第203話 海への廃棄
長老さんとか、マウナさんとか、他の人もいろいろ熱弁してくれた話をまとめると、ずいぶん前、雰囲気的には50年とか?ぐらい前から、悪い人たちが、毒を海に捨て始めたんだって。
とはいっても広い海だし、捨てられたその場がちょっと影響があるものの、大勢には影響なかったから、悪口言うぐらいだったそう。
もともと魚の獣人さん達はトゼとか陸地に住まう人たちとは仲が良くなかったみたいです。魔獣との縄張り争いでも、魚の獣人さん達のほとんどは魔獣が強くない場所に移住することを良しとしたんだって。
まぁ、中には他の種族の人と一緒に戦った人もいたし、他大陸=僕らの住む大陸に移住の際には助けたりもしたらしい。
でも極力、強い魔獣とも、(彼らの言うところの)好戦的な種族の人たちとも距離をとって、静かに平和に暮らしていたんだそう。
で、戦い続ける人たちのことをよく思っていない彼らと、戦いもせずに逃げているって言う他の種族の人たちとは、まぁ対立していた?お互いに嫌っていた?そんな感じだったみたいです。
その延長で海にポイ捨てしちゃう人たちに憤りは感じつつも、静観していた彼らだったけど、ここ数年で黙っていられない状況が多発したらしい。
ポイ捨ての量が極端に増え、危険度が増し、その影響で海の魔物が凶暴化したり、そもそも海の水が毒みたいになっちゃって、人も魔物もそこに長くいるとおかしくなっちゃうってことで、いくつかの陸に近い集落を捨てざるを得なかったんだそうです。
今いるこの集落はもともと岸から遠く離れているってこともあって、また、船が座礁しやすいってこともあって、陸の人間がやってくることはほぼほぼなかったらしいです。
この辺りは大小、って言ってもほぼ小さい岩みたいなのからかろうじて島っていえるようなものまでたくさんあって、その中でも大きめな場所に魚の獣人の集落がいくつもあったらしい。
でも、ここ数年でその集落の数が半減しちゃった。
彼らが言うところの毒を撒かれる、ことでね。
マウナさんとか、数名の戦士達がその原因を探ったんだって。
冒険者になっている仲間から、毒を捨てたのが誰かは分かっていたらしい。
それはトゼの老舗の商会で、魔物の武具防具を作って売る、そういう商会なんだって。名をミゲル商会という。
いろんな形で、この毒の放流を止めようと、戦士達が身をやつして商会に出入りすること数年。
マウナさんはそんな中、ミゲル商会の店員として潜り込み、主にその海洋知識を披露することで、海の担当者の秘書にまで上り詰めたそう。
「あいつは、ミゲル商会現会頭の妹の息子で、ナグルという。仕事は、魔物の改良による素材の品質向上を研究する、とか言っていたけど。やつは学者を謳っているがその実化け物を産み出し、それをけしかけて弱い者いじめをするクソさ。それに欲しいと思った物は何でも手に入れないとすまない気質で、私を側に置いたのも、海洋知識だけじゃなくて、そういう目で・・・いや精霊の愛し子様に聞かせる話じゃないですね。」
なんとなく察しちゃったよ。うん。マウナさん、美人だもんね・・・
で、その毒なんだけど・・・
「この海域でも凝っております。」
「見せてもらっても?」
「・・・危険な場所です。まぁ、危険だというのは近づけば分かろうかと思いますが・・・」
長老様達、ちょっと渋った様子を見せながらも、見てくれって期待してる感じがビンビン伝わってきちゃいます。
アーチャと二人、それに気づいて苦笑い。
でも、見てこようかな、なんて気にはなってるけどね。
「でもこの数年でひどくなったってのは、なんか理由があるんですか?」
アーチャが聞いたよ。
「他の大陸の商会と手を組んだ、と言うことです。」
「他の大陸の商会?」
「たしかレッデ・・・」
「まさか、レッデゼッサ?」
「そうです。そうです。レッデゼッサ。そこと取引を始めてから、毒を大量に海に流すようになったんです。しかも陸から離れたところに放流しはじめて・・・」
口々に述べられるその話に僕とアーチャは目配せしてため息をついちゃったよ。
これって、やっぱりそういうこと?
僕らは、彼らの言う、被害地域に連れて行ってもらうことにしたよ。
そこは、この大小岩とか島のある海域の、この島からは対角線上ぐらいの位置にある島付近なんだって。
僕らは小さな船に乗ってその海域に行くことになったんだ。
で、実際、船を出してみると・・・
さぁ、この付近です、なんて声が聞こえたところだった。
この辺りまで来ると、なんだかものすごい魔力を持った魔物が泳いでいよ。
ピュー
水の塊が弾丸のように海中から飛んできたよ。
まぁ、魔物の気配はいっぱいあったから、船を底から結界でくるんでいたので問題はなかったんだけど・・・
ガブ
ハハハ。水鉄砲の後は丸かじり?
