第202話 魚の獣人さん

 人魚のおうちは地上にありました。


 えっとね、人魚、っていうか魚の獣人さん達なんだけどね、海の中におうちがあると思って、ご招待を断ろうとしたら、おうちは陸にあるから大丈夫だよ、って。

 ただ、船はちょっと厳しい感じでした。


 彼らに案内されてちょっぴり先へ進みます。


 そしたらね、ポコポコと小さい島がいっぱいある地域に出たんです。

 小さい島がいっぱいってことは、海底も結構でこぼこしてるらしく、おかげで海流も複雑です。

 どっちかって言うと、たくさんの島って言うより、一部が海上に突き出てる沈んだ島、みたいな印象、かな?


 船が座礁したら危ないし謎の島に危険が無いとも言えないから、ってことで商人チームは船でお留守番することになったよ。

 僕とアーチャだけでお邪魔します。


 てことで、島からちょっぴり離れた、海底の影響を受けないところで船は停泊。

 いろいろ魚の獣人さん達から新鮮な食べ物も差し入れられたので、宴会して待ってるって送り出されちゃいました。



 僕とアーチャは、獣人さん達が背中に乗っけて運んでくれるって言われたんだけどね、自力で海中移動したよ。潜水魔法っていう、風の魔法の応用で、僕らは水の中の移動もへっちゃらなんです。

 これには人魚さん達もびっくりしてたよ。

 人族とかエルフ族が海を自由に移動するのなんて聞いたことがないんだって。

 練習すれば誰でもできそうだけどね。実際練習して、僕の周りではできる人けっこういるよ?



 人魚こと魚の獣人さんは、獣人さんって言うだけあって、魚っぽいシルエットです。ただ、僕のイメージとちょっと違うのは鱗はないんだ。鱗じゃ無くてつるんとした肌をしています。ほら、イルカとかをイメージすればわかりやすいかな?

 あと人によっては短い毛で覆われていて、前世で言う海獣系の肌感に近いかも。

 そんなだから上半身人で下半身魚のイメージとはかけ離れていて、むしろ自然に繋がっています。

 ただ、顔は魚より人間寄りっていうか、エルフ寄り?あとは腕なんだけど、腕はひれではなくて、僕らと同じような腕があります。


 足は・・・

 あります。

 普通に2足歩行できる長い足があるんだ。

 でね、肌と肌をぴったりとくっつけるとまるで1本の尾っぽくなるんだ。

 えっと、バレエ、踊る方のクラシックバレエで、1番の足、って分かるかな?

 左右のかかととかかとをくっつけて、つま先を外に向け一直線にする足の形なんだけどね、そのとき、膝は曲げずにできるだけ足の隙間を空けないようにピンとくっつけてまっすぐ立つ形。

 ああいう感じに両足をまっすぐにしてくっつけると、肌質の影響で1本足みたいになるんだ。ビニールの浮き輪を2つくっつけるとピタッてひっつくでしょ?あんな感じ。

 水の中では足をそうやってくっつける。

 ちなみに足=足首より先の部分ね、は、僕らよりでかくて薄いんだ。それに柔らかい。

 そんな足をひらひらさせたら、魚の尾びれみたいに動かすことができるらしい。

 足首の可動域も他の人種より大きいって教えてくれました。



 なんて話を、集落についた後、聞いてたんだけど、アーチャでもそんな生態は知らないみたいで、興味津々だったよ。


 家は、結構いろいろで、多いのが、崖をくりぬいて住居にしてるやつかな?

 あとは陸地では木を組んでるのもあるし、土を盛り上げて作ってるのもある。


 なんかね、ちょっぴりジメッとしているのがいいんだって。

 石は土台には使うこともあるけど、直射日光が当たって乾くと、水分がなくなっちゃうからあまり使わないんだそうです。

 あとは、床はほぼ作らず土間。土間には水を含ませておくそうです。踏んでも水が出ないレベルでね。


 食事は僕らとおんなじです。

 ただ、海に囲まれてるし、小さな島だから大きな獣はいないので、肉より魚が多いって感じ。あとは農作物はほとんどできなくて、かろうじてなっている草とか木の実、海藻なんかがビタミン源みたいだね。


 あと、割と出稼ぎに人間の町=ここらだとトゼとかにも出没はしてるらしいです。穀類とか、お肉や野菜はそうやって調達もするんだって。

 服を着て、ブーツを履いたら、他の種族と紛れちゃう。僕らみたいな人族か、ナスカッテ国には多いエルフの血が入った人種って思われるみたい。

 一応ナスカッテっていう国では人種間の偏見はないってことになっていて、特にどんな種族の血が入ってるか、って聞くのはタブーなんだそうで、種族を聞かれたらにっこり笑ってスルーすれば誰にも魚の獣人だって気づかれない、って笑ってたよ。むしろ虐げられている獣系の獣人さん達の方が暮らしづらそう、って言ってました。



 ちょっとしたお食事でおもてなしを受けつつ、そんなお話しをしていた僕たち。


 ただ、チラッチラッて、彼らが目配せしている様子から、何かを言いたいんだろうな、ってのは分かっちゃってました。

 そりゃ、もともと救世主だなんだ、ってお腹見せられて連れてこられたんだもん、何かあるんだろうって分かるよね。



 「それで・・・僕らに用があるんですよね?」


 話が途切れた時にアーチャと視線を合わせた僕は、長老さんらしいその人に、そう問うたんだ。


 それをきっかけに、雰囲気がちょっぴり変わって、人が呼ばれたよ。

 あ、集落にはそこその数、家はあるんだけど、一つ一つは小さいから、大きめとはいえ僕らが招かれた家には、たぶんそれなりに偉い方だけが集まった感じだったからね。


 新しく呼ばれた人たちってのは、多分戦士系の役割を果たしてるんだろうな、って感じの雰囲気の人たちだった。


 あ・・・


 僕は、その中のある人を見て、ちょっと驚いたよ。

 いや、いてもおかしくはないんだけど、ね。


 「やはり、私が見えていたのですね。先ほどは申し訳ありませんでした。」


 うん。

 僕が治療した人を刺した、女の人。

 その人が僕に深々と頭を下げたんだ。


 「えっと・・・船で男の人を刺した人、だよね?」

 「はい。マウナ、と申します。あの人間を殺したのは私です。」

 「あ・・・えっと・・・多分あの人死んではいない、かな?」

 「え?背後からとはいえ心臓を刺したのです。鍛えてもいないあやつが生きているはずは・・・」

 「えっと、ごめん。僕が治した。」

 「!!」


 僕の言葉に、彼女だけじゃなくて、みんな息をのんだみたい。

 治癒系の魔法って使える人が少ないからびっくりしちゃったかな?

 でも、殺したって堂々と言っちゃうし、それを悪いこととは思ってなさそうで、なんていうか、ちょっと反応に困っちゃいます。謝ったのは逃走時に僕らと敵対しちゃったからそのことについてだよ、ってのが言わなくても伝わっちゃったよ。


 「・・・そうですか。殺せませんでしたか・・・」


 マウナさんはすっごく悔しそうな顔をして唇を噛んじゃった。


 「その・・・なんで、殺そうとしたの?」

 「きゃつらが海に死を撒いたからです。」

 「海に死を撒いた?」

 「そうでございます。そのことで、精霊の愛し子様にご助力をいただけぬかと、ここまでご足労願いましてございます。」

 僕の問いに、そう、長老さんが口にしたんだ。

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