと戻っていったよ。はて?
そんなデデさんにマウナさんはあきれた目を向けながらも、
「ダー様、ありがとうございます。こんなに海をきれいにしてもらって。もう、こんな美しい海が戻るって思ってなかったです。ウウウウ・・・」
って、こっちは泣き出しちゃった。
二人とも、地形が変わったことは・・・なんか全く気にしていないようです。
気にしていないどころか、集落に戻ったら、むしろ感謝されました。
なんか、ホーリーのために地面とか岸がまろやかになめらかになった結果、そこそこの大きな船でも係留できるようになったっぽいです。
デデさんが慌ててチェックして、わざわざうちの船を呼びに行ってくれてるんだって。
ここらの島々は、島サイズから岩とも言えないサイズまで大小様々ある感じです。
この島々の中でも大きめの物に、魚の獣人さん達が部族ごととかで住んでたりするらしい。その中でも最大の部族がこの部族なんだけどね。
部族に名前はないそうで、どっちかっていうとファミリーに近い感じ。仕方なく?名称は、ここなら南島の島のもん、みたいな言い方をします。
で、僕がホーリーを放ったのは、もともと「南西の」なんて言われていた人たちが住んでいた集落が近いんだって。
この「南西の」集落のもんって人たちは、海の汚れで多くの仲間を失い、島を移ったそう。その際にこの集落に来た人もいて、今は南島の島のもんになってる人たちもいるそうです。
いずれにせよ、今は人がいなくなっていたその島なんだけど、もともと集落があっただけあって、地上には住みやすいおうちもいっぱいなんだそう。
うちの商会の船も接舷させてもらって、そのおうちを宿にしてくれ、ってことらしいです。
魚の獣人さん達にしたら隣町みたいなもので、何人も感謝を込めておうちの掃除とか宴会の準備に向かったとのこと。僕たちもまたもやその島へと逆戻りです。
その夜は、お祭りでした。
海がきれいになったこと。
僕に感謝してくれるけど、これをやったのも商人だと、人族だと思うとちょっと複雑です。
あ、ちなみにミゲル商会って会頭一族はエルフ系らしいけどね。ナスカッテ国で地位の高い人ってエルフ系が多いから。
といっても人族も含まれているのは間違いないらしい。
ナスカッテ国の人は純粋な一つの人種の人って少ないらしいから。特にセスができる前まであたりは協力が大切ってことで、人種とか関係なく家族になった時代があったんだそうです。だからどこかでは別の種族の血が入ってる可能性が高いんだって。
それでも、ここ数百年は人種を気にする人も多く、平等と言いつつエルフが偉いって思っているエルフ種も多くて、地位の高い人ってエルフ系が多い、って聞いたよ。
ちなみにナグルだっけ?僕が治療した人。
あの人は見た目だけなら、僕らみたいな人族っぽかったです。
お祭りは楽しいし、お魚はおいしかった。
うちの人たちも、ここの人たちと仲良くなって一緒に踊ってるし・・・
けど、なんか、精霊の愛し子様って言われるのはちょっと勘弁、なんだけどなぁ。
名前で呼んでくれる人もダー様って様付けです。
そりゃ王子になって以来様付けにも慣れたし、商会でも坊ちゃんとかアレク様、ダー様呼びも多いんだけどね。
『ダーはダーだろうが。なんて呼ばれてもな。』
僕が、宴会場の前の方、数段高いところで恭しく席を設けられて祭りを見せられて、ちょっぴりむくれていたら、僕の後ろにやってきたグレンが、言ったよ。
グレンも船から下りて、貢ぎ物?いっぱい盛られたお皿を目の前に置かれていたんだ。大きな魔物が怖かったのか、僕の後ろにお皿は置かれていたからってのもあって、食べ終わった後は僕の背もたれになってたんだけどね。
『だが、こんなところで奉られるのが勘弁だ、と言うのも分かる。さてと・・・』
グレンはそう言いながら立ち上がったよ。
もたれていた僕は慌てて上体を起こしたけど、ムグって襟首を噛まれて持ち上げられちゃった。
何するのさ!
グレンはなんだか楽しそうな感情を僕にむけながら、僕をぶら下げつつ階段をゆっくり降りていく。
ザザーって水が引くように、人が割れる。
魚の獣人さん達は半パニック状態。
息をのんで僕ら、っていうよりグレンを見ている。
あ、デデさん達戦士組はさすがに、戦闘態勢?
って、ダメだよグレン、こんなところで暴れちゃ。
僕の話にニヤッてだけ笑う感情をぶつけて、グレンは大きく縦に首を振る。
と、続けざまに上に向かった頂点で僕を空に放り投げ・・・って、エエエーーーーー!!!
ヒュー
僕の耳に風を切る音が流れる。
って、落ち着いてる場合か!
何するのさグレン!
弧を描いて落ちる僕は慌てて宙で身体をひねり、自分に重力軽減の魔法をかける。
なんとかフワッて地面に立てたけど、ったく、何するのさ。
僕の抗議の視線にフフンって感じで笑ったグレンは、悠々とお祭りで固まっていたみんなの背後へと消えていったよ。
ったく。何度も言うけど、いったいどういうつもり?
と、周りを見回す僕。だけど・・・
僕の周り。
円形に広がってみているのは、僕が落ちてくるところを避けたから?
いや、違う。
輪になって踊ってたからだ。僕はそんなダンスの輪の中心に放り投げられたんだ。
周りは子供達=成人前の人たちばっかりみたいで・・・
そういや楽しげに踊るこの子達のことを、僕ってば上から見ていたっけ?
この出来事でフリーズしていたこの子達も、僕と目が合うとゆっくりと瞬きをする。
「えっと・・・愛し子・・様?」
僕と同じぐらいの身長の女の子が、おどおどと言った。
「ダー。」
「え?」
「僕の名前はダーだよ。」
「ダー・・・様?」
「ううん。ただのダー。」
「ダー?・・・私はレレ。」
「レレ?」
「うん。ダーも・・・踊る?」
「いいの?」
その問いに答えたのはレレじゃなくてでっかい少年。
「いいに決まってるだろ!よしみんな踊ろうぜ。英雄でも愛し子様でもダーはダーだ!俺らの新しい仲間だ!」
「「「オオオオーーーー!」」」」
呼応する子供達。
「ゲネゼだ。」
子供達のリーダーらしいその子が握手を求めてきて、僕は思わず顔がほころんだ。
それを見た子供達が次々に僕の周りに集まって握手とか肩を抱いて名乗ってくれる。
中には「うまいぞ」って言いながら口に何かを突っ込んでくる子も・・・
気がつくと周りは子供達の笑顔であふれていて、いつの間にか音楽とか大人達の賑やかな語り声も。
で、僕は手取り足取りされながら、踊ったり食べたりしゃべったり・・・
ハハハ
やっぱり祭りはこうじゃなきゃ。
子供は寝ろ!なんていう無粋な大人の声に追い立てられるまで、僕らは思いっきり楽しんだんだ。
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