船縁をかじろうと、でっかい魚型の魔物がはねてきたよ。それも複数。
で、ギザギザの歯でがぶり、ってしようとしたけど、なんとか結界は保ったようです。
にしてもでっかい口だし、歯の内側にも、別の歯の列があるよ。
そいつらが、ガツンガツンと噛みついてきて、結界は大丈夫だろうと思ってはいても、かなり怖いです。
ビューン、バシ!
まぁ、そんなでっかい口を狙ってアーチャが弓を引いてるんだけどね。
さすがに至近距離で、威力はでっかいです。
一緒に来てたマウナさんたちによると、本当はもっと小さかったり穏やかだったりする魔物なんだって。
海が侵されて、凶暴になったし、身体も強く硬くなって、なかなか仕留められないんだそう。
まぁ、アーチャでも1本じゃ倒せない相手もいるみたいだし、意地になって風の魔法を強化して矢を放ってるよ。
でもさすがに増えてきちゃった?
「アーチャ、雷でやっつけちゃっていい?」
お魚は濡れているし、きっと効くと思うんだ。けど、気絶して終わりかもだけど・・・
そう告げる僕にアーチャはうなずいてくれたから、
「サンダーボルト!」
なんて言いながら、結界に雷を通しちゃった。
ビリビリビリビリ・・・・
はい。
うまく感電?したよ。
船を海の中まで結界で囲っていたからね。
空中で噛みついてくる魔物も、海中でちょっと離れて攻撃してくる魔物も、なんだかんだでビリビリ、です。
プカン
って、次々とお腹を上に浮いてくる魚の魔物たち。
この前出会ったときの人魚さんたちみたい、なんて思っちゃったのは内緒です。
ま、それはいいとして・・・
この辺りで僕らを攻撃してきた魔物は、ほぼほぼ静かになったみたいです。
ジャッポーン!
てことで僕とアーチャ、そして案内役の人魚姫マウナさんは、海へと飛び込んだよ。
もちろん僕らは潜水魔法を使ってね。
理由は、とうぜん海洋調査のため。
なんたってこの辺りは、危険海域の外縁らしいから。
それでも魔物の凶暴化は見ての通り。
普通なら人を襲ったりしない魚たちだったらしいしね。
マウナさんの案内で、危険海域=毒を投げ入れられた島付近へと向かいます。
徐々に濃くなる魔力。
うん海の中でも含まれる魔力って違うんだね。初めて知りました。
濃くなる魔力は、徐々にねっとりと感じていきます。
ねっとりは、徐々に濃くなっていき・・・・黒い魔力?瘴気じゃん!
恐れていた、そして予想はしていたけど、その海域は僕が言うところの瘴気に満ちていたんだ。
瘴気が滞って、死んだ魔物もチラチラ見受けられる。
ここまで来るとマウナさんが危険っぽい。
僕とアーチャはこれ以上は危険と判断して、アーチャがマウナさんを連れて戻ることにしたよ。
『ダー。本当に一人で大丈夫?』
『うん。海では初めて使うから何が起こるかわかんないけど、何かあったらアーチャが助けてくれるんでしょ?』
『それはそうだけど・・・』
『マウナさんを安全なところにお願い。キラリンとエアは僕に何かあったらアーチャにお願いね。』
姿は見えないけど、キラリンとエアが感じられるから、すぐ側にいるんだと思うんだ。
彼らの肯定の返事を感じて、僕はにっこりとアーチャにうなずいた。
アーチャはため息を一つつくと、マウナさんを促して海域を離れていった。
それを見送った僕は逆にこの瘴気の源へと進んでいく。
この黒い魔力。
間違いなく、樹海の瘴気と同じ物だ。
けど、なんでこんなに長く存在しているんだろう?
魚の獣人さん達は、もう年単位で存在してる、みたいなことを言ってたけど。
ただ、ここに何度か何かを捨てに来ていたらしいから、補充すると長持ちする、ってことなのかな?
そんな風にとりとめもなく思いつつ、僕は瘴気の中心へと近づく。
ここだ。
海の底には複数の壺。
見覚えのある壺が転がっていて、瘴気はそこから漏れ出している。
なんてことをするんだ。
そう憤りを感じる。
けど、そんな場合じゃないよね。
僕は大きく息を吸い込んで、深呼吸。
魔力をゆっくり練っていく。
かなりの広がりを見せる瘴気だから・・・
「ホーリー。」
僕は、祈りを込めて魔法を放った。
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