第198話 妖精のもたらした話では・・・

 それからは何事も無く無事にクッデ村へ・・・


 て、なる予定だったんだけどね。



 北に向かうこと2日。

 その日も、帆に風を当てていた僕の目の前に、突然キラリンが現れた!

 て、そういや船に乗ったときにはいたような気がする。


 森の精霊の下で生まれた妖精のキラリンは、ううんキラリンだけじゃなくて、エアも含めた妖精ってのはとっても気まぐれ。

 急に消えたり現れたり。

 でも呼べばこの2人、つまりはキラリンとエアはいつでも側に来てくれるんだけどね。聞いたら、この2人、僕に名前をもらったから、僕のことをずっと感じていられるんだって。なんか、グレンも大体わかるぞ、なんて言ってました。

 僕からは、うーん、そこまでわかんないかな?



 いったい、いつからいなかったんだっけ?て考えていたら、グレンが

 「ダットンをやっつけたときだな。」

 なんて言います。

 知ってたんだ?


 「そいつが、あの獣人を追いかけていったからな。」


 ・・・・


 初耳なんだけど?


 キラリンとの意思の疎通はちょっぴり難しいです。

 言葉が無いんだよね。感情だけで会話する感じ?

 エアとは割と話せます。僕以外ともおしゃべりするし。

 ただ、妖精独特の感性で、あれ?通じてない?なんてことも多々あるけれど・・・


 キラリンとグレンは仲良しです。

 二人とも森の精霊から力を分けられているから、グレンとキラリンはわかり合っている?のかな?よくわかんないけどね。

 たまぁにグレンがキラリンの言ってることとか通訳っぽいことをしてくれるよ。通訳っていうより解説、かな?

 今もなんか二人で会話?意思の同調?そんなことをやっているみたいだね。


 「ダーよ。妖精はどうやら、ダーの言う瘴気を感じて、ついて行ったようだ。たどりついたところに島があって、その島にやつらの縄張りがある。その島の近くに瘴気を放つ何かがあって、そのせいで海が汚れ、仲間がずいぶんと死んだ。あの雌はその敵討ちをしたようだな。」


 ・・・


 情報が多すぎです。


 でも、瘴気を放つ何かがあって、それが海を汚してるって?

 そのために、たぶん魚の獣人さん達が死んじゃってるってこと?

 敵討ち、ってことは、それが人の手によるもので、その犯人が刺され・・・て、それって僕が治療した人ってこと、なのかな?



 僕は慌てて、キラリンが言ってるらしい情報を、みんなに伝えたよ。

 もし敵討ちのつもりだったとしたら、あの人を助けた僕は、それを邪魔した悪い子になる、のかな?

 僕がいなかったら、きっとあの人は助からなかっただろうから・・・


 「ダーは悪くないよ。たとえ敵でも、ダーだったらできるだけ死なさずに頑張るでしょ?目の前で助けられる命なら、敵だって一生懸命治してあげる。違う?」


 落ち込む僕に、アーチャはそんな風に声をかけてくれたよ。


 確かにそうだと僕も思うけど・・・


 「ねえ、ダー君。その刺した人たちや他の仲間の人は、敵討ちをして喜んでいたの?あそこで逃げちゃったんだもの。ダー君が治療したこと、知らないでしょ?だったら成功したって思ってるよね?」

 パッデが言います。

 それは・・・・


 パッデの話を聞いて、僕の頭に暗い感じの魚の獣人さん達の様子が浮かんだよ。キラリンが自分の見た光景を僕に思い出して見せてくれたみたい。

 敵討ちよりも、この状態をなんとかしなくちゃ。

 このままだとみんな弱って、死んじゃう。

 そんな焦りの心情とともに、ね。


 「みんな敵討ちよりも、瘴気をなんとかはなくちゃ被害がひどくなるって思ってるみたい。」

 僕は、その光景を感じて、そんな風に言う。

 「だったら、ダー君の考えるのは敵討ちを邪魔したことじゃなくて、彼らを助けたいかどうか、助けられるかどうか、ってことじゃないかな?」

 そう言ってパッデは僕の頭を撫でたんだ。



 「坊ちゃんは、彼らを助けたいのかい?いや坊ちゃんならなんとかできる、と思っているのか?」

 メンダンさんもそんな風に言ったよ。



 うん、僕は助けたい。

 獣人さん達だけじゃなくて、このままでは海の中が瘴気でどんどんダメになっちゃいそう。

 でも・・・・


 もし本当ならホーリーがいると思うんだ。

 ホーリーを知っている人はほんの一握り。

 商会の人も知っている人は少ない。

 これを、教えちゃったら・・・


 !


 と、そのとき、まるで、僕の迷いを感じたように、僕のベルトのとある魔石が光ったんだ。

 それはママの魔力を封じ込めた魔石で、ベルトに込められた魔法陣を通して、遠く離れた人と念話ができる魔導具の動力になっている。

 ママの魔石が光ったのは、ママから念話が来たってことで・・・・


 『ダー、元気?』

 『ママ!』

 『フフ。良い子にしてる?』

 『うん。でもどうしたの?』

 『うーん、なんとなくダーとおしゃべりしたくなったの。ダーは私のダーだからね。』

 『ママ・・・』


 僕はちょっと泣きそうになったよ。

 でももうお兄ちゃんだから、泣いたりしないんだ。


 『ダーのこと、ママは大好きだからね?それとダーが大好きな人はママも大好きよ。大好きな人には秘密なくてもいいんだよ?』

 『え?!』

 『ダーは良い子だから内緒のお話は内緒にしようと思うでしょ?でもダーがやりたいことに内緒が邪魔なら、大好きな人にまで内緒にしなくて良いの。ちなみにママは、宵の明星のみんなも商会のみんなも家族だと思ってるから、ダーと同じように大好きよ。』


 ・・・・


 ママは、やっぱりママです。

 僕の迷いとか、すーって寄り添ってくれるんだもの。


 そうだよね。

 僕にとってナッタジ商会の人たちはみんな家族で大切で大好きな人たちだもの。

 内緒にしなくったっていいんだよね。


 『もしダーが気になるならはじめに言ってごらん。ダーはこれから内緒の力を使うから、見たくない人は離れていて、って。ママがそれでいいって言ってる、ってね。内緒を知っちゃうと、責任とか危険とかがくっついてきちゃうからね、それを押しつけちゃダメよ。商会と関係ないことをお願いするんだから、それは誠意を持って、ね。』

 『・・・ホーリーを使うかもしれないんだ・・』

 『うん。』

 『いいの?』

 『ダーがいるって思うならいいよ。周りの人にはちゃんと気を使ってね。アーチャのいうことよく聞くんだよ?』

 『もちろん!』

 『フフ。無理しないでね。』

 『分かった。』

 『じゃあまたね、ばいばい。』


 ・・・・


 僕は、やっぱりママはすごいな、って思いました。



 「ママはなんて?」

 念話が終わったのを見て、アーチャが優しく聞いてきたよ。

 「ホーリー、良いって。アーチャの言うこと聞いてって。それと、宵の明星のみんなも商会のみんなも家族だって。秘密のことは・・・知りたくない人に気を配らなきゃダメだって。」


 僕がたどたどしく言うのをアーチャは聞いていて、そんな僕らの会話を他の人たちも聞いている。


 商会のみんなも家族、って言ったときは、みんなうれしげで、ちょっぴり目に雫が、な人までいたよ。


 「そっか。よし。で、ダーはどうしたい?助けに行く?」

 「うん、行きたい。もし瘴気で困ってるなら、それが人がやったものなら、なんとかしなきゃ。」

 「そうだね。・・・てことで、みなさんすみません。ちょっと寄り道いいですか?」

 「ハハハ。そりゃ会頭様のお墨付きだ。否も応もないさ。さてと、やろうども、進路変更、で、どっちへ舵取りをすればいいんで?」

 「キラリン、道案内できる?」


 もちろん!


 そんな思考を送ってくる。


 僕の魔力をいっぱいもってって、キラリンが飛び上がったよ。

 光る玉が、いつもよりずっと大きく、ずっと輝いて船の前へと舞い上がる。


 ヨーソロー


 輝く玉に導かれて、僕らの船はまだ見ぬ海域へと、船首を向けたんだ。

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